地震や大雨といった災害、取引先の倒産、情報の流出、ベテラン社員の急な退職。会社のまわりには、考え出すときりがないほどのリスクがあります。とはいえ、すべてを心配していたら仕事が進みません。
大切なのは、起こりうることをあらかじめ把握して、優先順位をつけて備えておくことです。これが「リスクマネジメント」で、総務はその旗振り役を任されることが多い部署です。
今回は、リスクマネジメントとは何かという基本から、会社にひそむリスクの種類、進め方の4ステップ、そしてBCP(事業継続計画)との関わりまでを整理しました。難しい専門知識がなくても進められる内容なので、よかったら参考にしてください。
リスクマネジメントとは?
まずは言葉の意味を整理しておきます。似た言葉が多い分野なので、ここを押さえておくと進め方が見えてきます。
リスクマネジメントの意味
リスクマネジメントとは、会社に損害を与えそうな出来事をあらかじめ洗い出し、起きる前に対策を打っておく一連の取り組みを指します。日本語では「リスク管理」と呼ばれます。
ポイントは「起きる前」に動くという点です。問題が起きてから慌てて対応するのではなく、事前に「もし起きたらどうするか」を決めておく。これによって、いざというときの被害を小さく抑えられます。保険に近い発想ですね。
危機管理(クライシスマネジメント)との違い

よく混同されるのが「危機管理(クライシスマネジメント)」です。両者は対応する時期がちがいます。リスクマネジメントが「問題が起きる前の備え」なのに対し、危機管理は「実際に問題が起きてしまった後の収束」を担います。
たとえば情報漏えいなら、流出を防ぐルール作りがリスクマネジメント、漏れてしまった後の謝罪や原因究明が危機管理です。どちらも必要ですが、まずは被害そのものを減らせるリスクマネジメントから整えていくのが順番としておすすめです。
会社にはどんなリスクがある?
備える前に、まずは敵を知ることから。会社が直面しやすいリスクを、分野ごとに整理してみます。
| 分野 | 主なリスクの例 |
|---|---|
| 災害・事故 | 地震・台風・火災・停電、設備の故障、感染症の流行 |
| 人・労務 | キーパーソンの退職、人手不足、労災、ハラスメント、過重労働 |
| 情報・システム | 情報漏えい、不正アクセス、データの消失、システム停止 |
| 財務・取引 | 取引先の倒産、売掛金の未回収、資金繰りの悪化、為替や原材料費の変動 |
| コンプライアンス | 法令違反、不正・横領、SNSでの炎上、製品やサービスのトラブル |
こうして並べると数は多いですが、すべてに同じ力を注ぐ必要はありません。大事なのは、自社にとって「起こりやすく、起きたら痛い」リスクを見きわめて、そこから優先的に手を打つことです。次の章で、その絞り込み方を見ていきましょう。
リスクマネジメントの進め方

進め方は、次の4つのステップで考えるとわかりやすいです。順番に回していくサイクルとして覚えてください。
まずは「自社にどんなリスクがあるか」をできるだけ多く書き出します。部署ごとに「困りそうなこと」を出し合うと、現場ならではのリスクが見えてきます。この段階では、あり得そうなものを幅広く挙げるのがコツです。
洗い出したリスクを「起きやすさ(発生頻度)」と「起きたときの痛さ(影響度)」の2つの軸で評価します。両方が高いリスクから優先的に対策する、と決めれば、限られた時間とお金を無駄なく使えます。
優先度の高いリスクから、具体的な対策を決めます。対策には「回避(やめる)」「低減(減らす)」「移転(保険などで他に移す)」「受容(許容して備える)」の4つの考え方があります。リスクの性質に合わせて使い分けましょう。
決めた対策を実行し、定期的に効果を確認します。会社の状況や世の中の環境は変わっていくので、リスクも対策も一度きりでは終わりません。年に一度ふり返り、新しいリスクを追加したり、古い対策を見直したりして、サイクルを回し続けます。
4つの対策の使い分け
STEP3で出てきた4つの対策は、こんなふうに使い分けます。
| 対策 | 内容と例 |
|---|---|
| 回避 | リスクの原因そのものをやめる(危険な取引から撤退する など) |
| 低減 | 発生確率や被害を小さくする(バックアップを取る、研修をする など) |
| 移転 | 損害を他に移す(保険に加入する、業務を委託する など) |
| 受容 | 影響が小さいリスクは、あえて対策せず受け入れて様子を見る |

