「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」は、会社が退職金を支払ったときに作成して、本人・税務署・市区町村へ知らせる書類です。
年末調整でおなじみの「給与所得の源泉徴収票」とは別物で、退職金を支払うたびに作ります。
退職金の支払いは毎月の給与と違って頻度が少ないので、いざ作るとなると「区分はどの段に書く?」「勤続年数の端数はどうする?」と手が止まりがちです(私も毎回、手引きを見直しています)。
しかも令和8年1月からは、税務署への提出が「役員のみ」から「全従業員分」に変わりました。ちょうどいい機会なので、記入例付きで一度整理しました。参考にしてください。
【この記事でわかること】
- 退職所得の源泉徴収票の記入例と各欄の書き方(区分3段の使い分け)
- 【令和8年改正】税務署への提出が「役員のみ」→「全従業員分」に拡大
- 勤続年数の端数切り上げ・休職期間の扱い
- 提出先・提出期限・本人への交付方法
退職所得の源泉徴収票とは
退職所得の源泉徴収票とは、会社が退職金(退職手当等)を支払ったときに、支払金額と、源泉徴収した所得税(復興特別所得税を含む)・特別徴収した住民税の額を記載して、本人・税務署・市区町村に知らせる書類です。
どんなときに作る書類?
退職金を支払ったら、その都度作成します。年末にまとめて作る給与の源泉徴収票と違い、タイミングは「退職金の支払い」に紐づきます。
作成した源泉徴収票は、退職後1か月以内にすべての受給者へ交付するのが原則です(所得税法第226条)。役員か従業員かに関係なく、退職金を支払った人全員に渡します。
ちなみに、パートさんでも退職金を支払えば対象です。なお、海外在住の非居住者に支払う退職金は、この源泉徴収票ではなく別の支払調書の対象になります。
「特別徴収票」と一体なのはなぜ?
正式には「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」という1枚の様式になっています。
源泉徴収票は所得税用(税務署へ)、特別徴収票は住民税用(市区町村へ)という役割ですが、記載する内容がほぼ同じなので1枚にまとまっています。
退職金は給与と違って「分離課税」で、会社が所得税も住民税もその場で天引きして納めるため、この1枚で両方の税金の報告が完結するイメージです。住民税の特別徴収の仕組み自体は住民税・特別徴収入門(会社の給与・事務担当者向け)で解説しています。

給与所得の源泉徴収票との違いは?
退職者には、退職金用の「退職所得の源泉徴収票」とは別に、その年の給与分の「給与所得の源泉徴収票」も交付します。名前が似ていますが完全に別の書類です。
| 退職所得の源泉徴収票 | 給与所得の源泉徴収票 | |
|---|---|---|
| 対象 | 退職金(退職手当等) | 給与・賞与 |
| 作成タイミング | 退職金の支払いごと | 年末調整後または退職時 |
| 税額の計算 | 分離課税(支払時に完結) | 年末調整または確定申告で精算 |
給与分の源泉徴収票の書き方は源泉徴収票の書き方、見本、発行の仕方など〜一般的な記入例、退職時などの記入例で分かりやすく解説〜にまとめているので、退職時の給与分はそちらを参考にしてください。

【令和8年改正】提出範囲が「役員のみ」→「全従業員」に拡大
令和7年度税制改正で、令和8年(2026年)1月1日以後に支払う退職金から、税務署への源泉徴収票の提出範囲が「役員のみ」から「全ての受給者」に拡大されました(2026年7月時点)。
これまで一般従業員の分は「本人に交付して終わり」でしたが、令和8年からは従業員分も税務署へ提出が必要です。
【令和8年改正のポイント】
- 対象:令和8年1月1日以後に支払うべき退職金(退職日ではなく支払の確定日で判定。令和7年12月退職でも、支払うべき日が令和8年1月以後なら対象)
- 税務署への提出は、その年の退職者分をまとめて翌年1月31日までの提出でOK(従来からの取り扱いが継続)
- 市区町村への特別徴収票の提出は、当分の間、省略できることになっています

従業員の退職金は「作って本人に渡すだけ」の感覚だった担当者ほど影響が大きい改正だと思います。忘れないように、法定調書合計表の提出(毎年1月)とセットで覚えておくのがおすすめです。
退職所得の源泉徴収票の記入例、書き方、注意点
実際の記入例がこちらです。

上の例の様に書いてもらえれば、問題ないと思います。
以下、迷いやすい欄を順番に解説します。
区分欄(3段)はどこに書くの?
この書類で一番迷うのが、支払金額などの記載欄が上・中・下の3段に分かれている点です。「退職所得の受給に関する申告書」を本人から出してもらっているかどうかで、使う段が決まります。
| 段 | 使う場面 |
|---|---|
| 上段 | 申告書の提出あり+その年に他の会社からの退職金なし(一番多いパターン) |
| 中段 | 申告書の提出あり+その年に他の会社からの退職金あり |
| 下段 | 申告書の提出なし(一律20.42%で源泉徴収した場合) |

