残業代の計算は、普段は給与計算ソフトが自動でやってくれるので、あまり意識しないと思います。
ただ、従業員から「この残業代、合ってますか?」と聞かれたり、賃金規程を見直したりするときに手計算で検算しようとすると、意外と手が止まるんですよね。
私も以前、残業単価の根拠を説明できるように一度整理したことがあるのですが、時間単価の出し方と、除外できる手当の判断でつまずきました(ソフトの設定が正しいかどうかも、結局ここが分かっていないと確認できません)。
今回は、割増賃金(残業代)の計算手順を、残業時間の数え方→時間単価の出し方→端数処理まで、順番にまとめました。
具体的な計算例も載せていますので、検算や規程見直しの際に参考にしてください。
割増賃金計算の全体像|式は1つだけ

基本の計算式
割増賃金の計算式は、突き詰めるとこれ1つです。
割増賃金 = 時間単価 × 割増率 × 対象の時間数
式自体はシンプルなのですが、実務で迷うのは「時間単価をどう出すか」「どの時間が割増の対象になるか」の2点です。
根拠となる法律は労働基準法第37条で、時間外・休日・深夜に労働させた場合は、政令で定める率以上の割増賃金を支払うことが義務付けられています。
計算に必要な3つの材料
計算に入る前に、必要な材料を整理しておきます。次の3つです。
- 割増賃金の基礎となる賃金(月給から除外できる手当を引いたもの)
- 1か月平均所定労働時間(時間単価を出す分母)
- 割増対象の時間数(時間外・休日・深夜それぞれ)
①と②で時間単価が決まり、③に割増率を掛けて金額が出る、という流れですね。
このうち③の「時間数」は勤怠データをそのまま使えばいいわけではなく、数え方にルールがあります。まずそこから見ていきます。
割増対象になる「残業時間」の数え方

起点は法定労働時間「1日8時間・週40時間」
割増賃金の対象になる「時間外労働」は、会社が決めた所定労働時間ではなく、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた時間を指します(労働基準法第32条)。
ここを混同すると計算がずれるので、最初に押さえておきたいところです。
なお、常時10人未満の商業・映画演劇業・保健衛生業・接客娯楽業には、週44時間まで認められる特例があります(特例措置対象事業場)。小さな店舗や診療所の給与計算をする場合は、自社がこれに当たるか確認しておいた方がいいですね。
所定7時間30分の会社は要注意(法定内残業)
所定労働時間が7時間30分の会社で、ある日9時間働いたとします。
このとき残業は1時間30分ですが、中身は2種類に分かれます。
- 7時間30分→8時間の30分:法定内残業 ⇒ 通常の時間単価(1.0倍)でよい。割増は不要
- 8時間→9時間の1時間:法定時間外労働 ⇒ 25%以上の割増が必要
法律上の最低ラインはこの区分ですが、就業規則で「所定を超えたらすべて125%払う」と定めている会社も多いです。その場合は規程の方が優先なので、自社の賃金規程がどちらの建て付けかを必ず確認してください。
変形労働時間制・フレックスだと残業時間はどう数える?
変形労働時間制(1か月単位・1年単位)を採用している場合、時間外労働の数え方が「1日8時間・週40時間」の単純な物差しではなくなります。
カウントは次の3段階で行い、二重に数えないのがルールです。
- 1日単位:所定が8時間を超える日はその所定を超えた時間、それ以外の日は8時間を超えた時間
- 1週単位:所定が40時間を超える週はその所定を超えた時間、それ以外の週は40時間を超えた時間(①で数えた分は除く)
- 変形期間単位:期間トータルで法定労働時間の総枠を超えた時間(①②で数えた分は除く)
③の「法定労働時間の総枠」は、暦日数 × 40時間 ÷ 7 で計算します。31日の月なら177.1時間、30日の月なら171.4時間、28日なら160.0時間です。
つまり「シフト上9時間の日は9時間を超えてから残業」「シフト上6時間の日は8時間を超えてから残業」という数え方になります。変形制なのに一律で8時間超を残業にしていると、払いすぎ(または不足)が起きるので注意です。
フレックスタイム制の場合はさらにシンプルで、日や週では数えず、清算期間の法定労働時間の総枠(計算式は同じ)を超えた分が時間外労働になります。
(清算期間が1か月を超えるフレックスは週平均50時間超の月次カウントも絡んで複雑になるので、ここでは割愛します)
深夜・法定休日の時間数の数え方
深夜労働は22時から翌5時までの労働時間です。時間外かどうかに関係なく、この時間帯に働いた時間をそのまま数えます。
休日労働は「法定休日」(週1日または4週4日の休日)に働いた時間だけが対象です。
週休2日の会社で土曜(所定休日)に出勤しても、それは休日労働(35%)ではなく、週40時間を超えた分が時間外労働(25%)としてカウントされます。土日どちらが法定休日かは就業規則の定めによるので、ここも規程の確認が必要ですね。
計算の前に手元にそろえるもの
就業規則・賃金規程
