給与計算をしていると、残業代や休日出勤の手当を計算する場面が必ず出てきます。このとき「この残業は25%でいいのか、それとも割増がもっと必要なのか」と迷うことがあると思います。
割増賃金は、時間外・休日・深夜という3つの種類があり、しかもそれが重なると率が変わります。さらに令和5年(2023年)4月からは中小企業の扱いも変わったので、いちど整理しておかないと計算ミスにつながります。
今回は、割増賃金とは何か、そしてどんなときに何%の割増になるのかという「割増率の一覧」を、担当者目線でまとめました。実際の計算の細かい手順より、まずは「全体像をつかむ」ことを目的にしています。
毎月の給与計算の流れ全体は給与計算入門~初心者の方にやり方・ルールなどの全体の流れでまとめているので、あわせてご覧ください。

割増賃金とは?(労働基準法第37条)
割増賃金とは、ざっくり言うと「通常の労働時間を超えて働いてもらったときや、深夜・休日に働いてもらったときに、通常の賃金に上乗せして払うお金」のことです。
割増賃金の定義
根拠になっているのは労働基準法第37条です。時間外労働・休日労働・深夜労働をさせた場合は、通常の賃金に一定の割増率を上乗せして支払わなければならない、と定められています。
なぜ割増を払う必要があるの?
理由は2つあると言われています。1つは、長時間労働や深夜労働という負担の重い働き方に対して、その分の補償をするためです。もう1つは、割増という形で会社のコストを上げることで、安易な残業をさせない(長時間労働を抑制する)ためです。
「残業させると会社のお金がよけいにかかる」という仕組みにすることで、ムダな残業を減らそうという狙いもあるわけですね。
割増賃金の3つの種類(時間外・休日・深夜)

割増賃金には、大きく分けて次の3種類があります。
- 時間外労働:法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて働いたとき
- 休日労働:法定休日に働いたとき
- 深夜労働:22時から翌朝5時までの間に働いたとき
この3つはそれぞれ別の割増で、条件が重なれば足し算になります(たとえば深夜に残業すれば、時間外+深夜の両方がつきます)。ここがあとで効いてくるので、まず「3種類ある」と覚えておいてください。
前提:知っておきたい「法定労働時間」と残業の種類
割増率の話に入る前に、どうしても押さえておきたい前提があります。実は「残業」と一口に言っても、割増がいる残業といらない残業があるんですね。
法定労働時間とは(1日8時間・週40時間)
労働基準法では、働かせてよい時間の上限を1日8時間・週40時間と定めています。これを法定労働時間といいます。割増賃金(時間外)が必要になるのは、この法定労働時間を超えたときです。
ちなみに、法定労働時間を超えて残業させるには、あらかじめ36協定(時間外・休日労働に関する労使協定)を結んで労働基準監督署に届け出ておく必要があります。割増を払えばいくらでも残業させてよい、というわけではない点も頭に入れておきたいです。
法定内残業と法定外残業の違い
会社が決めている「所定労働時間」が、法定労働時間より短いこともあります。たとえば所定労働時間が1日7時間の会社で、8時間まで働いた場合の「7時間〜8時間」の1時間分です。
この1時間は、所定の時間を超えてはいますが、法定の8時間は超えていません。これを法定内残業といいます。
【ポイント】法定内残業は割増不要・法定外残業は割増必要
・法定内残業(所定は超えるが8時間以内)=割増は不要。ただし働いた分の通常の賃金(1時間分)は当然支払います。
・法定外残業(8時間を超える分)=25%以上の割増が必要。
「残業=必ず25%増し」と思い込んでいると、法定内残業に割増をつけすぎてしまうことがあるので注意してください(払いすぎる分には違反ではありませんが、ルールは知っておきたいです)。
「法定休日」と「所定休日」の違い