すべてを「回避」や「低減」で対応しようとすると、コストも手間もかかりすぎます。影響の小さいリスクは思いきって「受容」する、と割り切ることも、現実的なリスク管理のうちです。
BCP(事業継続計画)も合わせて考える
リスクマネジメントとセットで語られるのが、BCP(事業継続計画)です。災害などへの備えを考えるなら、ここも押さえておきたいところです。
BCPとは?
BCPは「Business Continuity Plan」の略で、地震や大規模なシステム障害などが起きても、会社の大事な業務をできるだけ止めない・早く立て直すための計画です。リスクマネジメントが「リスク全般への備え」だとすれば、BCPは「とくに重大な事態が起きた後、どう事業を続けるか」に焦点を当てた、より実践的な行動計画と言えます。
中小企業はまず何から始める?
本格的なBCPは作り込むと大変ですが、最初から完璧を目指さなくて大丈夫です。まずは「絶対に止められない業務は何か」「その業務に欠かせない人・設備・データは何か」を書き出すところから始めましょう。そのうえで、連絡網を決める、データのバックアップを取る、といった手の届く備えから着手すれば十分です。
災害時の具体的な行動や避難については、地震・災害時のBCP(事業継続計画)マニュアル~防災行動・避難編~でくわしくまとめています。

リスクマネジメントのよくある質問(FAQ)
- リスクマネジメントは誰が担当すればいい?
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中小企業では、総務が中心になって進めるケースが多いです。ただ、リスクは各部署に散らばっているので、総務だけで抱え込まず、各部署から「困りごと」を出してもらう形が効果的です。経営者を巻き込み、会社全体の取り組みとして位置づけると、対策も実行に移しやすくなります。専任の担当を置けなくても、旗振り役を一人決めておくとよいでしょう。
- リスクの優先順位はどうやって決める?
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「起きやすさ(発生頻度)」と「起きたときの痛さ(影響度)」の2つの軸で考えるのが基本です。両方が高いリスクが最優先、頻度は低いけれど影響が甚大なもの(大地震など)も優先度高め、どちらも低いものは後回し、という具合に整理します。点数をつけてマップにすると、社内で共有しやすくなります。
- リスクマネジメントとBCPの違いは?
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リスクマネジメントは、会社のさまざまなリスクを幅広く洗い出して備える取り組み全般を指します。一方BCPは、その中でもとくに重大な事態(災害・大規模障害など)が起きたとき、事業を止めずに続ける・早く復旧するための具体的な計画です。リスクマネジメントという大きな枠の中に、BCPが含まれると考えるとわかりやすいです。
- 保険に入っていればリスク対策は十分?
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保険は「移転」という有効なリスク対策のひとつですが、それだけでは不十分です。保険でお金は戻っても、止まった業務や失った信用までは取り戻せません。発生を防ぐ「低減」や、起きた後にどう動くかを決めておく備えと組み合わせてこそ、効果を発揮します。保険はあくまで対策の一部、と位置づけておきましょう。
- 小さな会社でもBCPは作るべき?
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規模が小さい会社ほど、人や設備に余裕がないぶん、災害などで一度止まると立て直しが難しくなります。だからこそ、簡単なものでもBCPを用意しておく価値があります。立派な計画書でなくてかまいません。緊急時の連絡先、優先して復旧する業務、データのバックアップ先を一枚にまとめるだけでも、いざというときの動きが大きく変わります。
リスクマネジメントは、特別な知識がなくても「洗い出す→評価する→対策を決める→見直す」の4ステップで進められます。すべてのリスクに完璧に備えるのではなく、自社にとって痛いものから優先して手を打つ。これが現実的で、長続きするやり方です。まずは社内で「困りそうなこと」を書き出すところから、気軽に始めてもらえればと思います。