普通の退職なら上段だけ使えば大丈夫です。中段・下段は空欄のままで問題ありません。
なお、「退職所得の受給に関する申告書」は退職金支払いの前に本人から回収しておく書類で、これがあるかないかで税額が大きく変わります(後の計算例で比較しています)。
支払金額・源泉徴収税額・特別徴収税額の書き方
支払金額にはその年に支払の確定した退職金の額、源泉徴収税額には所得税(復興特別所得税込み)、特別徴収税額には住民税(市町村民税と道府県民税に分けて)を記載します。
各欄の上の段(内書き)は、作成日時点で未払いの金額があるときに使う欄です。支払いが済んでから作るなら空欄で大丈夫です(私はいつも支払後に作るので、ここは入力していないですね)。
税額計算の流れはざっくり書くと「①勤続年数から退職所得控除額を出す → ②(退職金−控除額)×1/2=課税退職所得金額 → ③速算表で所得税、税率10%で住民税」です。計算の詳しい解説は退職金の会社側の手続き入門|概要・計算方法・税務処理を解説にまとめています。

ここでは源泉徴収票に書く金額のイメージがつかめるよう、2パターンの計算例を載せておきます。
【計算例1】税額がゼロになるケース(控除額の範囲内)
- 退職金450万円・勤続12年4か月・自己都合退職・申告書の提出あり
①勤続年数:12年4か月 → 端数切り上げで13年
②退職所得控除額:40万円×13年=520万円
③課税退職所得金額:450万円−520万円=マイナス → 0円
→ 源泉徴収税額0円・特別徴収税額0円。手取りは450万円満額です。
源泉徴収票には、支払金額4,500,000円・源泉徴収税額0円・退職所得控除額520万円・勤続年数13年と記載します。税額ゼロでも作成・交付は必要です。
【計算例2】税額が発生するケース(手取りまで完全計算)
- 退職金1,500万円・勤続24年6か月・定年退職・申告書の提出あり
①勤続年数:24年6か月 → 切り上げで25年
②退職所得控除額:800万円+70万円×(25年−20年)=1,150万円
③課税退職所得金額:(1,500万円−1,150万円)×1/2=175万円
④所得税:175万円×5%=87,500円
⑤復興特別所得税込み:87,500円×102.1%=89,337円(1円未満切捨て)
⑥住民税:市町村民税 175万円×6%=105,000円、道府県民税 175万円×4%=70,000円
⑦税額合計:89,337円+105,000円+70,000円=264,337円
→ 手取りは1,500万円−264,337円=14,735,663円です。
源泉徴収票には上段に、支払金額15,000,000円・源泉徴収税額89,337円・特別徴収税額(市町村民税105,000円・道府県民税70,000円)・退職所得控除額1,150万円・勤続年数25年と記載します。

ちなみに、同じ1,500万円でも申告書の提出がないと1,500万円×20.42%=3,063,000円を源泉徴収することになります(区分は下段)。計算例2と比べて約297万円も多く天引きされ、本人が確定申告で精算する羽目になるので、申告書は必ず回収しておきたいところです。
なお、住民税の税率は標準で市町村民税6%・道府県民税4%ですが、政令指定都市は市民税8%・道府県民税2%の割合になります(合計10%は同じです)。
退職所得控除額・勤続年数の書き方(端数・休職期間)
退職所得控除額の欄には、税額計算で使った控除額をそのまま記載します。勤続年数の欄には計算の基礎とした年数を書きます。
勤続年数のルールで押さえておきたいのは次の3点です。
- 1年未満の端数は必ず切り上げ(切り捨てはしない)。20年と1日でも21年
- 休職・長期欠勤・産休などの期間も勤続年数に含める(他社で働くための休職は除く)
- 退職金規程で休職期間を退職金の算定から除外していても、税務上の勤続年数は実際に在籍した期間で数える(所得税法施行令第69条)

「退職金の計算上の勤続年数」と「税務上の勤続年数」は別物になり得る、という点が実務では紛らわしいところですね。源泉徴収票に書くのは税務上の年数です。
なお、前年以前に同じ人へ退職金を支払っていた場合や、その年に他社からも退職金が出ている場合は、控除額の調整計算が入ります。イレギュラーなケースでは国税庁の手引きを確認した方がいいと思います。
摘要欄・個人番号(マイナンバー)はどう書く?
摘要欄には、勤続年数の計算の基礎(就職年月日から退職年月日まで)を記載します。役員等としての勤続が5年以下の「特定役員退職手当等」や、勤続5年以下の「短期退職手当等」に当たる場合は、その金額と年数もここに書きます。
個人番号(マイナンバー)は、税務署へ提出する分にだけ記載します。本人に交付する分には記載しません。給与の源泉徴収票と同じ運用ですね。
提出先・提出期限・本人への交付
作成した源泉徴収票の行き先は「本人・税務署・市区町村」の3か所です。それぞれ期限が違うので整理しておきます。

