会社が倒産すると、最後の給料や退職金が支払われないまま放り出されることがあります。
総務・経理の担当者は、こうなったとき「会社側の手続きをする人」であると同時に、自分自身も「給料をもらえない労働者」になります。両方の立場で動かないといけないので、本当に大変です。
ただ、未払いの賃金をある程度カバーしてくれる「未払賃金立替払制度」という国の制度があります(取引先が倒産したときに、従業員さんからこの制度のことを聞かれた経験がある方もいると思います)。
今回は、会社が倒産したときの賃金がどうなるかを、Q&A形式で整理しました。
万一のときの備えとして、また従業員や取引先から聞かれたときの参考にしてください。
会社が倒産したら賃金はどうなる?(全体像)

倒産しても賃金がゼロになるわけではない
まず前提として、会社が倒産しても賃金を受け取る権利(賃金債権)自体は消えません。
むしろ賃金は法律上かなり手厚く保護されていて、破産手続きでは他の借金より優先して支払われる扱いになっています(破産手続開始前3か月間の給料は「財団債権」という最優先クラスです)。
とはいえ、倒産した会社にはそもそもお金が残っていないことが多く、「権利はあるけど払うお金がない」状態になりがちです。
現実の頼みの綱は「未払賃金立替払制度」
そこで実際に頼りになるのが、国の「未払賃金立替払制度」です。
「賃金の支払の確保等に関する法律」(賃確法)第7条に基づく制度で、倒産した会社に代わって、独立行政法人労働者健康安全機構が未払賃金の8割を立て替えて支払ってくれます。
窓口は全国の労働基準監督署と労働者健康安全機構で、正社員・パート・アルバイトの区別なく利用できます。
自分の状況がどのパターンに当たるかで対応が変わるので、最初に整理しておきます。
| 状況 | 立替払制度 | 主な対応 |
|---|---|---|
| 法律上の倒産(破産・特別清算・民事再生・会社更生) | 使える | 破産管財人等の証明を受けて機構へ請求 |
| 事実上の倒産(事業停止・支払能力なし/中小企業のみ) | 使える | 労働基準監督署の認定を受けて機構へ請求 |
| 倒産はしていないが給料が未払い | 使えない | 労基署への申告・会社への請求(時効3年) |
「会社がただ払ってくれない」だけでは立替払制度は使えません。あくまで倒産(またはそれに準じる状態)が条件です。
未払賃金立替払制度の基本Q&A
いくら立て替えてもらえるの?

