「退職所得の受給に関する申告書(退職所得申告書)」は、退職金を支払う前に、本人から会社へ出してもらう書類です。
これを出してもらえないと、退職金から一律20.42%を天引きすることになり、本人の手取りが大きく減ります。会社側としては必ず回収しておきたい1枚です。
とはいえ、退職者に「これ書いてください」と渡す総務側も、B欄から下に何を書くのかは正直あやしいところだと思います(私も最初は右上だけ書いてもらう運用でした)。
令和8年1月からは様式が新しくなり、iDeCoがらみの「10年ルール」も始まったので、記入例付きで整理しました。参考にしてください。
【この記事でわかること】
- 退職所得の受給に関する申告書の記入例と欄別の書き方(A欄〜の使い分け)
- 出してもらえないと一律20.42%源泉徴収(手取り差の比較計算あり)
- 【令和8年改正】iDeCo・企業型DCの「10年ルール」と新様式
- 会社側の回収・保管の実務(税務署への提出は不要)
退職所得の受給に関する申告書とは
退職所得の受給に関する申告書とは、退職金を受け取る人が勤続年数や他の退職金の有無を申告し、会社が正しい税額で源泉徴収するための書類です(所得税法第203条)。
何のための書類?
退職金の税金には「退職所得控除」と「2分の1課税」という大きな優遇があります。この優遇を支払いの時点で適用するには、この申告書の提出が条件になっています。
提出があれば、会社は控除後の金額で税額を計算して天引きします。多くの人は控除の範囲に収まるので、税額ゼロか少額で済みます。
控除額や勤続年数は本人の申告内容から決まるため、「本人に書いてもらう→会社が計算する」という分担になっているわけです。
いつ・誰が・どこに出すの?
提出のルールはシンプルです。
| 出す人 | 退職金を受け取る本人 |
| 出す先 | 会社(退職金の支払者) |
| 期限 | 退職金の支払いを受ける時まで |
| 税務署への提出 | 不要(会社が保管し、税務署から求められた場合だけ提示) |

年末調整の扶養控除等申告書と同じで、「本人→会社に出して、会社で保管する」タイプの書類ですね。税務署へ送る必要はありません。
提出がないとどうなる?(一律20.42%)
申告書の提出がない場合、会社は退職所得控除を適用できず、退職金の総額×20.42%(所得税・復興特別所得税)を源泉徴収することになります。なお、住民税は提出の有無に関係なく通常どおり計算して特別徴収します。
【比較】退職金1,500万円・勤続25年(24年6か月切り上げ)の場合
- 申告書の提出あり:税額合計 264,337円(所得税89,337円+住民税175,000円)
- 申告書の提出なし:所得税等の源泉徴収 1,500万円×20.42%=3,063,000円(住民税は別途通常どおり)
→ 所得税だけで約297万円の差。提出なしの場合、本人が確定申告をしないと取られすぎたままになります。

取られすぎた分は本人の確定申告で戻せるとはいえ、退職者に余計な手間をかけさせることになります。会社側の実務としては「支払前に必ず回収する」が正解だと思います。
この申告書の内容をもとに会社側が作るのが「退職所得の源泉徴収票」です。書き方は退職所得の源泉徴収票の記入例、書き方~令和8年から全従業員分の税務署提出が必要に~で解説しています。

【令和8年改正】iDeCoの「10年ルール」と新様式
令和8年(2026年)1月1日から、退職所得控除の重複調整のルールが変わりました(2026年7月時点)。
【令和8年改正のポイント】
- iDeCo・企業型DCの一時金を先に受け取り、後から退職金を受け取る場合の控除調整の対象期間が「前年以前4年内→前年以前9年内」に拡大(いわゆる5年ルール→10年ルール)
- 申告書の様式も「令和8年1月1日以後」用に変更(老齢一時金に関する記載の見直し)
- 会社側の保存期間も、老齢一時金に該当する分は7年→10年に延長

会社の実務への影響を一言でいうと、「本人にしか分からない情報(iDeCoの一時金をいつ受け取ったか)が税額計算に効いてくる範囲が広がった」ということです。
だからこそ、後述のとおり申告書は本人にしっかり書いてもらう運用が大事になってきます。
退職所得の受給に関する申告書の記入例、書き方、注意点
実際の記入例がこちらです(一番多い「A欄だけ書けばよい」ケース)。

上の例の様に書いてもらえれば、問題ないと思います。
この書類はA欄からE欄までありますが、前に退職金や一時金を受け取ったことがない人はA欄(と上部の住所・氏名)だけでOKです。B欄以下は該当者だけが書きます。

