労働契約とは_雇用契約書と労働条件通知書の違い

新しい従業員を採用するとき、「雇用契約書」と「労働条件通知書」のどちらを準備すればいいのか、ちょっと迷いませんか?

名前が似ているので「同じものでしょ?」と思いがちなんですが、実は法的な根拠も性質も別物です。さらにこの2つの上に「労働契約」という概念があって、3つの関係を整理できていないと、いざトラブルになったときに会社側がかなり不利になります。

私も入社直後は「契約書を渡せばOK」くらいに考えていました。ですが、労基署の調査が入ったときに「労働条件通知書はありますか?」と聞かれ、雇用契約書しか出せず冷や汗をかいた、という話を先輩から聞いて整理し直した記憶があります(あのときの空気はいまだに覚えてますね…)。

この記事では、労働契約・雇用契約書・労働条件通知書の3つの違いから、2024年4月改正で追加された明示事項、書類がないと裁判や労基署調査でどうなるか、実務での使い分けまでまとめました。総務・人事の新任の方の整理用として参考にしてください。

タップできるもくじ

労働契約・雇用契約書・労働条件通知書の関係をざっくり整理

まず一番混乱しがちな「3つの関係」を頭に入れておきます。

3つは何を指している?関係図

  労働契約という概念の中身を労働条件通知書と雇用契約書が担う関係図

ざっくり言うと、こんな関係になっています。

  • 労働契約:会社と労働者の「働く約束」そのもの(書面の名前ではなく概念)
  • 労働条件通知書:会社が労働者に対して労働条件を一方的に明示する書面(労働基準法上の義務)
  • 雇用契約書:会社と労働者が双方で合意したことを証明する書面(民法・労働契約法上の任意書類)

労働契約という大きな箱があって、その中身を会社から労働者へ伝えるのが「労働条件通知書」、双方で合意した証拠として残すのが「雇用契約書」というイメージですね。

「労働契約」は概念、「雇用契約書」「労働条件通知書」は書面の名前

ここがいちばん混乱しやすいポイントです。「労働契約」自体は書面の名前ではありません。会社と労働者が「働く・働かせる」と合意した時点で成立する**概念**です。書面がなくても、口頭でも成立します。

その労働契約の中身を文書にしたものが、「労働条件通知書」と「雇用契約書」の2つ、という整理ですね。

比較表で違いを確認

3つの違いを表でまとめます。

項目労働契約労働条件通知書雇用契約書
性質合意(概念)使用者の一方的な明示書面双方の合意を証明する書面
根拠法労働契約法労働基準法第15条民法・労働契約法
作成義務なし(口頭でも成立)あり(交付義務)なし(任意)
合意の要否必要不要(一方的に通知)必要
署名・記名押印不要不要(使用者の交付のみ)双方の署名or記名押印が必要
違反時の罰則30万円以下の罰金

労働条件通知書は法律で「出さないとダメ」と決まっているのに対して、雇用契約書は「出さなくてもいいけど、出した方が安全」という位置づけです。

労働契約とは?労働契約法上の位置づけ

まず一番上の概念である「労働契約」から見ていきます。

労働契約の定義(労働契約法第6条)

労働契約は、労働契約法第6条で次のように定義されています。

【労働契約法第6条】

労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

つまり「働く側が指揮命令に従って働く」「会社が賃金を払う」、この2つを双方が合意すれば労働契約は成立する、というシンプルな考え方です。

労働契約の成立要件(書面は不要・口約束でも成立)

労働契約の成立に**書面は必須ではありません**。口頭でも、メールのやり取りでも、双方の合意さえあれば成立します。

たとえば「来月から月給25万円でお願いします」「了解しました」というメールのやり取りでも、それは立派な労働契約。だからこそ後でトラブルになりやすいんですね(口頭の合意は、言った言わないになりがちです)。

労働契約と就業規則・労働協約の関係

労働条件のルールには優先順位があります。

① 法令(労働基準法など) `→` ② 労働協約 `→` ③ 就業規則 `→` ④ 労働契約

個別の労働契約が一番下です。たとえば就業規則で「月給25万円以上」と決められているのに、個別の労働契約で「月給20万円」としていたら、その20万円の部分は無効になり、自動的に就業規則の25万円が適用されます。