休日も2種類あります。労働基準法では、週に1日(または4週に4日)の休日を与えることが義務づけられていて、これを法定休日といいます。
週休2日制の会社だと、2日のうち1日が法定休日、もう1日は会社が任意で決めた所定休日(法定外休日)になります。
- 法定休日に働いた=休日労働として35%以上の割増
- 所定休日に働いた=休日労働ではなく、時間外労働(週40時間を超えれば25%以上)として扱う
同じ「休みの日の出勤」でも、法定休日か所定休日かで割増率が変わってくるんですね。どちらを法定休日にするかは就業規則で決めておくのが望ましいです。
割増賃金の割増率一覧
前提が整理できたところで、本題の割増率を見ていきます。まずは1種類ずつです。
時間外労働=25%以上
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた時間外労働は、25%以上の割増になります。これがいちばん基本の割増ですね。
深夜労働(22時〜5時)=25%以上
22時から翌朝5時までの間に働いた場合は、深夜労働として25%以上の割増になります。深夜割増は時間外とは別枠なので、たとえ法定労働時間内であっても、その時間帯に働けば深夜割増がつきます。
法定休日労働=35%以上
法定休日に働いた場合は、35%以上の割増になります。割増率がいちばん高いのがこの休日労働です。
なお、休日労働には「8時間を超えたら時間外」という考え方は適用されません。法定休日の労働は何時間働いても休日労働の35%で計算します(ただし深夜の時間帯に入れば深夜割増が加わります)。
割増が重なったときの率
ややこしいのが、複数の割増が重なるケースです。たとえば「残業が深夜まで及んだ」「休日に深夜まで働いた」といった場合ですね。このときは割増率を足し算します。
- 時間外+深夜 = 25% + 25% = 50%以上
- 法定休日+深夜 = 35% + 25% = 60%以上
- 月60時間超の時間外+深夜 = 50% + 25% = 75%以上
「時間外と休日が同時に重なる」ことは基本的にありません。法定休日の労働はそもそも休日労働(35%)として扱うので、そこに時間外の25%を足すことはしないからです。
割増率ひとめ早見表

| 労働の種類 | 割増率 | 備考 |
|---|---|---|
| 時間外労働(月60時間以内) | 25%以上 | 1日8時間・週40時間を超えた分 |
| 時間外労働(月60時間超の部分) | 50%以上 | 2023年4月から中小企業も対象 |
| 深夜労働 | 25%以上 | 22時〜翌5時 |
| 法定休日労働 | 35%以上 | 週1日の法定休日 |
| 時間外+深夜 | 50%以上 | 25%+25% |
| 法定休日+深夜 | 60%以上 | 35%+25% |
| 月60時間超の時間外+深夜 | 75%以上 | 50%+25% |
「以上」と書いているのは、これが法律で定められた最低ラインだからです。会社が就業規則でこれより高い割増率(時間外30%など)を定めるのは問題ありません。自社の就業規則の率も一度確認しておくとよいと思います。
【2023年4月〜】月60時間超の割増率は50%(中小企業も対象に)

