退職金規程のサンプルと作り方|計算方式・掛け率・条文サンプルから届出までを解説

「退職金規程を新たに作りたいが、どこから手をつければいいか分からない」「サンプルを参考にしたいが、自社の実情に合わせる方法が分からない」──そんな悩みを抱える総務・人事担当者の方は少なくありません。

退職金は法律上の支払義務はありませんが、いったん制度を設けると法的拘束力が生じます。規程の内容次第では従業員とのトラブルにもつながるため、最初にしっかりとした規程を作ることが大切です。

この記事では、退職金規程の作り方を法律の基本ルール・計算方式の選び方・掛け率の設計・条文サンプル・届出手順まで、実務担当者向けに分かりやすく解説します。なお、退職金の支給時に必要な税務処理や手続きの全体像については退職金の会社側の手続き入門~概要・計算方法・税務処理を解説もあわせてご覧ください。

タップできるもくじ

退職金規程とは?就業規則との違いを整理する

退職金規程とは、退職金制度を設ける会社が、支給条件・計算方法・支払時期・不支給事由などを定めた社内規程のことです。

退職金の支払いは会社の義務ではない

まず大前提として、労働基準法には退職金の支払いを義務付ける規定はありません。退職金制度を設けるかどうかは、会社が自由に決定できます。

ただし、いったん就業規則や雇用契約書に退職金を支給する旨の定めを設けると、その定めは労働条件(賃金)となり、会社には定めた通りに支払う義務が生じます(労働基準法第11条・第89条)。制度を設けるかどうかは慎重に判断してください。

退職金制度を設けたら就業規則への記載が法律上の義務

退職金制度を導入している場合、労働基準法第89条第3号の2により、就業規則に以下の事項を必ず記載しなければなりません。これを「相対的必要記載事項」といいます。

  • ① 適用される労働者の範囲
  • ② 退職手当の決定、計算および支払の方法
  • ③ 退職手当の支払の時期

常時10人以上の労働者を雇用する事業場では、就業規則を作成し管轄の労働基準監督署に届け出る義務があります(労働基準法第89条・第90条)。退職金規程以外の規程の届出義務については就業規則以外の規程、どこまで労働基準監督署へ届出が必要?で詳しく解説しています。

就業規則本体に書くか、別規程にするか

退職金に関するルールは、就業規則本体に盛り込む方法と、「退職金規程」として独立した別規程を作成する方法の2つがあります。

方法メリットデメリット
就業規則本体に記載管理が一元化できる就業規則が煩雑になる
別規程として作成内容を詳細に定めやすく、変更しやすい就業規則の一部であることを明記する必要がある

中小企業では「退職金規程」として別規程を作成するケースが一般的です。ただし、その場合も「就業規則第○条に基づき、この規程を定める」と明記し、就業規則の一部であることを示す必要があります。また、別規程として作成した場合でも労働基準監督署への届出義務は変わりません。

退職金規程がなくても支払義務が生じるケース(慣行による支払義務)

成文の規程がなくても、長年にわたって退職金を支払ってきた「慣行」がある場合、その慣行が労働契約の内容になり、支払義務が生じることがあります(東京地裁 1995年6月12日「吉野事件」)。

裁判例では、以下の2つの要件がそろった場合に慣行による支払義務が認められています。

  • ① 規範意識:会社と従業員の双方が「払わなければならない」と認識していること
  • ② 算出可能性:一定の基準によって退職金額が算定できること

【ポイント】退職金を支給しない場合は明記が必要

思わぬトラブルを避けるためにも、退職金制度を設けない場合は「弊社には退職金制度はない」旨を就業規則に明記しておくことが重要です。明記しておけば「慣行による支払義務」の主張を退けやすくなります。

