退職社員が機密情報を持ち出したときの証拠確保と法的対応

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退職社員による情報持ち出しの背景

退職社員による機密情報の持ち出しは、どの企業でも起こり得るリスクです。
その背景にはいくつかの典型的な動機や状況が存在します。ここでは代表的な3つを整理します。

転職先への持ち込み目的

最も多いケースは、転職先での業務を有利に進めるために情報を持ち出すパターンです。

  • 顧客リストを活用して営業活動を開始
  • 技術資料を利用して早期に成果を出す
  • 競合他社との交渉材料にする

これは明確な不正行為であり、発覚した場合には不正競争防止法違反として法的措置を受ける可能性があります。
過去の事例や判例は「退職者による営業秘密持ち出しの典型例(digiリンク)」で紹介されてますのでご覧ください。

独立・競業に備えた情報利用

退職後に独立して競業を始める場合、企業のノウハウや取引情報を持ち出すリスクが高まります。

  • 原価情報や仕入先データを流用
  • 製品設計や仕様書を持ち出す
  • プロジェクト進行中の資料を再利用

こうした行為は、企業の競争力を大きく損なうだけでなく、訴訟や差止請求の対象となります。
フォレンジック調査会社に依頼し、証拠を確保しておくことが有効です。

個人的な記録や成果物の持ち出し

本人としては「自分が作った資料だから」「記念として残したい」という意識で個人的にデータを持ち出すケースもあります。

  • 自分が担当したプロジェクトの成果物
  • 業務メールのバックアップ
  • 営業活動の記録

しかし、たとえ善意や無意識であっても、会社に帰属する知的財産や機密情報を持ち出す行為は重大な問題です。
小さな持ち出しでも情報漏洩や競業トラブルにつながるため、早期の検知と対応が必要です。
関連するリスク管理の方法は「退職者による情報持ち出し防止策(digiリンク)」をご覧ください。

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発覚時にまず取るべき初動対応

退職社員による情報持ち出しが疑われた場合、迅速かつ冷静な初動対応が後の法的対応や再発防止の成否を分けます。感情的に動いたり場当たり的に調査を進めると、証拠を失ったり社内に混乱を招く恐れがあります。

アクセス権限の即時停止

まず行うべきは、退職社員の社内システムへのアクセス権限を即時に停止することです。

  • 社内メールやVPNアカウントの無効化
  • クラウドサービスや社内ポータルのログイン権限削除
  • 外部ストレージ利用権限の取り消し

退職後にアクセスが残っていると、不正利用や二次被害につながる危険があります。
退職時に確実に権限削除を行う仕組みは「退職者管理のセキュリティチェックリスト(digiリンク)」を参考にしてください。

証拠保全のためのログ収集

次に重要なのは、証拠を確実に残すことです。

  • 退職直前のアクセスログやダウンロード履歴
  • USB接続記録や外部クラウド利用履歴
  • メール送信・添付ファイルの履歴

これらのデータを確保しておかないと、不正の立証が難しくなります。
本格的な証拠保全が必要な場合は、フォレンジック調査会社に依頼することを検討すべきです。

経営層・法務部門への迅速な報告

現場での対応にとどめず、経営層・法務部門へ速やかに報告することが欠かせません。

  • 不正の可能性と影響範囲を整理して共有
  • 外部調査や法的措置の判断を経営層に委ねる
  • 監督官庁や取引先への説明準備を並行する

社内の判断を一元化することで、混乱や対応の遅れを防ぎ、企業全体としての信頼を守ることができます。

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証拠確保のための調査手法

退職社員による情報持ち出しを立証するためには、客観的な証拠を確保することが不可欠です。ここでは、総務や情報システム部門が押さえておくべき調査手法を整理します。

PC・サーバーログの解析

退職前に利用されていたPCやサーバーには、操作履歴やアクセス記録が残っています。

  • ファイルコピーや削除の履歴
  • 社内システムへのログイン履歴
  • 大量のデータ移動を示すアクセス記録

こうしたログを解析することで、不正な操作の有無や時系列を明らかにできます。
解析の技術的な詳細は「フォレンジックによるログ解析手法(digiリンク)」で紹介されています。

USB・クラウド利用履歴の確認

情報の持ち出しで多いのが、USBメモリや外部クラウドの利用です。

  • USB接続の履歴データ(デバイスID含む)
  • DropboxやGoogle Driveへのアップロード履歴
  • OneDriveなどの同期記録

これらを調べることで、どの媒体を経由して情報が外部へ出たのかを確認できます。
重大な持ち出しが疑われる場合は、専門調査会社による詳細解析が推奨されます。

メール・ファイル転送の痕跡調査

退職前に業務メールを利用した持ち出しも少なくありません。

  • 外部アドレス宛の大量添付送信
  • 個人アドレスへの転送履歴
  • ファイル共有サービスのリンク送信

これらを確認することで、社外への情報流出ルートを特定できます。
証拠性を保ちながら調査するためには、「メールログ調査と証拠保全の実務(digiリンク)」を参考にするのが有効です。