労働条件通知書とは?労働基準法第15条の明示義務

次に「労働条件通知書」です。これが法律で出すと決まっている書面です。

通知書は使用者から労働者への一方的な明示

労働条件通知書は、労働基準法第15条に基づき、使用者が労働者を雇い入れるときに労働条件を**書面で明示**する義務がある書面です。

あくまで「会社から労働者への一方的な通知」なので、労働者の合意は不要。署名・押印も求められていません(会社が一方的に渡す、という性質ですね)。

書面交付が原則・電子化は本人希望時のみ

2019年4月以降、労働者本人が希望すれば、FAX・電子メール・SNSメッセージなど電子的な方法での明示も認められるようになりました。

  • 原則は書面交付
  • 労働者が希望した場合に限り電子化が可能
  • 電子化する場合も、労働者が書面に出力できる形式(PDFなど)が必要

会社が勝手に「うちは電子化です」と決めることはできない、という点は注意ですね。

違反すると30万円以下の罰金

労働条件通知書の交付義務に違反すると、労働基準法第120条により30万円以下の罰金に処されます。

金額自体は重くないですが、労基署の臨検(調査)でこの不備が見つかると、後ほど詳しく書く是正勧告の対象になります。

雇用契約書とは?合意を証明する書面

続いて、よく一緒に出てくる「雇用契約書」のほうを見ていきます。

民法・労働契約法上の任意書類

雇用契約書は、民法第623条の「雇用契約」と労働契約法上の「労働契約」を文書化したものです。

労働条件通知書と違って、これを作る法的義務はありません(任意です)。ただし、合意したことを証明する役割があるので、実務的にはほとんどの会社で作成・保管されています。

双方の署名・記名押印で成立

雇用契約書は双方の合意を残す書面なので、会社(使用者)と労働者の両方の署名または記名押印が必要です。一方だけのサインでは契約書として機能しません。

電子契約サービス(クラウドサインなど)を使えば、電子署名法に基づいて電子的に締結することもできます。最近は中小企業でも電子化が広がっている印象ですね。

作成義務はないが実務では必須レベル

「義務がないなら作らなくていいか」と考える方もいますが、これはおすすめできません。

雇用契約書がないと、後ほど書く裁判や労使トラブルで会社側が著しく不利になります。「言った言わない」を防ぐためにも、作るのが当たり前の運用にしておくのが安全です。

必ず明示すべき項目(絶対的明示事項)

労働条件通知書には、必ず書かないといけない項目(絶対的明示事項)と、制度がある場合だけ書く項目(相対的明示事項)があります。

絶対的明示事項の一覧(9項目)

労働者を雇い入れる際、書面で必ず明示しなければならないのが次の9項目です(2024年4月改正分を含む)。

  • ① 労働契約の期間(有期か無期か)
  • ② 有期労働契約を更新する場合の基準
  • ③ 就業場所・業務内容とその変更の範囲(2024年4月新設)
  • ④ 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇、交替制勤務に関する事項
  • ⑤ 賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期
  • ⑥ 退職に関する事項(解雇事由を含む)
  • ⑦ 昇給に関する事項
  • ⑧ 有期契約の更新上限(2024年4月新設)
  • 無期転換申込機会と無期転換後の労働条件(2024年4月新設)

このうち⑦(昇給)だけは口頭でもOKとされていますが、それ以外は書面で出すのが原則です。

2024年4月改正で追加された4項目(就業場所等の変更範囲・更新上限・無期転換)

令和6年(2024年)4月から、労働条件明示のルールが改正されて、次の4項目が新しく明示義務に追加されました。

追加項目対象内容
就業場所・業務の変更範囲すべての労働者配置転換・転勤などで変わる可能性のある範囲を明示
更新上限の有無と内容有期労働者「通算4年まで」「更新は3回まで」など、上限がある場合は明示
無期転換申込機会有期労働者(無期転換ルール対象者)無期転換を申し込めるタイミングを明示
無期転換後の労働条件有期労働者(無期転換ルール対象者)無期転換後の労働条件を明示

すでに通知書のひな形が古いままという会社さんは、この4項目が抜けている可能性が高いので、令和6年4月以降に採用した分はチェックしておいた方がいいですね。

相対的明示事項(制度がある場合のみ明示)

絶対的明示事項とは別に、制度がある会社だけ明示すればいい項目もあります。

  • 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定方法・計算方法・支払時期
  • 臨時の賃金、賞与、最低賃金額
  • 労働者に負担させる食費・作業用品など
  • 安全・衛生
  • 職業訓練
  • 災害補償・業務外の傷病扶助
  • 表彰・制裁
  • 休職