労働基準法が定める「必ず記載すべき3つの事項」

退職金制度を設ける場合、就業規則または退職金規程に必ず盛り込むべき3つの事項を詳しく解説します。

① 適用される労働者の範囲

誰に退職金を支給するのかを明確に定めます。主な検討事項は以下のとおりです。

  • 雇用形態(正社員のみ、契約社員・パートも含むかどうか)
  • 支給対象となる最低勤続年数(例:勤続3年以上)
  • 役員・嘱託社員の扱い

「正社員のみ」と定めること自体は問題ありませんが、パートや契約社員を一律に除外する場合は、パートタイム・有期雇用労働法第8条(不合理な待遇差の禁止)に抵触しないか確認が必要です。

② 退職金の決定・計算・支払方法

退職金の金額をどのように決め、どのように計算し、どのように支払うかを明記します。具体的には以下の事項が必要です。

  • 計算方式(基本給連動型・別テーブル型・ポイント制など)
  • 支給率テーブル(勤続年数・退職理由別の係数)
  • 支払方法(銀行振込・小切手など)
  • 不支給・減額事由

③ 退職金の支払時期

「退職日から○か月以内」など、具体的な支払期限を明記します。法律上の明確な定めはありませんが、実務上は「退職後1か月以内」または「退職後3か月以内」とするケースが多く見られます。

支払時期を定めていない場合、従業員から退職直後に全額請求される可能性があります。資金準備の観点からも、余裕のある期限設定をお勧めします。

退職金の計算方式は4種類 ─ 自社に合った方式を選ぼう

退職金の計算方式には主に4種類あります。それぞれの特徴を比較して、自社の規模・人事方針に合ったものを選びましょう。

① 定額制

勤続年数に応じた固定額を支給する、最もシンプルな方式です。

【例】定額制の支給額テーブル

勤続3年:30万円 / 勤続5年:60万円 / 勤続10年:150万円 / 勤続20年:350万円 / 勤続30年:600万円

シンプルで分かりやすい半面、役職や個人の貢献度が退職金額に反映されないのがデメリットです。従業員数が少ない小規模企業に向いています。

② 基本給連動型(給与比例制)

退職時の基本給に、勤続年数に応じた支給係数を掛けて計算する方式です。中小企業に最も広く普及しています。

【計算式】退職金 = 退職時の基本給 × 支給係数(勤続年数・退職理由による)

従業員にとって計算が分かりやすいメリットがある一方、ベースアップを実施すると将来の退職金コストが想定以上に膨らむリスクがあります。

③ 別テーブル型

勤続年数・役職・等級などを基準とした独自の「退職金テーブル」(算定基礎額の表)を設け、退職事由別係数を掛けて計算する方式です。

【計算式】退職金 = 基準額(テーブルによる)× 退職事由別係数

給与水準の変動に影響を受けにくく、将来の退職金コストを見通しやすいのが特徴です。給与制度の変更時に退職金規程を見直す必要がないため、中小〜中堅企業での採用が増えています。

④ ポイント制

勤続年数・役職・等級・人事評価などをポイントに換算し、累計ポイント数に応じて退職金を支給する方式です。

【計算式】退職金 = 累計ポイント × 単価 × 退職事由別係数

会社への貢献度を細かく反映できる一方、制度設計と運用が複雑になります。近年、大企業を中心に基本給連動型からの移行が進んでいます。

計算方式メリットデメリット適した規模
定額制最もシンプル貢献度が反映されない小規模企業
基本給連動型従業員に分かりやすいベアで退職金が膨らむリスク中小企業全般
別テーブル型コスト管理しやすいテーブル設計に工数がかかる中小〜中堅企業
ポイント制貢献度を細かく反映設計・運用が複雑中堅〜大企業