法的対応の選択肢

退職社員が機密情報を持ち出した場合、社内対応だけでは不十分であり、法的手段を講じることが必要になるケースがあります。状況に応じて取り得る法的対応を整理します。

不正競争防止法による差止請求・損害賠償

営業秘密(顧客リスト・技術情報・取引条件など)を不正に持ち出した場合、不正競争防止法が適用されます。

  • 競合企業での利用を差し止める
  • 損害賠償を請求する
  • 緊急時には仮処分を申立てる

これは最も強力な民事的手段であり、取引先や顧客への被害拡大を防ぐ上で有効です。
実際の判例は「不正競争防止法に基づく訴訟事例(digiリンク)」にまとめられています。

秘密保持契約(NDA)違反の追及

多くの企業では、入社時やプロジェクト開始時に秘密保持契約(NDA)を締結しています。
退職者が機密情報を持ち出した場合、この契約違反を理由に

  • 契約違反による損害賠償請求
  • 競業利用の差止請求

といった対応が可能です。
NDAの適用範囲や有効性を確認する際には、弁護士に相談するのが確実です。

刑事告訴(横領・不正アクセス禁止法違反)

情報持ち出しの態様によっては、刑事責任を問える場合もあります。

  • 退職後にアカウントを不正利用 → 不正アクセス禁止法違反
  • 機密データを横領して流用 → 業務上横領罪
  • データ破壊や改ざん → 器物損壊罪に準じた扱い

刑事告訴はハードルが高い一方で、抑止力として非常に強力です。
刑事告訴の可否判断や手続きについては「情報漏洩事件と刑事告訴の実務(digiリンク)」を参考にしてください。

外部専門家に依頼すべき場面

退職社員による情報持ち出しは、社内対応だけでは限界があります。
証拠の確実な保全や法的措置を前提とする場合、外部専門家の力を借りることが不可欠です。ここでは依頼すべき代表的な専門家を整理します。

フォレンジック調査会社による証拠保全

フォレンジック調査会社は、PC・サーバー・クラウドに残るデジタル証拠を専門的に解析します。

  • 不正アクセスや持ち出し経路の特定
  • USBやクラウド利用の痕跡調査
  • 法的証拠として利用可能な報告書作成

自社で行う調査は証拠能力に欠ける場合が多く、裁判対応を視野に入れるなら必須です。
依頼の流れは「フォレンジック調査の実務フロー(digiリンク)」を参考にしてください。
信頼できる調査会社を早めに確保しておくと安心です。

弁護士による法的措置の助言・代理

法的対応が必要な場合は、弁護士との連携が不可欠です。

  • 不正競争防止法に基づく差止請求・損害賠償
  • NDA違反の追及
  • 刑事告訴に向けた証拠整理

弁護士に依頼することで、最適な法的戦略を立案し、代理人として交渉・訴訟に臨むことが可能になります。
法律相談の初期段階でも、弁護士を利用する価値は大きいでしょう。

セキュリティベンダーによる再発防止策の導入

退職者による不正を防ぐには、システム的な予防策が不可欠です。

  • 退職時の自動権限削除システム
  • アクセスログの自動監視
  • 外部クラウド利用の制御

これらは社内だけで構築するのが難しく、セキュリティベンダーのサービスを導入するのが効果的です。
技術的な仕組みや事例は「退職者対策に有効なセキュリティ技術(digiリンク)」をご覧ください。

再発防止のための仕組みづくり

退職社員による情報持ち出しは、一度対応したら終わりではなく、再発を防ぐ仕組みを企業文化として根付かせることが重要です。ここでは、総務・法務・情報システム部門が中心となって取り組むべき施策を整理します。

退職時チェックリストと権限削除の徹底

退職手続きの際には、システム的にアクセス権限を確実に削除する流れを組み込む必要があります。

  • 社内システムやクラウドサービスのアカウント削除
  • 会社貸与PCやスマホの返却確認
  • USBや外部媒体の持ち込み制限

チェックリストを標準化することで、ヒューマンエラーを防止できます。
具体的な仕組み化の事例は「退職時セキュリティチェックの実務(digiリンク)」を参考にしてください。

内部通報制度の整備

社員が不正の兆候に気づいた場合に報告できる内部通報制度(ホットライン)の整備も有効です。

  • 匿名で通報可能な仕組み
  • 外部弁護士や第三者を窓口とする制度
  • 通報者保護を明文化した規程

これにより、不正の芽を早期に摘み取ることが可能になります。

定期的なセキュリティ教育の実施

最後に欠かせないのが、社員全体のセキュリティ意識向上です。

  • 情報持ち出しのリスク事例を学ぶ研修
  • 不正アクセス禁止法や不正競争防止法など法令理解の促進
  • フィッシング・マルウェアへの対処訓練

教育を継続することで、「ルールだから守る」ではなく、社員が自発的に守る文化を育てることができます。

まとめ:証拠確保と専門家連携が企業防衛の要

退職社員による情報持ち出しは、どの企業にも起こり得るリスクです。
問題が発覚したときに重要なのは、迅速に証拠を確保し、法的に有効な形で対応することです。

本記事で整理した流れを振り返ると以下の通りです。

退職者不正は「発覚してから」では遅く、平時からの備えと外部専門家との関係構築が企業防衛の決め手となります。
総務・法務部門が中心となり、社内規程と実務対応を磨き上げておくことが信頼維持につながるのです。

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