こちらは口頭で説明してもOKとされていますが、書面で残しておいた方が後々トラブルにならない、というのが実務の感覚です。

雇用契約書兼労働条件通知書(兼用書式)の作り方

2つの書面、別々に作るのは正直しんどいですよね。実務では「兼用書式」が広く使われています。

兼用書式が実務スタンダード

「雇用契約書兼労働条件通知書」または「労働条件通知書兼雇用契約書」というタイトルで、1つの書面の中に労働条件通知書の絶対的明示事項を全部書き、最後に双方の署名欄を設ける、というスタイルです。

これなら明示義務(労基法)双方の合意の証明(民法・労契法)を一枚で同時に満たせるので、実務効率がいいです。中小企業はほぼ兼用書式と考えていいと思います。

必ず入れる項目と署名欄の作り方

兼用書式に最低限入れる項目はこんな感じです。

STEP
タイトルと当事者欄

「雇用契約書兼労働条件通知書」というタイトル、会社名・代表者名、労働者氏名を書きます。日付(契約締結日)も忘れずに。

STEP
絶対的明示事項を9項目すべて記載

労働契約期間、更新基準、更新上限、就業場所・業務内容と変更範囲、労働時間、賃金、退職事由、昇給、無期転換関連を順に書きます。厚労省のモデル労働条件通知書をベースにすれば抜けが防げます。

STEP
相対的明示事項を該当分だけ追加

退職手当・賞与・休職など、自社の制度があるものだけ追加します。「就業規則による」と記載して詳細は就業規則に委ねる書き方も実務では一般的です。

STEP
双方の署名・記名押印欄を設ける

使用者(会社)と労働者の双方の署名または記名押印欄を最後に置きます。これで「双方の合意の証明」も成立します。同じ書面を2部作成し、会社と労働者がそれぞれ1部ずつ保管するのが基本です。

雇用契約書兼労働条件通知書を1枚で作る4ステップのフロー図

電子化するときの注意点

電子化するときは、労働条件通知書としての要件と、雇用契約書としての要件の両方を満たす必要があります。

  • 労働条件通知書としての電子化 → 労働者本人の希望が必要、書面出力可能な形式(PDF等)
  • 雇用契約書としての電子化 → 電子署名法に基づく電子署名が必要

クラウドサインや電子印鑑GMOサインなどの電子契約サービスを使えば、両方の要件を同時に満たせます。ただし、労働者が「紙でほしい」と言ったら紙で出さないとダメ、という点は念のため覚えておいてください。

3つの書面の法的効力と実務上の扱い

ここまで個別に見てきた3つの書面ですが、効力の強さと実務での使い方を比べると、それぞれの役割がはっきりします。

「労働契約」の効力(労契法・口頭でも成立する強さ)

労働契約は概念なので、書面の有無に関係なく合意があれば成立します。一度成立すると、労契法の保護(解雇権濫用法理など)が双方に適用されます。

つまり「契約書を作っていないから、いつでも辞めさせられる」というのは間違い。書面がなくても労働契約は成立していて、解雇するには合理的な理由が必要です。

「労働条件通知書」の効力(労基法15条の明示義務違反は罰則対象)

労働条件通知書の効力は、ちょっと特殊です。これは契約の中身を「会社が労働者に説明した証拠」になります。

もし通知書の中身と実際の労働条件が違っていた場合、労働者は労働基準法第15条第2項に基づいて即時に労働契約を解除できます。これに加え、罰則として30万円以下の罰金もあります。

「雇用契約書」の効力(双方合意の証明=裁判での切り札)

雇用契約書は、双方が合意した「契約内容」を証明する書面です。法的義務はありませんが、効力としては裁判で切り札になるのが大きいです。

労働条件通知書は「会社が一方的に出した」だけで、労働者が合意したことの証拠にはなりにくいので、紛争になったときに「実は労働者は別の条件で同意していた」と主張されるリスクがあります。雇用契約書(または兼用書式)があれば、その主張はかなり難しくなります。

効力と実務リスクを比較表で整理

労働契約・労働条件通知書・雇用契約書の効力と欠けたときのリスクの比較図
書面主な効力欠けたときのリスク
労働契約(口頭含む)労働関係の発生・労契法の保護—(書面の有無に関係なく成立)
労働条件通知書明示義務の履行・労働条件の証明罰金・労基署是正勧告・労働者の即時解除権
雇用契約書双方合意の証明・裁判での証拠裁判で会社側が圧倒的に不利になる

3つの書面はそれぞれカバーする役割が違うので、どれかひとつだけあればいい、という発想は危険ですね。

実務での使い分け(中小は兼用書式、有期や派遣は分離など)