掛け率(支給率)の決め方

計算方式を決めたら、次に「どの退職理由でいくら払うか」を支給率テーブルとして設計します。ここが退職金規程の核心部分です。

勤続年数テーブルの設計方法

基本給連動型の場合、勤続年数ごとに支給係数(支給月数)を設定します。一般的には、勤続年数が長くなるほど係数が高くなる「逓増方式」が採用されます。

支給対象となる最低勤続年数は「3年以上」とする企業が最多です。3年未満での退職が多い場合は「5年以上」とするケースもあります。

勤続年数定年退職・会社都合(係数)自己都合(×0.6後の係数)
3年1.50.9
5年2.51.5
7年3.92.3
10年6.03.6
15年10.56.3
20年16.59.9
25年24.014.4
30年31.518.9
40年42.025.2
43年以上44.126.5

※係数の単位は「退職時基本給の○か月分」。自己都合退職は定年退職・会社都合の係数に0.6を乗じた額とする設計例。上記はあくまでも例示です。自社の財務状況・人員規模・給与水準に合わせて設計してください。

退職理由で掛け率を変える ─ 定年・会社都合・自己都合の違い

退職理由によって支給率(掛け率)を変えるのが一般的です。定年退職や会社都合退職を基準(1.0=100%)とし、自己都合退職は低めに設定します。

退職理由係数の目安備考
定年退職1.0(100%)基準値
会社都合退職(整理解雇・勧奨退職等)1.0〜1.2(100〜120%)割増支給も可
死亡退職1.0〜1.5(100〜150%)遺族へ支給
障害退職(業務上)1.0〜1.5特例加算も検討
自己都合退職0.6(60%)が一般的勤続年数にかかわらず一律の係数を乗じる方式が多い
懲戒解雇0〜0.5(0〜50%)規程で要明記

自己都合の減額割合はどこまで設定できる?

自己都合退職の場合に掛け率を下げること自体は適法ですが、あまりにも低い設定は公序良俗違反として無効になるリスクがあります。

裁判例では「退職金には賃金の後払い的性格がある」として、極端な不支給・減額は認められにくい傾向にあります。実務上は会社都合の60%(係数0.6)を一律に乗じる方式が広く採用されており、50〜80%程度が相場の範囲とされています。

不支給・減額規定の書き方と注意点

不支給・減額規定は書き方を誤ると無効と判断されるリスクがあります。以下の点に注意して条文を作成してください。

懲戒解雇時の不支給条項 ─ 規程がなければ払う義務がある

懲戒解雇の場合であっても、退職金規程に不支給の定めがなければ退職金を支払う義務があります。「懲戒解雇になったのだから払わなくていい」という判断は誤りです。

また、不支給が認められるのは「著しい背信行為」がある場合に限られます。形式的に懲戒解雇事由に該当するだけでは、全額不支給が認められないケースもあります。

実務上は、次の内容を規程に明記しておくことが有効です。

  • 懲戒解雇された場合の不支給・減額
  • 「懲戒解雇に相当する非違行為」があった者(諭旨退職等で処理されたケース)も対象とする
  • 退職後に在職中の非違行為が判明した場合も対象とする

競業避止義務違反と退職金返還請求

退職後に同業他社へ転職した場合や、独立して競合事業を行った場合に退職金の減額・返還を求める条項を設けるケースがあります。

ただし、退職金には「賃金の後払い」「在職中の功労に対する報償」という性格があるため、競業避止義務違反を理由とした大幅な削減・全額没収は裁判で認められないケースが多いです。

条文に盛り込む場合は、対象とする競業の範囲・期間・職種を合理的に限定したうえで、退職金規程に加えて退職時の個別誓約書を取得する運用を組み合わせることをお勧めします。

退職後に懲戒事由が判明した場合の条文例

退職後に在職中の不正が発覚するケースもあります。対応できるよう、以下のような条文を盛り込んでおくことが重要です。

【条文例】退職後の非違行為判明時の対応

「退職後において、在職中の行為が懲戒解雇事由に該当することが判明した場合、会社は退職金の全部または一部を支給しないことができる。すでに退職金を支給済みの場合は、その全部または一部の返還を請求することができる。」

退職金規程サンプル ─ 条文例と支給率テーブル

退職金規程の全体構成(条文一覧)