割増率で近年いちばん大きかった変更が、月60時間を超える時間外労働の割増率です。
何が変わった?(猶予措置の廃止)
もともと、月60時間を超える時間外労働の割増率は50%以上と決まっていましたが、中小企業については当面25%でよいという猶予措置がありました。
この猶予措置が2023年(令和5年)4月1日に廃止され、中小企業でも月60時間を超える残業には50%以上の割増を払わなければならなくなりました。大企業はそれ以前から50%だったので、これで企業規模にかかわらず同じルールになった形です。
【参考】改正前後の比較(中小企業の場合)
・改正前(〜2023年3月):月60時間を超えても割増率は25%でよかった
・改正後(2023年4月〜):月60時間を超える部分は50%以上が必要
「月60時間」の数え方(休日労働は含む?)
月60時間のカウントには、いくつか押さえておきたいルールがあります。
- カウント対象は時間外労働(法定外残業)。所定休日(法定外休日)の労働も時間外なので含まれます。
- 法定休日の労働は休日労働(35%)なので、60時間のカウントには含みません。
- 深夜労働そのものは含みませんが、時間外が深夜に及んだ分は時間外としてカウントします。
「法定休日の労働は60時間に含まない」というのは間違えやすいところなので、注意したいポイントです。
代替休暇制度(割増の代わりに休みを与える)
月60時間を超える残業については、引き上げ分(25%から50%への上乗せ分)の割増賃金を支払う代わりに、有給の休暇を与えるという「代替休暇」の制度もあります。
これを使うには労使協定を結ぶ必要があり、本人が希望することが前提です。長時間働いた人に休んでもらうための仕組みですが、実際に導入している会社はそれほど多くない印象ですね。
割増賃金の計算の考え方
細かい計算手順は別の機会にゆずりますが、考え方だけ押さえておきます。
基本の考え方(1時間あたりの賃金×割増率×時間)
割増賃金は、おおまかには次の式で計算します。
1時間あたりの賃金 × 割増率 × 割増の対象となった時間数
「1時間あたりの賃金」は、月給制なら「月給 ÷ 1か月の平均所定労働時間」で出します。ここの計算が割増賃金のキモになる部分です。
かんたんな計算例
【例】1時間あたりの賃金が2,000円の人が、平日に2時間残業した場合
・割増率:時間外なので25%
・計算:2,000円 × 1.25 × 2時間 = 5,000円
(このうち通常賃金分が2,000円×2=4,000円、割増の上乗せ分が1,000円というイメージです)
深夜まで残業が及んだ場合は、その時間帯は割増率が1.5(時間外25%+深夜25%)になる、という具合に率を入れ替えて計算していきます。
計算の基礎に入れない手当(家族手当・通勤手当など)
「1時間あたりの賃金」を計算するとき、すべての手当を含めるわけではありません。次の手当は、割増賃金の計算の基礎から除いてよいとされています。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金・賞与
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
注意したいのは、これらは名称ではなく実態で判断される点です。たとえば「家族手当」という名前でも、家族の人数に関係なく全員一律に支給しているなら、それは家族手当とは認められず計算の基礎に含めることになります。手当の名前だけで除外しないよう気をつけたいところです。
割増賃金で間違えやすいポイント
最後に、実務でつまずきやすいポイントを整理しておきます。
管理監督者でも深夜割増は必要
いわゆる管理監督者(労働時間の規制が及ばない立場の人)には、時間外割増と休日割増は発生しません。ですが、深夜割増だけは管理監督者にも支払う必要があります。
「管理職だから残業代は一切いらない」と思い込んでいると、深夜割増の払い忘れにつながります。ここは見落としやすいので注意してください。
固定残業代(みなし残業)でも超えたら追加で支払う
固定残業代(みなし残業代)を導入している会社もあります。これは「毎月◯時間分の残業代をあらかじめ固定で払う」という仕組みです。
勘違いされやすいのですが、固定残業代を払っていても、実際の残業がその時間を超えたら、超えた分は別途支払う必要があります。「固定残業代を払っているから、いくら残業させても追加はいらない」というのは間違いです。
歩合給・年俸制にも割増は発生する
歩合給(出来高払い)や年俸制の人にも、割増賃金は発生します。年俸制だから残業代を払わなくていい、というのもよくある誤解です。
歩合給の場合は割増の計算方法が通常と少し違いますが、いずれにせよ「割増賃金が発生しない働き方」というのは基本的にない、と考えておいた方が安全です。
まとめ
割増賃金は、時間外(25%以上)・深夜(25%以上)・法定休日(35%以上)の3種類が基本で、これらが重なると率を足し算します。さらに月60時間を超える時間外は50%以上で、2023年4月からは中小企業も対象になりました。
ポイントは、「法定内残業と法定外残業」「法定休日と所定休日」といった区別で割増の有無や率が変わってくることです。ここを押さえておけば、給与計算で「この時間は何%?」と迷ったときの判断がしやすくなると思います。
困ったときの確認用に、参考にしてください。
割増賃金に関するよくある質問
- 管理職には残業代(割増賃金)は出ないのですか?
-
労働基準法上の「管理監督者」に当たる場合は、時間外割増と休日割増は発生しません。ただし深夜割増は管理監督者にも必要です。また、役職名が「管理職」でも、実態が管理監督者の要件(経営者と一体的な立場・出退勤の自由・相応の待遇)を満たしていなければ、通常どおり残業代の支払いが必要になります。
- 代休と振替休日で割増賃金は変わりますか?
-
変わります。振替休日は、事前に休日と労働日を入れ替えるので、その日は最初から労働日扱いとなり休日割増は発生しません(週40時間を超えれば時間外割増は別途必要)。一方、代休は休日労働をさせた後で代わりの休みを与えるものなので、休日労働の事実は残り、休日割増の支払いが必要です。
- パート・アルバイトにも割増賃金はつきますか?
-
つきます。割増賃金は雇用形態に関係なく適用されるので、パート・アルバイトでも、法定労働時間を超えて働いたり深夜・法定休日に働いたりすれば割増賃金が必要です。週の所定労働日数が少ない人でも、1日8時間や週40時間を超えれば時間外割増の対象になります。
- 就業規則で割増率を法律より高く設定してもいいですか?
-
問題ありません。法律で定められた割増率(時間外25%以上など)はあくまで最低ラインなので、これを上回る率を会社が独自に設定するのは自由です。逆に、最低ラインを下回る率にすることはできません。自社の就業規則の割増率がいくつになっているかは確認しておきましょう。
- 残業が1時間に満たない端数の時間はどう扱いますか?
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残業時間を分単位で正確に計算するのが原則です。日々の残業を15分単位や30分単位で切り捨てるのは、原則として認められません。ただし、1か月の残業時間を合計した結果に出た1時間未満の端数を、30分未満切り捨て・30分以上切り上げで処理することは、事務簡便のため認められています。
- 休日に出勤して8時間を超えて働いたら、休日割増に時間外割増も足されますか?
-
法定休日の労働であれば、何時間働いても休日割増(35%以上)で計算し、時間外割増(25%)は重ねません。法定休日には時間外労働という概念がないためです。ただし、その時間帯が深夜(22時〜5時)に及んだ場合は、深夜割増(25%)が加わって60%以上になります。