実務的には、会社の規模・雇用形態によって使い分けるとスムーズです。

  • 中小企業の正社員採用:兼用書式1枚で済ませる(ほとんどのケース)
  • 有期契約・更新あり:兼用書式+更新時の覚書を毎回作成(更新基準・更新上限・無期転換の明示が重要)
  • 派遣社員の受け入れ:派遣会社が労働条件通知書を交付。受け入れ先は労働者派遣個別契約書を派遣会社と結ぶ
  • 大企業・グループ会社:雇用契約書(双方合意)と労働条件通知書(明示義務)を分けて運用するケースもあり

とりあえず中小企業の総務担当者であれば、「兼用書式の精度を上げる」一択でいいと思います。

書類がないとどうなる?裁判・労基署調査への影響

「雇用契約書なんてなくても困ったことない」という会社さんもありますが、いざ問題が起きたときの影響は大きいです。

裁判では「書面なし=使用者が圧倒的に不利」(東京地裁H30.3.9判決)

残業代請求や解雇無効訴訟などで雇用契約書が出てこないと、裁判所は「労働者の主張」を採用する傾向があります。

典型例が東京地方裁判所 平成30年3月9日判決のケースで、飲食店の残業代計算の基礎賃金額について、雇用契約書も労働条件通知書も作っていなかった事案です。裁判所は求人広告の内容や採用時の会話内容から契約条件を認定し、結果として会社側の主張は退けられました。

【ポイント】裁判での「書面なし」のリスク

書面がないと、裁判所は求人広告・募集要項・採用時のメール・口頭での説明といった外形的な証拠から契約条件を推定します。求人広告に「月給25万円」とだけ書いていた場合、それが固定額として認定されてしまうことがあります(「実際は残業代込み25万円」と後で主張しても通りにくい)。

労基署の臨検で書類が出せないと是正勧告書が発行される

労基署の調査(臨検)が入ったとき、最初に求められる書類のひとつが「直近採用者の労働条件通知書または雇用契約書」です。

これが提出できないと、労働基準法第15条違反として是正勧告書が交付されます。流れはだいたい次のような感じです。

STEP
労基署から調査の通知

電話または来訪で調査開始が告知されます。書類準備の期間(数日〜2週間程度)が設けられます。

STEP
監督官による調査実施

労働条件通知書・雇用契約書・賃金台帳・タイムカード・就業規則などをチェックされます。労働者へのヒアリングが入ることもあります。

STEP
是正勧告書の交付

不備が見つかると是正勧告書(または指導票)が交付されます。期限内に是正報告書を提出する必要があります。

STEP
是正報告書の提出

是正した内容を文書で報告します。提出期限を過ぎると再監督が入る可能性が高くなります。

労基署調査の通知から是正勧告までの流れと書類送検リスクを示すフロー図

是正勧告を無視すると6か月以下の拘禁刑 or 30万円以下の罰金

是正勧告書自体に直接の法的拘束力はありませんが、これを無視して放置すると労働基準法違反として書類送検される可能性があります。

労基法120条違反で6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。さらに会社名が公表されることもあり、レピュテーション(評判)への影響が大きいですね。

派遣業・警備業など許可業種は許可取消リスクも

労働者派遣業・有料職業紹介事業・警備業など、厚労省や警察の許可が必要な業種では、労基法違反が許可要件の欠格事由になることがあります。

実際に労基法違反の是正勧告を放置したことで派遣業の許可更新ができなかった、という事例もあります。許可業種の方は特に厳しめに運用しておくのが安全です。

ありがちな誤解と運用上の注意点

労働契約まわりで現場でよく聞く誤解を整理しておきます。

口約束でも労働契約は成立する

「契約書を交わしていないから雇っていない」「正式入社じゃない」という主張は通りません。労働者が指揮命令に従って働き、会社が賃金を払っていれば、書面の有無に関係なく労働契約は成立しています。