退職金規程の一般的な条文構成は以下のとおりです。

  • 第1条 目的
  • 第2条 適用範囲
  • 第3条 退職金の支給
  • 第4条 退職金の計算
  • 第5条 支給率(別表)
  • 第6条 退職金の支払時期
  • 第7条 退職金の不支給・減額
  • 第8条 功労金(任意)
  • 第9条 退職金からの控除
  • 第10条 改廃

主要条文のサンプル(基本給連動型の場合)

【退職金規程 条文サンプル】

(目的)
第1条 この規程は、就業規則第○条に基づき、従業員の退職金に関する事項を定めることを目的とする。

(適用範囲)
第2条 この規程は、正社員(期間の定めのない雇用契約を締結している者)に適用する。ただし、勤続年数が3年未満の者および嘱託社員には退職金を支給しない。
2 死亡による退職の場合は、従業員の遺族に退職金を支給する。遺族の順位・範囲は労働基準法施行規則第42条から第45条の定めるところによる。

(退職金の計算)
第3条 退職金は、退職時の基本給に別表の支給係数を乗じた額とする。
  退職金 = 退職時の基本給 × 支給係数(別表による)
2 会社都合以外の自己の都合により退職するときは、前項によって算出した金額に0.6を乗じた額とする。
3 就業規則の規定により休職する期間は、会社都合による場合を除き、勤続年数に算入しない。

(支払時期)
第4条 退職金は、退職日から3か月以内に支払う。ただし、特別の事情がある場合はこの限りでない。

(不支給・減額)
第5条 次の各号のいずれかに該当する場合は、退職金の全部または一部を支給しないことができる。
 一 懲戒解雇されたとき
 二 諭旨解雇されたとき
 三 禁固以上の刑に処せられ、解雇されたとき
 四 自己の重大な過失により解雇されたとき
 五 勤務に忠実でなく、または不正の行為により退職したとき
 六 在職中の行為に、上記各号に相当する事由が退職後に判明したとき
2 前項の規定によりすでに退職金を支払った場合は、その全部または一部の返還を請求することができる。

(功労金)
第6条 従業員が退職するにあたり、在職中の功績が特に顕著であると認められる場合は、別に功労金を支給することができる。功労金の支給額はその都度決定する。

(退職金からの控除)
第7条 退職金から控除するものは、源泉所得税、住民税(特別徴収分)および会社に対する本人の債務額とする。

(改廃)
第8条 この規程の改廃は、取締役会の決議による。

支給率テーブルの記載例(別表)

勤続年数支給係数自己都合(×0.6)勤続年数支給係数自己都合(×0.6)
3年1.50.923年21.012.6
4年2.01.224年22.513.5
5年2.51.525年24.014.4
6年3.21.926年25.515.3
7年3.92.327年27.016.2
8年4.62.828年28.517.1
9年5.33.229年30.018.0
10年6.03.630年31.518.9
11年6.94.131年32.719.6
12年7.84.732年33.920.3
13年8.75.233年35.121.1
14年9.65.834年36.321.8
15年10.56.335年37.522.5
16年11.77.036年38.423.0
17年12.97.737年39.323.6
18年14.18.538年40.224.1
19年15.39.239年41.124.7
20年16.59.940年42.025.2
21年18.010.841年42.725.6
22年19.511.742年43.426.0
  43年以上44.126.5

※係数の単位は「退職時基本給の○か月分」。自己都合退職の場合は上記係数に0.6を乗じた額。勤続1・2年は支給なし(3年未満は対象外)。上記はあくまでも設計例です。自社の財務状況・人員構成に合わせて調整してください。

中退共を利用する場合の規程例

中小企業退職金共済制度(中退共)を利用する場合は、会社が直接退職金を積み立てるのではなく、中退共に掛金を払い込む形になります。退職金の支払いは中退共が直接従業員に行うため、会社の事務負担が大幅に軽減されます。