所定労働時間・年間休日・法定休日の特定・手当の支給条件は、すべて就業規則と賃金規程に書いてあります。
割増賃金の検算は、勤怠データより先にこちらを開くのが近道です(時間単価の分母も手当の除外可否も、結局ここで決まるので)。
給与明細の手当の内訳
後述しますが、時間単価の計算に入れる手当と入れない手当があります。
対象者の月給の内訳(基本給・各手当の金額)が分かる資料を用意してください。
勤怠記録(時間外・休日・深夜の各時間数)
前の章の数え方で集計した、時間外(60時間以下/60時間超)・法定休日・深夜それぞれの時間数です。
タイムカードを手集計している会社だと、この振り分けが一番の手間だと思います。勤怠管理システム(スマレジ・タイムカード
など)を入れている場合は、区分別の集計値がそのまま出るので、設定が正しいかだけ確認すれば大丈夫です。
割増賃金の計算手順【6ステップ】

材料がそろったら、次の6ステップで計算します。
月給のうち、時間単価の計算に入れる金額を確定します。原則は「月給すべて」ですが、次の7つだけは除外できます(労働基準法第37条第5項、施行規則第21条)。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金(結婚手当など)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
この7つは「例示」ではなく「限定列挙」です。つまり、役職手当・資格手当・精勤手当など、リストにない手当はすべて基礎に入れなければなりません。
さらに、リストにある名前の手当でも実態で判断されます(詳しくは後述の「詰まりやすいポイント」で)。
月給制の場合、時間単価の分母には「その月の所定労働時間」ではなく「1か月平均所定労働時間」を使います。月によって営業日数が違っても、単価を一定にするためです。
1か月平均所定労働時間 = 年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12
たとえば年間休日125日・1日8時間の会社なら、(365日−125日)× 8時間 ÷ 12 = 160時間です。
年間所定労働日数はカレンダーで毎年変わるので、賃金規程や36協定の更新時期に合わせて見直している会社が多いですね。
STEP1の基礎賃金を、STEP2の1か月平均所定労働時間で割ります。
時間単価 = 割増賃金の基礎となる賃金 ÷ 1か月平均所定労働時間
基礎賃金256,000円・月平均160時間なら、時間単価は1,600円です。
円未満の端数が出た場合は、50銭未満切り捨て・50銭以上切り上げの処理ができます(STEP6で詳しく説明します)。
労働の種類ごとの割増率(法律上の最低ライン)は次のとおりです。
| 種類 | 条件 | 割増率 |
|---|---|---|
| 時間外労働 | 法定労働時間(1日8時間・週40時間)超 | 25%以上 |
| 時間外労働 | 月60時間を超えた部分 | 50%以上 |
| 休日労働 | 法定休日の労働 | 35%以上 |
| 深夜労働 | 22時〜翌5時の労働 | 25%以上 |
| 時間外+深夜 | 重複した時間 | 50%以上(60時間超なら75%以上) |
| 休日+深夜 | 重複した時間 | 60%以上 |
月60時間超の50%は、2023年4月から中小企業にも適用されています。「うちは中小だから25%のまま」は既に通用しないので注意してください。
なお、就業規則でこれより高い率を定めている場合は、その率で計算します。
時間単価 × 割増率 × 時間数を、区分ごとに計算して合算します。
時間外労働は「時間単価 × 1.25」(通常分1.0+割増分0.25)で計算しますが、深夜が時間外と重なった分は、すでに1.25を払っている時間に深夜分0.25を上乗せする形になります。
区分ごとに「×1.25」「×1.5」「×0.25(上乗せ分)」「×1.35」を整理してから掛けると、混乱しにくいです。次の章の計算例2がこのパターンです。
賃金計算の端数処理は、通達(昭和63年3月14日 基発第150号)で認められた方法に限られます。
- 1か月の時間外・休日・深夜それぞれの時間数合計に1時間未満の端数がある場合 ⇒ 30分未満切り捨て・30分以上切り上げ
- 時間単価・割増賃金額に円未満の端数がある場合 ⇒ 50銭未満切り捨て・50銭以上切り上げ
- 1か月の割増賃金総額に円未満の端数がある場合 ⇒ 同上
認められているのはあくまで「1か月の合計」に対する処理です。日々の残業時間を毎日15分単位で切り捨てる、といった処理は賃金の全額払い(労働基準法第24条)違反になります。
また、この端数処理は就業規則に定めたうえで運用するのが前提です。規程に何も書かずに切り捨てだけしている場合は、見直した方がいいと思います。
ちなみに、端数処理のルールを就業規則に追加した場合は労働基準監督署への届出も必要になります。賃金規程など就業規則本体以外の規程の届出範囲については就業規則以外の規程、どこまで労働基準監督署へ届出が必要?で解説しています。

具体例で計算してみる