立替払の額は、未払賃金総額の8割です。ただし、計算のもとになる未払賃金総額には退職時の年齢に応じた上限があります。
| 退職時の年齢 | 未払賃金総額の上限 | 立替払の上限額(8割) |
|---|---|---|
| 45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
| 30歳以上45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
| 30歳未満 | 110万円 | 88万円 |
たとえば40歳で未払賃金が100万円なら、立替払は80万円です。未払が300万円ある場合は、上限220万円×8割=176万円になります。
なお、未払賃金の総額が2万円未満の場合は対象外です。
どんな「倒産」なら使えるの?
制度上の「倒産」には2つのパターンがあります。
- 法律上の倒産:破産手続開始の決定、特別清算開始の命令、民事再生手続・会社更生手続の開始決定(会社の規模を問わない)
- 事実上の倒産:事業活動が停止して再開の見込みがなく、賃金支払能力もない状態を労働基準監督署長が認定したもの(中小企業のみ)
「事実上の倒産」が使えるのは中小企業だけです。範囲は業種ごとに決まっています。
| 業種 | 資本金 | 常用労働者数 |
|---|---|---|
| 一般産業(製造業・建設業など) | 1億円以下 | または300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | または100人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | または100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | または50人以下 |
社長が夜逃げして会社が止まってしまった、というケースでも、この認定が取れれば制度を使えます(破産手続きをするお金すら残っていない小さな会社では、むしろこちらのルートが多いみたいです)。
また、会社側の要件として「労災保険の適用事業で、1年以上事業活動を行っていたこと」が必要です。労災保険料を会社が滞納していても、適用事業であれば対象になります。
対象になる賃金は?ボーナスは?
対象は、退職日の6か月前から立替払請求日の前日までに支払期日が来ている「定期賃金」と「退職手当」のうち、未払いになっているものです。
- 対象になる:毎月の給料(残業代含む)、退職金(退職金規程などがある場合)
- 対象にならない:賞与(ボーナス)、解雇予告手当、出張旅費などの実費
ボーナスが対象外なのは意外と知られていないので注意です。また、退職金は「もらえるはずだった」だけでは足りず、就業規則や退職金規程で支払いが約束されていたことが必要です。
金額は税金や社会保険料が控除される前の総支給額ベースで計算します。
いつ退職した人が対象?
対象になるのは、破産手続開始の申立て等(事実上の倒産の場合は労基署への認定申請)の「6か月前の日」から「2年の間」に退職した人です。
倒産の前に見切りをつけて辞めた人も、申立ての6か月前以降の退職なら対象に入ります。逆に、それより前に辞めていた人は、未払いがあっても制度の対象外です。
社長や役員、家族従業員も対象になる?
立替払の対象は「労働者」だけです。代表者や取締役などの役員は、原則として対象になりません。
ただし「取締役」の肩書きがあっても、実態は工場長や部長として指揮命令を受けて働き、役員報酬とは別に賃金をもらっていたような兼務役員の場合は、労働者として働いていた部分について対象と認められることがあります。
社長の家族(同居の親族)だけで営んでいる事業は、そもそも労災保険の適用事業に当たらないため対象外です。家族以外の従業員と同じように働いていた親族なら、対象になる余地があります。このあたりは判断が分かれやすいので、労基署に実態を伝えて相談するのが確実だと思います。
手続きの流れQ&A

法律上の倒産の場合、何をすればいい?
破産などの法律上の倒産では、未払賃金の額などを破産管財人(または清算人など)に証明してもらいます。
- 破産管財人等に「証明書」の交付を申請する(未払額・退職日などを証明してもらう)
- 証明書と立替払請求書を労働者健康安全機構へ郵送する
- 機構の審査後、指定口座に立替払金が振り込まれる
管財人の連絡先は、破産手続開始の通知書や債権者向けの書面に書かれています。通常は管財人側も立替払制度を前提に動いてくれるので、案内に沿って進めれば大丈夫です。
事実上の倒産の場合は?
破産手続きが行われていない「事実上の倒産」では、まず労働基準監督署の認定が必要です。
- 事業場を管轄する労基署に「認定申請書」を提出する(退職日の翌日から6か月以内)
- 労基署が事業停止・支払能力なしを調査し「認定通知書」を交付する
- 未払賃金額などについて労基署に「確認申請」をし、「確認通知書」を受け取る
- 確認通知書と立替払請求書を労働者健康安全機構へ郵送する
- 審査後、指定口座に振り込まれる
認定は誰か1人が受ければよく、2人目以降は同じ認定を使って確認申請から進められます。同僚と協力して動くと負担が減りますね。
給与明細やタイムカードの控えがあると、未払額の確認がスムーズです(会社が機能していないと賃金台帳が出てこないことがあるので、手元の資料が物を言います)。
請求の期限はいつまで?