本人への交付はいつまで?
退職後1か月以内の交付が原則です(所得税法第226条)。
本人の承諾があれば電子交付も制度上は可能ですが、退職者はその後会社のシステムにアクセスできなくなることが多いので、紙で郵送している会社が多い気がします。
税務署への提出はいつまで?
原則は退職後1か月以内ですが、その年中に退職した人の分をまとめて翌年1月31日までに提出する取り扱いが認められています(1月31日が土日の場合は翌開庁日。令和8年分は2027年2月1日)。実務ではこの一括提出が一般的だと思います。
令和8年1月1日以後に支払う退職金からは、役員だけでなく従業員分もこの提出対象です。毎年1月の法定調書合計表の作成時に、退職金の支払いがなかったか確認する流れにしておくと漏れにくいと思います。
市区町村への提出(特別徴収票)はどうする?
特別徴収票は、退職金の支払を受けるべき日の属する年(通常は退職した年)の1月1日現在の住所地の市区町村へ、退職後1か月以内に提出するのが原則です。
ただし令和8年1月1日以後に支払う退職金の分からは、当分の間、市区町村への提出は省略できることになっています(2026年7月時点)。天引きした住民税自体は、従来どおり翌月10日までに納入申告書とあわせて納めます。
死亡退職の場合は提出不要
死亡退職で遺族に支払う退職金は相続税の対象になるため、この源泉徴収票は作成・提出しません。代わりに相続税法の「退職手当金等受給者別支払調書」を提出します。
死亡退職時の一連の手続きは社員の死亡退職の対応マニュアル~従業員が亡くなった時の手続き、給与、遺族対応、事務処理についてにまとめているので、該当したときはご覧ください。

給与ソフトでの作成方法(実務)
手書きで作ることはほぼなくて、実務では給与ソフト・法定調書ソフトで作成する会社が多いと思います。うちは奉行シリーズなので、その例で紹介します。
法定調書奉行での作成手順
法定調書奉行では「支払調書1」→「退職所得の源泉徴収票」メニューで作成します。
法定調書奉行は給与奉行と同じデータを使っているので、給与側で退職処理さえ済んでいれば源泉徴収票の形は自動でできています。あとは社員番号を呼び出して金額を確認するくらいです。印刷して本人へ郵送するところまでがセットですね(電子明細はないので紙のみです)。
他社ソフト(PCAなど)でも「退職処理→法定調書メニューで自動作成」という流れは同じです。障害者退職の控除加算や、前年以前に退職金の支払いがあるケースは自動計算が対応しきれないので、手修正が必要になります。
定年後も在籍する人の退職金はどう発行する?
定年で退職金を支給するけれど、継続雇用でそのまま在籍する、というケースは意外と処理に迷います。給与ソフト上は「退職」にしていないので、源泉徴収票が自動で作られないんですよね。
定年支給のときは、給与奉行に退職情報(退職区分・退職日)を仮打ちして源泉徴収票を一旦発行し、その後で退職情報を元に戻す、という順番でやっています。継続雇用の給与処理に影響させないための苦肉の策ですが、これで問題なく回っています。
ソフトによっては継続雇用のまま退職金だけ処理できるものもあるので、マニュアルを確認してみてください。
まとめ
- 退職所得の源泉徴収票は退職金を支払うたびに作成し、退職後1か月以内に全員へ交付する
- 【令和8年改正】令和8年1月1日以後の支払い分から、税務署への提出は役員のみ→全従業員分に拡大(翌年1月31日の一括提出OK)
- 記載は「申告書あり・他社分なし」なら上段だけでOK。申告書なしは下段+一律20.42%
- 勤続年数は端数切り上げ。休職期間も原則含める
- 死亡退職は源泉徴収票ではなく支払調書
退職金の手続き全体(支給の流れ・規程・税額計算の詳細)は、退職金の会社側の手続き入門とあわせて読んでもらえると、全体像がつかみやすいと思います。
退職所得の源泉徴収票のQ&A
- 退職金の支給明細書は別に必要ですか?
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法律上は退職金にも支払明細書の交付義務があります(所得税法第231条)。ただ実務では、金額の内訳が載っている源泉徴収票の交付で明細を兼ねている会社もありますね。振込金額の説明がつく形になっていれば、大きな問題にはなりにくいと思います。
- 本人が紛失した場合、再発行はできますか?
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できます。会社側のデータから再発行して渡せば大丈夫です。住宅ローンや転職先から求められて依頼されるケースが時々あります。
- 本人の確定申告に添付は必要ですか?
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2019年4月以降、確定申告書への源泉徴収票の添付は不要になっています。ただし申告内容の入力には使うので、本人には保管しておいてもらいましょう。
- 提出を忘れていたらどうなりますか?
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法定調書の不提出には罰則規定があります(1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)。とはいえ、気づいた時点で速やかに提出すれば実務上は大ごとにならないことが多いので、まず提出してしまいましょう。
- 退職金が2回に分けて支払われる場合はどうなりますか?
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同じ退職に基づく分割払いなら、合計額で税額を計算して1枚にまとめます。作成日時点で未払いの分があるときは、支払金額欄などの上の段に未払額を内書きします。
- 様式はどこでダウンロードできますか?
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国税庁の手続きページから最新様式(令和8年分以後用)のPDFをダウンロードできます。給与ソフトを使っている場合は、ソフトから直接印刷できるのでダウンロードは不要です。




