「あの社員に辞めてもらいたい」「問題行動が続くので解雇できないか」。総務をしていると、経営者からこうした相談を受けることがあります。けれど、解雇は会社が思っているほど簡単にはできません。
進め方をまちがえると「不当解雇だ」と訴えられ、解雇が無効になったり、多額の支払いを命じられたりすることもあります。だからこそ、解雇にはどんな種類があり、それぞれにどんな要件が求められるのかを、正しく知っておくことが大切です。
今回は、解雇とは何かという基本から、普通解雇・懲戒解雇・整理解雇という3つの種類の違い、必要な手続きまでを、総務・人事担当者向けに整理しました。よかったら参考にしてください。
解雇とは?
まずは解雇の基本をおさえましょう。似た言葉と区別しておくと、後の話がわかりやすくなります。
解雇は会社からの一方的な契約終了
解雇とは、会社の側から、一方的に労働契約を終了させることです。社員の同意があるかどうかに関係なく、会社の意思だけで雇用を打ち切る点が特徴です。
働く人にとっては、生活の土台である仕事を失う重い出来事です。そのため法律は、会社が自由気ままに解雇できないよう、さまざまな歯止めをかけています。「会社が決めたから終わり」とはいかないのですね。
退職勧奨・合意退職との違い

混同しやすいのが「退職勧奨」や「合意退職」です。退職勧奨は、会社が「辞めてほしい」と働きかけ、本人が納得して辞める形で、あくまで本人の意思にもとづきます。合意退職も、会社と社員が話し合って合意のうえで契約を終える形です。
これに対し解雇は、本人が納得していなくても会社の意思だけで進める点が決定的にちがいます。トラブルを避けたいなら、まずは話し合いによる合意退職を目指し、解雇は最後の手段と考えるのが基本です。
解雇は自由にはできない

解雇を考えるうえで、まず知っておきたい大前提があります。それが、解雇に対する法律のしばりです。
解雇権濫用法理(労働契約法16条)
労働契約法第16条は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効と定めています。これを「解雇権濫用法理」と呼びます。
かみくだくと、「だれが見ても納得できる理由があり、なおかつ解雇という重い処分が行きすぎでないこと」の両方がそろって、はじめて解雇が認められるということです。少しミスをした、上司と合わない、といった程度では、まず解雇は認められません。このハードルの高さが、解雇の出発点になります。
法律で解雇が禁止されている場合
そもそも解雇が法律で禁止されている期間や理由もあります。代表的なものを挙げておきます。
- 業務上のケガや病気で療養するための休業期間と、その後30日間
- 産前産後の休業期間と、その後30日間
- 国籍・信条・性別などを理由とする解雇
- 育児・介護休業の申出や取得を理由とする解雇
- 労働組合の加入や、正当な組合活動を理由とする解雇
これらに当てはまる解雇は、理由のいかんを問わず認められません。解雇を検討する前に、まず禁止事由に触れていないかを確認しましょう。
解雇の3つの種類
解雇は、その理由によって大きく3種類に分けられます。それぞれ求められる要件がちがうので、表で整理してから一つずつ見ていきます。
| 種類 | 理由 | 主な場面 |
|---|---|---|
| 普通解雇 | 社員側の事情(能力不足・勤務不良など) | 業務に必要な能力が著しく欠ける、長期の私傷病で復職できない |
| 懲戒解雇 | 重大な規律違反への制裁 | 横領・重大な経歴詐称・長期の無断欠勤など |
| 整理解雇 | 会社側の経営上の事情 | 業績悪化による人員削減(リストラ) |