【中退共利用時の退職金規程 条文例】

第1条 退職金の支給は、中小企業退職金共済法に基づき中小企業退職金共済事業本部(以下「中退共」という)と締結した退職金共済契約によって行う。
第2条 退職金は中退共から直接従業員に支払われる。
第3条 掛金は会社が全額負担し、従業員に負担させない。
第4条 支給額は中退共の規定による。

退職金規程の作成から届出・周知までの手順

STEP
制度設計の方針を決定する

まず、退職金制度の基本方針を決めます。具体的には、算定方式(基本給連動型・別テーブル制・ポイント制・中退共連動型)の選択、退職金の原資をどう確保するか(社内積立・中退共・DB・DCなど)、支給水準の目安(定年退職時の目安額)を検討します。

経営層とよく協議し、「自社にとって無理のない範囲で、従業員にとって魅力のある制度」を目指しましょう。

STEP
支給率表・掛け率を設計しシミュレーションする

支給率表と退職事由係数のドラフトを作成したら、必ず実際の従業員データを使ったシミュレーションを行います。「基本給○万円・勤続○年・自己都合退職」というパターンを複数作り、支給額が妥当かどうかを検証してください。

特に確認すべきポイントは、定年退職者の退職金総額が会社の資金力に見合っているか、自己都合退職時の金額が引き留め効果として機能するかの2点です。

STEP
規程の条文を作成する

前章で紹介したサンプル条文をベースに、自社の実情に合わせた退職金規程を作成します。厚生労働省のモデル就業規則や中退共のひな形も参考にするとよいでしょう。

退職金の額が高額になることや、将来のトラブルを防ぐ観点から、社会保険労務士や弁護士にリーガルチェックを依頼することを強くおすすめします。

STEP
従業員への説明と意見聴取

退職金規程は就業規則の一部となるため、労働基準法第90条に基づき、労働者の過半数を代表する者の意見を聴取する必要があります。労働組合がある場合は、その労働組合の意見を聴きます。

新規に退職金制度を導入する場合は従業員にとって有利な変更なので反対は少ないですが、丁寧な説明を行い、「意見書」を書面で取得しておきましょう。

STEP
労働基準監督署への届出と周知

退職金規程を作成(または変更)したら、所轄の労働基準監督署に届出を行います。届出には以下の書類が必要です。

  • 就業規則(変更)届(様式は任意。表紙的な書類)
  • 退職金規程の本文
  • 労働者の過半数を代表する者の意見書

届出後は、従業員がいつでも閲覧できるように周知してください(労働基準法第106条)。社内掲示、書面の交付、社内ポータルへの掲載などの方法があります。退職時に従業員へ渡す説明文のテンプレートは退職時の会社からの説明文テンプレートを参考にしてください。

退職金規程を変更・廃止するときのルール

就業規則の不利益変更に該当する場合の注意点

退職金規程の改定により従業員の退職金が減少する変更(支給率の引き下げ、支給対象の縮小など)は、「就業規則の不利益変更」に該当します。

労働契約法第9条・第10条により、労働者の同意なく不利益に変更することは原則として禁止されています。変更が有効と認められるには以下が必要です。

  • ① 従業員の個別同意を得ること(理想は書面での同意)
  • ② 個別同意が得られない場合は、変更の必要性・内容の相当性・代償措置の有無・周知などを総合的に考慮した「合理性」が認められること

退職金の廃止は特に影響が大きいため、慎重な対応が求められます。必要に応じて社会保険労務士や弁護士に相談することをお勧めします。

変更手続きの進め方

  • ① 変更内容を検討し、経営判断を行う
  • ② 従業員代表への説明・意見聴取
  • ③ 個別同意書の取得(できる限り全員から)
  • ④ 就業規則(退職金規程)の改定
  • ⑤ 労働基準監督署への届出(10人以上の場合)
  • ⑥ 従業員への周知