どこまで本人に書いてもらう?
結論としては、全部本人に書いてもらう運用がおすすめです。
以前は右上の現住所・氏名だけ本人に書いてもらって、残りはこちらで記入していました。ただ、iDeCoの一時金をいつ受け取ったかなどは会社では把握できないので、今は全部本人に書いてもらう形に変えました。書いてもらった後に、退職日や勤続期間をこちらでチェックする役回りです。
特に令和8年からは10年ルールで「前に受け取った一時金」の影響範囲が広がったので、会社側で代筆してしまうと拾えない情報が増えています。
本人に渡すときに「他に退職金やiDeCoの一時金を受け取っていなければ、A欄だけでいいですよ」と一言添えると、スムーズに返ってきますよ。
A欄の書き方(全員が記入)
A欄はすべての人が記載する欄です。書くのは次の3点だけです。
- ①退職手当等の支払を受けることとなった年月日:退職日を書く(例:令和8年3月31日)
- ②退職の区分:「一般」か「障害」に○(障害者になったことが直接の原因で退職した場合だけ「障害」)。生活扶助の有無にも○
- ③勤続期間:就職日から退職日まで(例:平成13年10月1日〜令和8年3月31日 → 25年)。端数月は年数欄で切り上げ
役員としての勤続が5年以下の期間(特定役員等勤続期間)や、勤続5年以下の短期勤続期間がある場合は、その有無と期間もA欄内に記載します。
上部の提出先(会社名)・現住所・氏名・個人番号もあわせて記入してもらいます。マイナンバーは、会社側で従業員の番号を記載した帳簿を備えていれば記載を省略できる取り扱いがあります(うちは給与システムで管理しているので省略してもらっています)。
B欄:同じ年に他からも退職金を受け取っているとき
B欄は、その年のうちに他の会社などからも退職金を受け取っている場合に書く欄です。転職を挟んで同じ年に2社から退職金が出るケースなどが該当します。
B欄に記載がある場合は、先に受け取った退職金の「退職所得の源泉徴収票」を1部添付してもらいます。2か所分を合算して正しい税額を計算し直すためです。
C欄〜E欄:前年以前に退職金・iDeCo一時金を受け取っているとき
C欄から下は、前年以前に退職金や一時金を受け取ったことがある人の調整欄です。具体的には次のようなケースが該当します。
- 前年以前4年内に他の退職金を受け取っている(従来どおり)
- 前年以前9年内にiDeCo・企業型DCの老齢一時金を受け取っている(令和8年からの10年ルール。改正前は4年内)
- 今回の勤続期間と前の退職金の勤続期間に重複がある
該当すると退職所得控除の重複分を差し引く調整計算が入ります。正直ここは複雑なので、該当者が出たら国税庁様式の記載要領を見ながら、本人の源泉徴収票(前の分)と突き合わせて確認するのが確実だと思います。
ほとんどの退職では該当なし=空欄のままなので、身構えなくて大丈夫です。(ちなみに、今回受け取るのがiDeCo側の一時金の場合は前年以前19年内まで見る決まりですが、これは会社ではなく運営管理機関側の話です)
回収・保管の実務(会社側)
会社側の実務は「支払前に回収 → 税額計算に使う → 保管」の3つです。
いつ回収する?
退職金の支給が決まった段階で、支給手続きとセットで案内するのがスムーズです。
うちの流れは「退職連絡・退職金支給の依頼が来る → 申告書を本人に渡して回収 → 退職金の支払い → 退職所得の源泉徴収票を郵送」の順で固定しています。申告書の回収を支払いの後に回すと、20.42%で計算し直す羽目になるので、とにかく先に回収です。

退職者への案内文をテンプレ化しておくと毎回ラクです。退職時の会社から説明文テンプレート~退職社員に総務人事担当者が説明する際の案内文~に雛形を載せています。

保管期間は?税務署に出さなくていいの?
回収した申告書は税務署へ提出せず、会社で保管します。税務署から提出を求められた場合に出せればOKです。
保管期間は原則7年です(提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から起算)。令和8年からは、iDeCo・企業型DCの老齢一時金に該当する分だけ10年に延長されているので、まとめて10年保管に倒しておくと管理が楽かもしれません。
退職金まわりの手続き全体(支給の流れ・税額計算・納付)は退職金の会社側の手続き入門|概要・計算方法・税務処理を解説にまとめています。

まとめ
- 退職金の支払前に本人から回収する。出してもらえないと一律20.42%天引き
- ほとんどの人はA欄(+住所・氏名)だけでOK。B欄以下は該当者のみ
- iDeCoなど本人にしか分からない情報があるので、全部本人に書いてもらう運用がおすすめ
- 【令和8年改正】10年ルール開始・新様式へ・老齢一時金分の保存は10年
- 税務署への提出は不要。会社で保管(原則7年)
退職所得の受給に関する申告書のQ&A
- 本人がなかなか書いてくれないときは?
-
「提出がないと退職金から一律20.42%(1,000万円なら約204万円)を天引きすることになります」と伝えると、大体すぐ出てきます。期限はあくまで支払前なので、支払日から逆算して早めに案内しましょう。
- 死亡退職の場合も必要ですか?
-
不要です。死亡退職で遺族に支払う退職金は相続税の対象になるため、この申告書も退職所得の源泉徴収票も使いません(代わりに支払調書を提出します)。
- パート・アルバイトにも書いてもらう必要はありますか?
-
退職金を支払うのであれば必要です。雇用形態は関係ありません。
- 書き間違えたときは訂正印が必要ですか?
-
二重線で消して正しい内容を書いてもらえば大丈夫です。会社保管の書類なので、そこまで神経質にならなくて問題ないと思います。
- 様式はどこでダウンロードできますか?
-
国税庁の手続きページ(A2-29)からダウンロードできます。令和8年1月1日以後の退職には「令和8年1月1日以後」用の様式を使ってください(下の参考リンク参照)。
- 提出済みでも本人の確定申告は必要ですか?
-
申告書を出して正しく源泉徴収されていれば、退職金についての確定申告は原則不要です。ただし医療費控除などで確定申告をする場合は、退職所得も含めて申告する必要があります。