普通解雇とは?
普通解雇は、能力不足や勤務態度の不良など、社員側の事情を理由とする解雇です。ただし「能力が低い」と感じる程度では足りません。具体的な問題点を示し、指導や配置転換など改善の機会を十分に与えたうえで、それでも改善しなかった、という積み重ねが求められます。いきなりの解雇は、まず無効と判断されます。
懲戒解雇とは?
懲戒解雇は、横領や重大な規律違反など、社員の非行に対する制裁としての解雇で、もっとも重い処分です。前提として、就業規則に懲戒事由と懲戒解雇できる旨が定められていることが必要です。また、行為の重さと処分のバランスがとれていること、本人に弁明の機会を与えることなど、手続きの公正さも厳しく問われます。安易に使うと、かえって会社が責任を問われかねません。
整理解雇とは?
整理解雇は、業績悪化など会社側の経営上の都合による解雇、いわゆるリストラです。社員に落ち度がないぶん、認められるための要件はとくに厳しく、「整理解雇の4要件」と呼ばれる基準で判断されます。人員削減の必要性や解雇回避の努力など、満たすべきポイントが多いので、進め方には慎重さが求められます。
解雇するときに必要な手続き
解雇する理由が認められる場合でも、決められた手続きをふむ必要があります。これを欠くと、それだけで問題になります。
解雇予告か解雇予告手当(30日ルール)

労働基準法第20条により、社員を解雇するときは、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。予告期間が30日に足りないときは、不足する日数分の手当を支払えば足ります。たとえば10日前の予告なら、20日分の手当を支払う、という具合です。
就業規則・解雇理由証明書
解雇の前提として、就業規則に解雇の事由を定めておくことも欠かせません。また、解雇された社員から求められたら、会社は解雇の理由を記した「解雇理由証明書」を交付する義務があります。後で「言った・言わない」のトラブルにならないよう、理由は書面で明確にしておきましょう。
採用直後の解雇については、内定取消・試用期間中の解雇はできる?ルールと注意点でくわしく解説しています。

解雇のよくある質問(FAQ)
- 能力が低い社員を解雇できる?
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「能力が低い」と感じるだけでは、まず解雇は認められません。普通解雇が有効とされるには、具体的にどの業務でどんな問題があったかを示し、指導や教育、配置転換などで改善の機会を十分に与え、それでも改善が見られなかった、という経過が必要です。記録を残さずいきなり解雇すると、不当解雇と判断されるおそれが高いので注意しましょう。
- 懲戒解雇なら退職金は払わなくていい?
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必ずしもそうとは言えません。退職金を不支給や減額にするには、就業規則や退職金規程にその旨の定めがあることが前提です。さらに、これまでの功労を帳消しにするほど重大な背信行為があった場合に限られる、と判断されやすく、規定があっても全額不支給が認められないこともあります。自己判断せず、慎重に検討することをおすすめします。
- 解雇予告手当はどう計算する?
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解雇予告手当は、平均賃金の30日分以上が基準です。平均賃金は、原則として直前3か月間に支払った賃金の総額を、その期間の暦日数で割って求めます。予告期間が30日に満たない場合は、不足日数分を支払えば足ります。たとえば即日解雇なら30日分、20日前の予告なら10日分の手当が必要、という計算になります。
- 解雇予告が不要になる場合はある?
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あります。天災事変などやむを得ない事由で事業の継続ができなくなった場合や、社員側に責任のある重大な事由がある場合は、労働基準監督署長の認定(解雇予告除外認定)を受ければ、予告も手当も不要になります。ただし認定のハードルは高く、横領などよほどの事情が必要です。認定を受けずに即日解雇すると違法になるので、自己判断は禁物です。
- 不当解雇と判断されるとどうなる?
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解雇が無効とされると、その社員はずっと在籍していた扱いになり、解雇期間中の賃金をさかのぼって支払う必要が生じます。職場復帰を求められることもありますし、慰謝料を含めた金銭の支払いで解決するケースもあります。いずれにせよ会社の負担は大きいので、解雇を急がず、要件と手続きを一つずつ確認することが何より大切です。
解雇には普通解雇・懲戒解雇・整理解雇の3種類があり、それぞれに高い要件と手続きが求められます。共通する大前提は、「だれもが納得できる合理的な理由」と「処分の相当性」、そして30日前予告などの手続きです。安易に進めると会社に大きなリスクが返ってきます。判断に迷うときは、社労士や弁護士に相談しながら、慎重に進めてもらえればと思います。