例1|月給制・残業20時間のシンプルなケース
【計算例1】基本パターン
- 月給:基本給236,000円+役職手当20,000円+通勤手当8,000円
- 年間休日125日・1日の所定労働時間8時間
- 当月の時間外労働:20時間(深夜・休日労働なし)
① 基礎となる賃金:236,000円+20,000円=256,000円(通勤手当は除外。役職手当は除外できないので算入)
② 1か月平均所定労働時間:(365日−125日)×8時間÷12=160時間
③ 時間単価:256,000円÷160時間=1,600円
④ 割増賃金:1,600円×1.25×20時間=40,000円
シンプルなケースだとこれだけです。ポイントは①で、通勤手当を引き忘れると単価が高くなりすぎ、役職手当まで引くと今度は未払いになります。
例2|手当あり・深夜+月60時間超が絡むケース
【計算例2】複合パターン
- 月給:基本給272,000円+資格手当16,000円+家族手当15,000円(扶養人数に応じて支給)+通勤手当12,000円
- 年間休日125日・1日の所定労働時間8時間(月平均160時間)
- 当月の時間外労働:68時間(うち60時間超の部分が8時間、深夜帯と重なる時間が10時間)
- 法定休日労働:8時間(深夜なし)
① 基礎となる賃金:272,000円+16,000円=288,000円(家族手当・通勤手当は除外。資格手当は算入)
② 時間単価:288,000円÷160時間=1,800円
③ 時間外(60時間以下の60時間分):1,800円×1.25×60時間=135,000円
④ 時間外(60時間超の8時間分):1,800円×1.5×8時間=21,600円
⑤ 深夜の上乗せ(時間外と重複の10時間分):1,800円×0.25×10時間=4,500円
⑥ 法定休日労働:1,800円×1.35×8時間=19,440円
⑦ 割増賃金合計:135,000円+21,600円+4,500円+19,440円=180,540円
深夜分(⑤)は、③④ですでに時間分の1.25や1.5を払っているので、上乗せの0.25だけを別計算しています。
また、法定休日の8時間(⑥)は時間外労働の68時間にも月60時間のカウントにも含めません。休日労働は時間外と別枠で数えるためです。
比較|手当の扱いを間違えるといくら変わる?

除外手当の判断ミスがどのくらい響くか、例1の会社で「全員一律24,000円の住宅手当」を支給しているケースで比べてみます。
【比較】一律支給の住宅手当を除外してしまった場合
① 一律支給の住宅手当は「住宅に要する費用に応じた支給」ではないため、除外できない ⇒ 基礎賃金は256,000円+24,000円=280,000円が正しい
② 正しい時間単価:280,000円÷160時間=1,750円 ⇒ 残業20時間で1,750円×1.25×20時間=43,750円
③ 誤って除外した場合:1,600円×1.25×20時間=40,000円
④ 差額:月3,750円、年間で45,000円の未払い(×対象人数分)
1人あたりは小さく見えますが、全社員×賃金請求権の時効3年分となると、まとまった金額になります。手当の除外可否は一度きちんと点検しておく価値があると思います。
詰まりやすいポイント・よくある間違い
手当は「名前」ではなく実態で判断する
除外できる7つの手当は、名前が一致していれば除外できるわけではありません。
- 住宅手当:家賃額や持ち家のローン額に応じて支給 ⇒ 除外できる/全員一律の定額支給 ⇒ 除外できない
- 家族手当:扶養人数に応じて支給 ⇒ 除外できる/扶養の有無と無関係に一律支給 ⇒ 除外できない
- 通勤手当:実費や距離に応じて支給 ⇒ 除外できる/一律支給 ⇒ 除外できない
「生活事情に応じて払うもの」だから除外が認められている、という理屈で考えると分かりやすいです。一律支給は実質的に基本給と同じ扱いになる、ということですね。
月60時間超の50%は中小企業も対象
月60時間超の割増率50%は、長らく中小企業への適用が猶予されていましたが、2023年4月1日から中小企業にも適用されています。
古い賃金規程や給与ソフトの設定が25%のままになっている会社を見かけるので、未確認なら一度チェックした方がいいです。
なお、60時間超の引き上げ分(25%→50%の差分)は、労使協定を結べば割増賃金の代わりに有給の休暇(代替休暇)で付与することもできます。
端数処理は「常に切り捨て」はダメ
STEP6のとおり、認められているのは1か月合計に対する「30分未満切り捨て・30分以上切り上げ」「50銭未満切り捨て・50銭以上切り上げ」の四捨五入型だけです。
「毎日の残業を15分単位で切り捨て」「端数は常に切り捨て」は、労働者に一方的に不利なので認められません。タイムカードの丸め設定が昔のままになっているケースが結構あるみたいです。
給与計算ソフト(マネーフォワード クラウド給与など)であれば通達どおりの端数処理を設定で選べるので、手計算からの移行時に合わせて規程と設定をそろえておくと安心です。
時給制・日給制・歩合給の時間単価はどう出す?