退職金規定を作る際の実務上の注意点

最後に、退職金規定の作成時に見落としがちな実務上のポイントをまとめます。

支払時期は「退職後○か月以内」と明記する

支払時期を明記しないと、従業員から退職直後に全額請求される可能性があります。退職金の計算・資金準備には一定の時間が必要なため、「退職後3か月以内」など余裕ある期限を設定することをお勧めします。

なお、退職所得の源泉徴収税・特別徴収住民税は退職金から控除して翌月10日までに納付します。退職時の源泉徴収票の具体的な書き方は源泉徴収票の書き方、見本、発行の仕方などで解説しています。

前払い・分割払いを設ける場合の注意

在職中に退職金の一部を毎月の給与に上乗せして支払う「前払い退職金制度」を採用する場合、毎月支払われる分は通常の給与として扱われ、社会保険料・所得税の課税対象となります(退職時の退職所得控除は適用されません)。

また、退職後に退職金を分割払いする場合も、分割された各支払いが退職所得として優遇税制の対象となるかどうか、課税上の取り扱いに注意が必要です。税務署や税理士への確認をお勧めします。

パート・契約社員・役員への適用可否

パートや契約社員への適用は任意ですが、「同一労働同一賃金」の観点から、適用除外とする場合はその合理的な理由を就業規則等で整理しておく必要があります。適用する場合は規程に対象者・支給率(正社員とは異なる場合は別表)を明示してください。

役員については退職慰労金として取締役会・株主総会の決議で別途決定する方法が一般的です。役員への退職金は「役員退職慰労金規程」として分離して管理することをお勧めします。

退職金請求権の時効は5年

退職金の請求権の消滅時効は5年です(労働基準法第115条)。支払日として規程に定めた日から5年が経過すると時効が成立します。

時効は会社側からも援用できます。反対に、従業員が退職後5年以内に請求した場合は、原則として支払義務が生じますので注意してください。

不利益変更のハードルは高い|最初の設計を慎重に

退職金制度は、一度制定すると「労働条件」として法的拘束力を持ちます。支給水準を下げたり制度を廃止したりする場合は、労働契約法第9条・第10条に基づく「不利益変更」に該当し、原則として従業員の同意が必要です。

同意が得られない場合でも、変更に合理性があり十分な周知を行えば有効とされる場合はありますが、裁判で争われるリスクがあります。退職金規程は「控えめに作って後から充実させる」ほうが安全です。

退職金の原資確保は早めに計画する

退職金は会社にとって大きな支出です。退職者が集中する時期に資金が不足しないよう、原資の確保策を事前に検討しておきましょう。主な方法は次のとおりです。

原資確保の方法特徴
社内積立自由度が高いが、資金の分別管理が必要。積立金は損金にならない
中小企業退職金共済(中退共)掛金が全額損金。国の助成あり。ただし退職事由による支給差はつけにくい
確定給付企業年金(DB)制度設計の自由度が高い。ただし運用リスクあり
企業型確定拠出年金(DC)運用は従業員任せ。掛金は損金算入可。ただし60歳まで受取不可
生命保険(養老保険等)退職金原資と保障を兼ねられる。一定の条件で保険料を損金算入可能

賃金の支払の確保等に関する法律(賃確法)第5条では、退職金制度がある場合に原資の保全措置を講ずるよう努めなければならないと定めています。中退共などの外部積立制度を活用すれば、この保全措置も満たせます。

休職期間・出向期間の取扱いを明記する

休職期間や出向期間を勤続年数に算入するかどうかは、退職金額に直接影響します。特に私傷病による休職期間については「算入しない」とする企業が多いですが、育児・介護休業期間については算入するのが一般的です。あいまいにしておくとトラブルのもとになるので、必ず規程に明記しておきましょう。

