出産手当金の申請方法と支給額の計算

産休に入る社員から必ず聞かれるのが「休んでいる間、お金はどうなりますか?」という質問です。

その答えの中心になるのが、健康保険の「出産手当金」です。産休中の給与の約3分の2をカバーしてくれる、本人にとって一番大きな給付ですね。

今回は、出産手当金の支給条件・金額の計算方法・申請手続きの流れを、会社の担当者目線で整理しました。

申請書の具体的な記入例は出産手当金支給申請書の書き方|全ページの記入例で解説で別途まとめているので、書き方を知りたい方はそちらをご覧ください。この記事は「制度と手続きの流れ」編です。

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出産手当金とは(全体像)

どんな給付?

出産手当金は、健康保険の被保険者本人が出産のため仕事を休み、給与が支払われないときに、1日あたり標準報酬日額の3分の2を支給する制度です。

支払うのは協会けんぽ(または健康保険組合)なので、会社の金銭負担はありません。会社の役割は、申請書の事業主証明と提出のサポートです。

出産育児一時金との違い

名前が似ている「出産育児一時金」とは別の給付です。両方もらえます。

項目出産手当金出産育児一時金
性格産休中の生活保障(休んだ日数分)出産費用の補助(1児につき定額50万円)
対象被保険者本人の出産のみ被保険者または被扶養者の出産
扶養の妻の出産対象外対象(家族出産育児一時金)

出産育児一時金の申請方法は健康保険の「出産育児一時金支給申請書」の記入例、書き方、注意点で解説しています。

手続き全体の流れ

大きな流れは「産休開始→出産→産後56日経過→医師・会社の証明を付けて協会けんぽへ申請→振込」です。

あわせて、産休中の社会保険料免除の手続き(日本年金機構へ)も会社が行います。この2つをセットで覚えておくと漏れがありません。

支給の条件と対象期間

もらえるのはどんな人?

  • 健康保険の被保険者本人であること(パート・アルバイトでも加入していればOK)
  • 出産のため仕事を休んでいること
  • 休んだ期間について給与の支払いがないこと(一部支給なら差額調整)

夫の扶養に入っている方(被扶養者)や国民健康保険の方は対象外です。「奥さんが出産するんですが、何かもらえますか?」と男性社員に聞かれたら、出産手当金ではなく出産育児一時金の話になります。

なお、ここでいう「出産」は妊娠4か月(85日)以後の分娩を指し、残念ながら死産・流産となった場合も含まれます。

そもそも産休はいつから取れる?

前提として、産休(産前産後休業)は労働基準法第65条で決まっています。

  • 産前6週間(多胎14週間):本人が請求した場合に休業させる(働き続けるのも本人の自由)
  • 産後8週間:請求の有無にかかわらず働かせてはいけない(産後6週間経過後、本人が請求し医師が認めた業務はOK)

産前は「6週間」ですが、出産手当金の対象は「42日=6週間」なので期間としては一致します。ややこしいのは産前が本人の請求ベースである点で、ギリギリまで働く選択をした場合、その分の手当金は出ません。

対象期間はいつからいつまで?

 出産手当金の対象期間(産前42日・産後56日)を示すタイムライン

支給対象は、出産日以前42日(多胎妊娠は98日)+出産日後56日のうち、仕事を休んで給与が出なかった日です。

出産日当日は「産前」に含めて数えます。また、出産が予定日より遅れた場合は、遅れた日数分も追加で支給されます(予定日より5日遅れたら、42日+5日+56日=103日分)。

逆に予定日より早く生まれた場合は、実際の出産日から逆算して42日です。ギリギリまで働いていた分は対象日数が減る、ということですね。

退職する人でももらえる?