立替払の請求は、破産手続開始の決定日(事実上の倒産は認定日)の翌日から2年以内です。
2年というと余裕がありそうですが、管財人の証明や労基署の確認に時間がかかることもあるので、早めに動いた方がいいと思います。
請求してからどのくらいで振り込まれる?
立替払請求書を機構へ送ってから、審査を経て振り込まれます。即日ではなく、ある程度の期間がかかると考えておいてください。
請求書の記載と証明書・確認通知書の内容に食い違いがあると、差し戻しでさらに時間がかかります。退職日・未払額・口座情報あたりは提出前にもう一度見直した方がいいですね。
生活費が逼迫している場合は、立替払を待つ間のつなぎとして、ハローワークでの失業給付の手続きと、市区町村の生活福祉資金貸付などの相談を並行して進めるのが現実的です。
立替払金に税金はかかる?
かかりますが、給与ではなく退職所得として扱われます(租税特別措置法第29条の4)。毎月の給料分も退職金分も、まとめて退職所得です。
退職所得には退職所得控除があるため、多くの場合、税負担はかなり軽くなります。請求時に「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」を提出すれば、控除を引いた後の金額で源泉徴収されます。
申告書を出さないと一律20.42%が源泉徴収されてしまうので、忘れずに提出してください(その場合も確定申告すれば取り戻せます)。
立替払でカバーされない分はどうなる?
残りの2割やボーナスは請求できる?
立替払を受けても、残りの2割・上限超過分・ボーナスの請求権は消えません。破産手続きの中で配当を受けられる可能性があります。
賃金債権は破産手続きでも優先順位が高く、破産手続開始前3か月分の給料は「財団債権」として配当を待たずに支払われる扱い、それ以外も「優先的破産債権」として一般の債権者より先に配当されます。
とはいえ、会社に財産がほとんど残っていなければ配当はゼロのこともあります。実務感覚としては「立替払の8割が確実に取れる分、残りは取れたらラッキー」くらいに考えておいた方がいいと思います。
なお、立替払を受けた分の賃金債権は機構に移り、機構が会社側へ求償する仕組みです。労働者が二重に受け取ることはできません。
雇用保険や社会保険はどうなる?
倒産による退職は、雇用保険では「特定受給資格者」(会社都合退職)になります。給付制限なしで失業給付を受けられ、給付日数も自己都合より手厚くなります。
離職票は本来会社が手続きするものですが、倒産で会社が機能していない場合は、ハローワークに相談すれば破産管財人経由や職権での発行など、代わりの方法を案内してもらえます。離職票の書類自体の見方は雇用保険・離職証明書(離職票)の書き方で解説しています。

健康保険・厚生年金は退職日(資格喪失日)で切れるので、国民健康保険への切り替えか任意継続、国民年金への切り替えを市区町村・年金事務所で行います。倒産による失業なら、国民健康保険料の軽減制度(前年所得を3割とみなして計算)も使えます。
倒産の兆候があるとき、やっておくべきこと
給与関係の証拠を手元に残す
給料の遅配が始まった、社会保険料の滞納の噂がある——そんな兆候が見えたら、未払額を証明できる資料を個人で確保しておくことが大切です。
- 雇用契約書・労働条件通知書(賃金額の根拠)
- 給与明細(直近1年分くらい)
- タイムカードやシフト表の控え・写真(残業代の根拠)
- 就業規則・退職金規程(退職金を請求する根拠)
- 振込口座の通帳記録(未払いの発生時期の証明)
倒産後は事務所に入れなくなったり、データが見られなくなったりします。「会社にあるから大丈夫」が一番危ないです。
どこに相談すればいい?
- 労働基準監督署:賃金未払いの申告、事実上の倒産の認定申請の窓口
- 総合労働相談コーナー:各労働局・労基署内にあり、何から手を付けるべきか無料で相談できる
- 労働者健康安全機構:立替払請求書の提出先・制度の問い合わせ先
- 弁護士(法テラス):配当の見込みや会社役員への請求まで考える場合
担当者の立場であれば、従業員から聞かれたときに「労基署と労働者健康安全機構の立替払制度」という道筋だけでも案内できると、ずいぶん違うと思います。
まとめ
会社が倒産したときの賃金のポイントを整理します。
- 未払賃金立替払制度で、未払の定期賃金・退職金の8割が立て替えられる(年齢別の上限あり・ボーナス対象外)
- 法律上の倒産は管財人の証明、事実上の倒産(中小企業のみ)は労基署の認定が入口
- 期限は2つ:認定申請は退職日の翌日から6か月以内/立替払請求は決定・認定日の翌日から2年以内
- 立替払金は退職所得扱い。退職所得申告書を出せば税負担はかなり軽い
- 兆候が見えたら、給与明細・雇用契約書・タイムカードの控えを個人で確保しておく
あってほしくない事態ですが、制度を知っているかどうかで受け取れる金額が大きく変わります。頭の片隅に置いておいてください。




