扶養の仕組みを徹底解説|労務担当者向け健康保険と税務上の扶養の違いについて

「扶養」という言葉は、家族の生活を支援するという共通の意味を持っていますが、「健康保険上の扶養」と「税務上の扶養」では、その定義や要件、適用の目的が異なります。

以下では、労務初心者やもう一度仕組みを振り返りたい方に、それぞれの制度について詳しく説明し、具体的な要件やメリット、手続きの違いを比較します。

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健康保険上の扶養

健康保険の目的

健康保険は、加入者とその家族が病気やケガ、出産などの際に医療費の負担を軽減すること(加入者同士の助け合い)を目的としています。このため、被保険者(主に企業に勤める社員)の家族も、条件を満たせば保険料を負担することなく「被扶養者」として健康保険の対象となることができます。

健康保険の扶養対象者

  • 扶養の対象となる家族の範囲: 配偶者、子ども、孫、兄弟姉妹、または直系尊属(親や祖父母など)が対象。ただし、同居の有無や生活の依存状況で範囲が変わります。
  • 同一世帯の場合の条件:認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である場合は被扶養者となります。なお、上記に該当しない場合であっても、認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入を上回らない場合には、その世帯の生計の状況を果たしていると認められるときは、被扶養者となる場合があります。
  • 同一世帯でない場合の条件:認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上またはおおむね障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者からの援助による収入額より少ない場合には、被扶養者となります。
健康保険の扶養の範囲

世帯分離の場合の健康保険の扶養について~健康保険の扶養条件の再確認も含めて~

以前、従業員の方から、「親と世帯分離の場合は健康保険の扶養に入れるのか?」という問い合わせを受けました。

インターネットで他のサイト見ると、実の親は OK だけど義理の母親はだめだ、とかいう書き込みもあり、よくわからないので 年金事務所に電話してみました。

「世帯分離とは文字通り別世帯です」と普通の同居とは違うようです。

電話すると当たり前のように「世帯分離とは文字通り別世帯です。 扶養などの年収条件の他に、仕送りなどの別住所と同じ対応が必要となります」と言われました。

インターネットなどの書き込みと違う内容なので、その担当者独特であり、それぞれの担当者によって異なる判断が出てきそうで怖いところです。念のため、別の住所と同じ形で仕送り証明などの扶養の事実を作っておけば間違いはないかと思います。

健康保険の扶養によるメリット

  • 保険料の免除: 被扶養者は個別に保険料を支払わずに医療費の保障が受けられます。
  • 医療費の軽減: 医療機関での自己負担額が2〜3割になるため、家族の医療負担も軽減されます。

手続き

被扶養者として健康保険に加入するためには、勤務先を通じて申請が必要です。扶養対象者の収入証明や住民票などの提出が求められます。

税務上の扶養

税務上の扶養の目的

税務上の扶養控除は、納税者が生活費を支える家族(扶養親族)を抱えている場合、その負担を考慮して所得税や住民税を軽減する制度です。

税務上の扶養対象者

税務上の扶養対象者は、次の4つの要件のすべてに当てはまる16歳以上の人です。

  • 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族をいいます。)または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
  • 納税者と生計を一にしていること。
  • 年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
  • 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと。

税務上の扶養控除の金額

区分控除額
一般の控除対象扶養親族38万円
特定扶養親族(19歳以上23歳未満の扶養親族)63万円
老人扶養親族(年齢が70歳以上の扶養親族)同居老親等以外の者48万円
同居老親等58万円

税務上の扶養によるメリット

  • 所得税の控除: 一般的な控除額は38万円ですが、特定扶養親族の場合は63万円となるなど、条件に応じて控除額が変わります。
  • 住民税の軽減: 所得税と同様、扶養親族がいることで住民税も軽減されます。

手続き

年末調整や確定申告の際に「扶養控除申告書」を提出し、扶養親族の情報を申告します。扶養親族の収入証明書などの提出が求められることもあります。


健康保険と税務上の扶養の違い

項目健康保険上の扶養税務上の扶養
目的医療費の負担軽減税負担の軽減
年収条件130万円未満(60歳以上または障害者は180万円)103万円以下
対象者の範囲配偶者、子ども、親族(同居条件等あり)配偶者以外の親族(16歳以上)
同居の要件一部の親族に必要原則として不要
メリット保険料不要、医療費の負担軽減所得税・住民税の軽減
手続き勤務先を通じて申請年末調整や確定申告で申告

まとめ

健康保険上の扶養と税務上の扶養は、目的や要件、メリットにおいて異なります。健康保険の扶養は、医療費の負担を軽減し、家族全員が医療サービスを安価に受けることができるようにするための制度です。一方、税務上の扶養は、家族を経済的に支えている納税者の税負担を軽減することを目的としています。

それぞれの制度を正しく理解し、家族の状況に応じて適切に手続きを行うことで、保険料や税金の負担を最小限に抑えることが可能です。特に、共働き世帯や高齢の親族を扶養する場合は、両制度の違いを把握し、最大限のメリットを享受できるようにすることが重要です。

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