出産を機に退職する社員でも、次の条件を満たせば退職後の期間も継続して受給できます(資格喪失後の継続給付)。

  • 退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があること
  • 退職日が出産手当金の支給期間内(産前42日〜産後56日)に入っていること
  • 退職日に出勤していないこと

③が落とし穴です。最終日に「挨拶がてら半日出勤」してしまうと、退職日に労務に服したことになり、退職後の分が一切もらえなくなります。退職予定の妊婦さんには、最終日は出勤しないよう必ず伝えてください。

いくらもらえる?(支給額の計算)

  出産手当金の支給額の計算式を示す図

計算式

1日あたりの支給額 = 支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 2/3

端数処理は「÷30の段階で10円未満四捨五入、×2/3の段階で1円未満四捨五入」です。

基準になるのは実際の給与額ではなく「標準報酬月額」なので、算定基礎届や月額変更の等級がそのまま効いてきます。

【計算例1】標準報酬月額の平均が30万円・予定日どおり出産(98日)の場合

① 標準報酬日額:300,000円÷30=10,000円

② 1日あたり支給額:10,000円×2/3=6,667円(1円未満四捨五入)

③ 支給総額:6,667円×98日(産前42+産後56)=653,366円

【計算例2】入社8か月で産休に入る場合(被保険者期間12か月未満)

① 被保険者期間が12か月に満たないときは、「自身の標準報酬月額の平均」と「32万円(全被保険者の平均・支給開始が令和7年4月1日以降)」の低い方を使う

② 自身の平均が28万円なら、低い方の28万円を採用:280,000円÷30=9,333.3円→9,330円(10円未満四捨五入)

③ 1日あたり:9,330円×2/3=6,220円 → 98日で609,560円

【計算例3】出産が予定日より7日遅れた場合(計算例1の社員)

① 支給日数:産前42日+遅れた7日+産後56日=105日

② 支給総額:6,667円×105日=700,035円(予定日どおりより46,669円増える)

③ 社会保険料の免除期間も実際の休業期間に合わせて延びるため、変更届の提出を忘れずに

月給の3分の2より少し少なく感じるかもしれませんが、出産手当金は非課税で、産休中は社会保険料も免除されるので、手取りベースでは普段の7〜8割程度になることが多いです。

給与を一部払う場合は差額調整

産休中に会社から給与が出る場合、給与が出産手当金の額より少なければ差額が支給され、多ければ出産手当金は支給されません。

「産休中も基本給の半分を払う」のような制度がある会社は、申請書の事業主記入欄(賃金支払状況)を正確に書く必要があるので注意してください。

申請手続きの流れ【会社担当者向け6ステップ】

STEP
産休スケジュールを確認し、本人に案内する

出産予定日を聞いたら、産前42日(多胎98日)の開始日を計算し、産休期間を確定します。予定日ベースで「いつから休めるか」「お金はいつ・いくら入るか」を案内しましょう。

このとき、出産手当金の振込は申請後(産後2〜3か月頃)になること、産休中の社会保険料は免除されることもセットで伝えると、本人の不安がだいぶ減ります。

STEP
申請書を渡し、医師の証明欄を依頼する

「健康保険出産手当金支給申請書」を協会けんぽのサイトからダウンロードし、本人に渡します。申請書には医師・助産師の証明欄があるので、出産で入院する際に病院へ持って行ってもらうのがスムーズです。

各ページの具体的な書き方は出産手当金支給申請書の書き方|全ページの記入例を参考にしてください。

STEP
社会保険料の免除手続きをする

産休が始まったら、「産前産後休業取得者申出書」を日本年金機構(事務センターまたは管轄の年金事務所)へ提出します。これで休業期間中の健康保険・厚生年金保険料が本人分・会社分とも免除されます。

提出は産休期間中に行うのが原則です。出産日がずれて休業期間が変わったときは、出産後に変更届を出します。

STEP
出産の報告を受け、期間を確定する

出産日が確定したら、支給対象期間(産前42日+産後56日±予定日とのズレ)を計算し直します。社会保険料免除の期間変更が必要ならここで変更届を提出します。

あわせて、出勤簿と賃金台帳で「休んだ日」「給与を支払っていないこと」を確認できる状態にしておきます。申請書の事業主証明欄はこの記録をもとに記入します。

STEP
協会けんぽへ申請書を提出する

産後56日を経過したら、医師の証明・事業主の証明がそろった申請書を協会けんぽへ提出します。産後56日経過後にまとめて1回で申請するのが一般的ですが、産前分・産後分など複数回に分けることもできます。

時効は「休んだ日ごとにその翌日から2年」です。余裕はありますが、本人の生活費に直結するので、書類がそろい次第すぐ出すのがマナーだと思います。

STEP
支給決定・育休手続きへつなぐ

審査後、支給決定通知書が届き、本人の口座へ振り込まれます(提出から2週間〜1か月程度が目安)。

産後57日目からは育児休業に切り替わるので、育児休業給付金(雇用保険)と育休中の社会保険料免除の手続きへバトンタッチします。担当者のタスクはここからが本番ですね。