つまり「試用で雇っているだけだから契約書は要らない」というのは間違いで、試用期間中も労働契約は成立しています。

雇用契約書なしは違法ではないが、リスクは大きい

「雇用契約書を作る義務はない」というのは法律的には正しいんですが、これを「だから作らなくていい」と理解するのは危険です。

裁判・労基署調査・労働者からの開示請求など、雇用契約書がないことで会社側が不利になる場面は多々あります。「義務はないけど実質必須」と覚えておいた方がいいですね。

パート・アルバイト・短時間労働者は別の明示義務あり

パート・アルバイトには、労働基準法とは別に「パートタイム・有期雇用労働法」に基づく明示義務が上乗せされます。

  • 昇給の有無
  • 退職手当の有無
  • 賞与の有無
  • 相談窓口

この4項目は正社員には不要なんですが、パート・アルバイト・有期労働者には明示が必要です(厚労省のパート用モデル労働条件通知書を使えば抜けません)。

派遣社員には派遣会社が明示する

派遣社員の労働条件通知書は、雇用関係のある派遣元(派遣会社)が交付します。派遣先(受け入れ先の会社)が出すものではありません。

派遣先と派遣会社の間で結ぶ「労働者派遣個別契約書」は別物です。混乱しやすいので、派遣を受け入れている会社さんは派遣元との書類の区別を意識しておくと安心ですね。

労働契約・労働条件通知書まわりの関連手続き

労働契約の締結とあわせて行う実務的な手続きをまとめておきます。

入社時の手続き全体の流れ

労働条件通知書・雇用契約書だけでなく、入社時には社会保険・雇用保険・税務などさまざまな手続きが発生します。総合的な流れは別記事でまとめているのでよかったらご覧ください:入社説明や注意点など<入社後の手続・準備>詳細解説です。

採用後の社会保険・雇用保険の手続き

労働条件通知書を交付したら、入社日に合わせて社会保険の資格取得届(5日以内)と雇用保険の資格取得届(翌月10日まで)を出します。所得税の扶養控除等申告書も同時に回収しておくとスムーズです。

このあたりは別記事で個別に解説しています。

まとめ

労働契約・雇用契約書・労働条件通知書のポイントをおさらいします。

  • 「労働契約」は概念。書面がなくても口頭で成立する
  • 「労働条件通知書」は労基法15条の明示義務に基づく書面。交付義務あり・違反は30万円以下の罰金
  • 「雇用契約書」は双方合意の証明書面。作成義務はないが裁判で切り札になる
  • 実務は「雇用契約書兼労働条件通知書」の兼用書式が標準
  • 2024年4月から明示事項が4つ追加(就業場所等の変更範囲・更新上限・無期転換)
  • 書類がないと裁判で求人広告等から契約条件が認定され、会社側が不利になる
  • 労基署調査では真っ先に求められる書類。出せないと是正勧告書が交付される

とりあえず、自社の労働条件通知書のひな形が令和6年4月改正の4項目に対応しているかチェックして、入社者全員に交付・保管する運用に整えるのが先決だと思います。

よくある質問(FAQ)

労働条件通知書だけ作って、雇用契約書はなくても問題ない?

労基法上は問題ありません。雇用契約書は法的な作成義務がないので、労働条件通知書だけでも違法にはならないです。ただし、裁判で「労働者の合意があった」ことを証明する書面がないので、後々のトラブル時に会社側が不利になります。実務的には兼用書式で1枚にしてしまうのが安全です。

入社後に労働条件を変更したいときはどうする?

労働者の合意を得て、変更内容を書面で残します。「労働条件変更通知書」や「労働条件変更同意書」を交わすのが一般的です。会社の都合で一方的に賃金を下げる・労働時間を増やすなどはできません(労働契約法第8条)。

外国人労働者にも日本語の通知書でいい?

原則として日本語でOKですが、本人が日本語を十分に理解できない場合は、本人が理解できる言語での明示が望ましいとされています。厚労省は英語・中国語・ベトナム語など13言語の外国語版モデル労働条件通知書を公開しているので、活用するといいです。

労働条件通知書の保存期間はどれくらい?

労働基準法第109条で、労働関係に関する重要書類の保存期間は5年(当分の間は3年)とされています。退職後5年(または3年)は保管しておくと安全です。電子化していても、保存要件を満たす形で保管が必要です。

採用面接時に提示した条件と入社時の条件が違ったらどうなる?

労働基準法第15条第2項により、労働者は即時に労働契約を解除できます。さらに労働者が転居していた場合は、14日以内なら帰郷旅費を会社が負担しなければなりません。条件変更は事前に書面で合意を取りましょう。

兼用書式の雇用契約書を電子化したいけど、労働者が紙でほしいと言ったら?

労働者が紙を希望したら、紙で出さなければなりません。労働条件通知書の電子化は「労働者本人の希望」が要件なので、希望していない人に電子で渡しただけだと交付義務違反になります。会社側で勝手に「全員電子で」とは決められない点に注意です。

参考リンク

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