まとめ

退職金規程の作り方について、法律のルールから実務のポイントまで解説しました。要点を整理します。

  • 退職金の支払いは法律上の義務ではないが、制度を設けたら就業規則への記載が必須
  • 必ず記載すべき3事項は「①適用範囲・②計算・支払方法・③支払時期」
  • 計算方式は4種類(定額制・基本給連動型・別テーブル型・ポイント制)。中小企業では基本給連動型が最も多い
  • 退職理由別の掛け率設定が重要。自己都合は会社都合の50〜80%程度が相場
  • 不支給・減額規定は就業規則(または退職金規程)に明確に定めなければ無効
  • 規程の変更・廃止は「就業規則の不利益変更」のルールに従う
  • 退職金請求権の消滅時効は5年

退職金規程は一度作ると変更が難しい制度です。財務状況・人員構成・ 与水準を十分に考慮したうえで設計し、必要に応じて社会保険労務士に相談することをお勧めします。退職が決まった後の具体的な事務手続きの流れは退職手続きの流れ(辞表提出から退職日までにやるべきこと)もあわせてご確認ください。

よくある質問(FAQ)

退職金規程がない会社でも退職金を払う義務はありますか?

原則としてありません。ただし、長年の慣行により「①会社・従業員双方の規範意識+②算出可能性」が認められる場合は、規程がなくても支払義務が生じることがあります(東京地裁「吉野事件」)。退職金制度を設けない場合は、その旨を就業規則に明記しておくことをお勧めします。

懲戒解雇した社員に退職金を払わなくていいですか?

退職金規程に不支給の定めがある場合のみ支給しないことができます。規程がなければ支払義務があります。また、不支給が認められるのは「著しい背信行為」がある場合に限られるため、形式的な懲戒解雇だけで全額不支給とするのは認められないケースもあります。

パートタイマーにも退職金規程を適用しなければなりませんか?

法律上の義務はありません。ただし、パートタイム・有期雇用労働法第8条(不合理な待遇差の禁止)の観点から、適用除外とする場合はその合理的な理由を就業規則等で整理しておく必要があります。

退職金規程は労働基準監督署に届け出なければなりませんか?

常時10人以上の労働者を雇用している場合は届出義務があります(労働基準法第89条)。その際、従業員代表の意見書も必要です。10人未満の場合でも、作成した規程は従業員へ周知することが必要です。

退職金の請求はいつまでできますか?

退職金請求権の消滅時効は5年です(労働基準法第115条)。規程で定めた支払期日から5年が経過すると時効が成立します。会社側からも時効を援用できます。

退職金規定は就業規則と別に作る必要がありますか?

法律上はどちらでも構いません。就業規則本体に退職金に関する条文を盛り込む方法と、別規程として独立させる方法があります。ただし、支給率表や計算例など内容が多くなりやすいため、実務上は別規程として作成する企業がほとんどです。別規程の場合も就業規則の一部として扱われるため、労基署への届出が必要です。

退職金規定を途中で変更・廃止することはできますか?

可能ですが、支給額の引き下げや制度廃止は従業員にとって「不利益変更」に該当するため、原則として従業員の同意が必要です。同意がなくても、変更に合理性があり十分な周知を行えば有効とされる場合もありますが(労働契約法第10条)、訴訟リスクがあるため、慎重に進める必要があります。あらかじめ規程に改廃条項を入れておくことが重要です。

役員の退職金も同じ規程で定めてよいですか?

従業員と役員では法的な立場が異なるため、分けて定めるのが適切です。役員の退職慰労金は「役員退職慰労金規程」として別途作成し、支給にあたっては株主総会の決議が必要です。税務上の取扱い(損金算入の限度額など)も異なるため、税理士に相談のうえ設計しましょう。

従業員10人未満の会社でも退職金規定は必要ですか?

常時10人未満の事業場では就業規則の作成義務自体がありませんが、退職金制度を設けている場合は規程を作成しておくことを強くおすすめします。書面化しておかないと、退職時に「約束した金額と違う」といったトラブルが生じるリスクがあります。従業員との信頼関係を守るためにも、制度がある以上は規程として明文化しましょう。

参考リンク

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