詰まりやすいポイント

産休中も住民税は止まらない

社会保険料は免除されますが、住民税(特別徴収)は前年の所得にかかるので産休中も発生し続けます。

無給期間は天引きできないため、毎月振り込んでもらう・復帰後にまとめて精算する・普通徴収に切り替えるなどの方法を、産休前に本人と決めておきましょう。

「出産日」がずれたら期間を計算し直す

予定日より遅れた場合は遅れた分だけ支給日数が増え、早まった場合は産前分が短くなります。社会保険料免除の期間も連動して変わるので、出産報告を受けたら「支給期間」と「免除期間」の両方を見直すクセをつけてください。

産休に関する手続きは出産手当金だけではない

担当者のタスク全体を整理しておきます。出産手当金は、このうちの1つにすぎません。

手続き提出先タイミング
産前産後休業取得者申出書(保険料免除)日本年金機構産休期間中
出産手当金支給申請書協会けんぽ等産後56日経過後
出産育児一時金(直接支払制度の確認)協会けんぽ等/医療機関出産前後
子の健康保険の扶養追加(異動届)日本年金機構出産後すみやかに
育児休業給付・育休中の保険料免除ハローワーク/年金機構産後57日目以降

このあたりの全体像は育児、出産、子育て手続き~会社事務担当者向け概要編~でも整理しているので、初めて担当する方はそちらも見てみてください。

標準報酬月額が低く設定されていないか

支給額は標準報酬月額ベースなので、昇給後の月額変更届が漏れていたりすると、本人がもらえる額が本来より少なくなります。産休予定者が出たら、直近12か月の等級が実態と合っているか確認しておくと親切です。

まとめ

  • 出産手当金は被保険者本人の産休中、標準報酬日額の3分の2×(産前42日+産後56日)を支給
  • 予定日超過分も支給。入社12か月未満は32万円との低い方で計算(令和7年4月〜)
  • 申請は産後56日経過後に一括が一般的。医師証明+事業主証明が必要。時効2年
  • 社会保険料免除(取得者申出書)の手続きを忘れずにセットで
  • 退職予定者は「退職日に出勤しない」が継続給付の絶対条件

申請書の記入で迷ったら、記入例の記事と合わせて確認してください。

出産手当金のQ&A

扶養に入っているパートの妻も出産手当金をもらえる?

もらえません。出産手当金は健康保険の被保険者本人だけの給付です。被扶養者の出産には出産育児一時金(家族出産育児一時金・50万円)が支給されます。

帝王切開で入院が長引いた場合、傷病手当金ももらえる?

出産手当金の支給期間中は出産手当金が優先され、傷病手当金との二重取りはできません。ただし傷病手当金の額の方が多い場合は差額が支給されます。産後56日を超えてなお労務不能なら、そこからは傷病手当金の出番です。

流産・死産だった場合も支給される?

妊娠4か月(85日)以後であれば、死産・流産・人工妊娠中絶の場合も支給対象です。つらい状況での手続きになるので、会社側で進められる部分はできるだけ引き取ってあげてください。

産前は働いて、産後だけ休む場合はどうなる?

実際に休んだ日だけが支給対象なので、産前に働いた日数分は支給されません(産後56日分のみ)。なお産後8週間(本人が請求し医師が認めた場合は6週間経過後から就業可)は法律上働かせることができない期間です。

出産手当金は課税される?年末調整に関係する?

非課税です。所得税・住民税はかからず、年末調整や確定申告に含める必要もありません。配偶者(夫)側の配偶者控除の所得判定にも含まれません。

産休中に賞与(ボーナス)を支給したら手当金は減額される?

減額されません。出産手当金と調整されるのは「報酬」(毎月の給与など)で、年3回以下の賞与は健康保険法上「賞与」として別扱いだからです。なお、産休中に支払った賞与の社会保険料は免除の対象になります。

健康保険組合の場合も同じ手続き?

基本の仕組みは同じですが、様式・提出先は組合ごとに異なり、付加給付(独自の上乗せ)がある組合もあります。組合健保の会社は、自社の組合の案内ページで様式と付加給付の有無を確認してください。

参考リンク

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