ここまで月給制を前提に説明してきましたが、給与形態によって時間単価の出し方が変わります。
| 給与形態 | 時間単価の出し方 |
|---|---|
| 時給制 | 時給額がそのまま時間単価 |
| 日給制 | 日給 ÷ 1日の所定労働時間 |
| 月給制 | 月給 ÷ 1か月平均所定労働時間 |
| 歩合給(出来高払い) | 歩合給の総額 ÷ その月の総労働時間 |
歩合給だけ少し特殊で、分母が「所定」ではなく「総労働時間(残業含む)」になり、掛ける率も1.25ではなく0.25(割増分のみ)です。残業した時間分の通常賃金は歩合給にすでに含まれている、という考え方ですね。
固定給+歩合給の場合は、固定給部分と歩合給部分をそれぞれの方法で計算して合算します。
まとめ
割増賃金の計算は「時間単価 × 割増率 × 時間数」の1本ですが、実務でつまずくのは次の3か所だと思います。
- 残業時間のカウント:法定(1日8時間・週40時間)が起点。変形労働時間制・フレックスは数え方が別ルール
- 時間単価:除外できる手当は7つ限定+実態判断。分母は1か月平均所定労働時間
- 端数処理:1か月合計への四捨五入型のみ。日々の切り捨ては不可
給与ソフト任せでも、この3か所の設定根拠を自分で説明できるようにしておくと、従業員からの問い合わせにも調査にも落ち着いて対応できます。
検算のときは、この記事の6ステップを上から順になぞってみてください。
割増賃金の計算に関するQ&A
- 固定残業代(みなし残業代)を払っていれば計算しなくていいの?
-
いいえ、計算は必要です。固定残業代は「何時間分・いくら」が明確で、実際の残業がそれを超えたら差額の支払いが必要になります。つまり毎月、実残業分の割増賃金を計算して固定分と比較する作業は残ります。
- 管理職には割増賃金を払わなくていい?
-
労働基準法上の「管理監督者」に当たる場合、時間外・休日の割増は不要ですが、深夜割増(25%)は必要です。また、肩書が課長でも権限・待遇の実態が伴わなければ管理監督者とは認められません(いわゆる名ばかり管理職の問題です)。
- パート・アルバイトにも割増賃金はつくの?
-
つきます。雇用形態に関係なく、法定労働時間を超えれば25%以上の割増が必要です。ただし1日5時間勤務のパートが7時間働いた場合などは、8時間までは法定内なので割増ではなく通常単価(1.0倍)の支払いで足ります。
- 振替休日にすれば休日割増はいらない?
-
事前に振替日を指定して休日を入れ替えた場合、休日労働の35%は不要です。ただし振替によってその週の労働時間が40時間を超えれば、超えた分に25%の時間外割増が必要になります。事後の「代休」の場合は35%の割増が必要なままなので、区別に注意してください。
- 未払いが見つかった場合、何年分さかのぼって払うの?
-
賃金請求権の時効は現在3年です(2020年4月以降に支払期日が来た賃金から)。将来的に5年へ延長することが法律上は予定されているので、未払いリスクは年々大きくなる方向だと思っておいた方がいいですね。
- 今後の法改正で割増賃金のルールは変わる?
-
労働基準法の大幅な見直しが議論されており、副業・兼業時の労働時間通算(割増賃金の通算ルール)の見直しや、法定休日の特定の義務化などが検討されています。2026年の通常国会への提出は見送られましたが、議論は継続中なので動向は追っておきたいところです。





