「障害者雇用をふやす」と社長から指示があったので調べたり、対応した状況をまとめます。
障害者雇用入門編としてお読みいただければと思います。
障害者雇用の現状
まずは、障害者雇用の現状を説明します。
統計からみる雇用者数に見る現状
厚労省の令和3年 障害者雇用状況の集計結果によれば、下記グラフの様に増加傾向とはなっています。
特に平成30年から障害者雇用義務の対象として精神障害者が加わった事により更に増加傾向にあります。
障害者へのアンケートから見る障害者雇用の現状
障害者雇用は増加傾向ですが、障害者の満足度は高いのでしょうか?
健常者より障害者の方が平均給与がかなり低い
厚労省「障害者雇用実態調査」障害者へのアンケートより抜粋した結果が以下の通りとなります。
身体障害者 | 精神障害者 | |
---|---|---|
給与 | 21 万 5 千円 | 12 万 5 千円 |
賃金 形態 | 月給制が58.6 %、日給制が 4.6 %、時給制が 34.0 % | 月給制が28.6 %、日給制が 2.3 %、時給制が 68.9 % |
国税庁統計では健常者を含む給与の全国平均は30万7千円。かなり低いですよね。
結果として障害者の満足度は低く離職理由として、賃金への不満は高くなっています。
身体障害者 | 精神障害者 | |
---|---|---|
1位 | 賃金、労働条件に不満 | 職場の雰囲気・人間関係 |
2位 | 職場の雰囲気・人間関係 | 賃金、労働条件に不満 |
3位 | 仕事内容があわない | 疲れやすく体力意欲が続かなかった |
障害者の定義
障害者雇用促進法での「障害者」の定義は、
身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の所有者
です。
障害者雇用の会社の義務
障害者雇用促進法に基づく、会社の障害者雇用の義務は大きく以下の5つです。
- 障害者雇用率制度
- 障害者雇用納付金制度
- 雇用における障害者の差別禁止及び合理的配慮の提供義務
- 障害者職業生活相談員の選任
- 障害者雇用の届出義務
①障害者雇用率制度
会社は、障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務があります。
民間企業の法定雇用率は2.3%。(一部業種によって除外率があるものの、除外率は廃止に向け経過処置中)
②障害者雇用納付金制度
この制度は基本、常用労働者100人超企業が対象です。
内容は、法定雇用率未達成企業から納付金を徴収し、法定雇用率達成企業に対して報奨金を支給します。
おおよそ不足一人当たり月額5万円の徴収、超過一人当たり月額2万7千円 支給となります。
③雇用における障害者の差別禁止及び合理的配慮の提供義務
障害者に対する差別の禁止・・・募集・採用時、障害者に均等な機会を与える義務。採用後は不当な差別的取扱いの禁止
障害者に対する合理的配慮提供義務・・・障害の特性に配慮した措置を講じる義務。(障害の特性に配慮した、施設整備、援助者の配置など)
④障害者職業生活相談員の選任
障害者を5人以上雇用する会社は、「障害者職業生活相談員」を選任し、障害のある従業員の職業生活に関する相談・指導を行う義務があります(障害者雇用促進法79条)
⑤障害者雇用の届出義務
1.障害者雇用状況報告
従業員45.5人(令和3年3月より43.5人)以上の会社は、毎年6月1日現在の障害者の雇用に関して「障害者雇用状況報告」を7月15日までに、ハローワークへ報告しなくてはなりません。(障害者雇用促進法43条)
2.解雇届
障害者を解雇する際は、ハローワークへ届出が必要です(障害者雇用促進法81条)
会社の障害者雇用のメリット
会社にとって障害者雇用は厄介事なのでしょうか?
ここでは様々なメリットを紹介していきたいと思います。
税制優遇
国税の主な税制優遇を挙げると次の通りです。
- 助成金の非課税措置(法人税・所得税)
- 事業所税の軽減措置
- 不動産取得税の軽減措置(令和5年3月31日まで)
- 固定資産税の軽減措置(令和5年3月31日まで)
上記以外にも各自治体独自の優遇・助成制度がある場合もあります。
雇用関係助成金
厚労省・労働局の雇用関係助成金が中心となります。
支給にはまず、中小企業であること、生産性要件をみたすこと、事業主都合による離職者を発生させていないことなど各種条件があります。
詳しくは厚労省・労働局の「障害者を雇い入れた場合などの助成」をご覧ください。
主なものは以下の通りです。
目的 | 名称 | 内容 | 金額 |
---|---|---|---|
継続して雇用 | 特定求職者 雇用開発 助成金 | 障害者を継続して 雇用した事業主へ 助成 | 【身体・知的障害者(重度以外)】 1人あたり120万円、 短時間労働者は80万円 【身体・知的障害者(重度または45歳以上)、精神障害者】 1人あたり240万円、 短時間労働者は80万円 |
一定期間試行的に雇用 | トライアル雇用助成金 | 障害者を一定期間 試行雇用した 事業主へ助成 | 【精神障害者の場合】 ・助成期間:最長6か月 ・トライアル雇用期間:原則6~12か月 ・助成額:雇入れから3か月間 → 1人あたり月額最大8万円 (雇入れから4か月以降→ 1人あたり月額最大4万円) 【上記以外の場合】 ・助成期間:最長3か月 ・トライアル雇用期間:原則3か月 ・助成額:1人あたり月額最大4万円 (短時間 トライアル コースの場合は1人あたり月額最大4万円(最長12か月間)) |
正規雇用・無期雇用等へ転換 | キャリアアップ助成金 | 障害のある有期雇用労働者等を正規雇用に転換した事業主に対して助成 | 【重度身体障害者、重度知的障害者および精神障害者の場合】 ①【有期→正規】1人あたり120万円 ②【有期→無期】1人あたり60万円 ③【無期→正規】1人あたり60万円 【重度以外の身体障害者、重度以外の知的障害者、発達障害者、難病患者等】 ①【有期→正規】1人あたり90万円 ②【有期→無期】1人あたり45万円 ③【無期→正規】1人あたり45万円 |
目的 | 名称 | 内容 | 金額 |
---|---|---|---|
職場支援員を配置・介助処置 | 障害者介助等助成金 | 障害者の雇用管理に介助者等を配置または委嘱、職場復帰のための措置を行う事業主へ助成 | 【職場介助者の配置または委嘱】 支給対象費用の3/4 【職場介助者の配置または委嘱の継続措置】 支給対象費用の2/3 【手話通訳、要約筆記等の担当者の委嘱】 委嘱1回あたりの費用の3/4 【障害者相談窓口担当者の配置等】 ・担当者の増配置 担当者1人あたり月額8万円 他 【職場支援員の配置】 ・職場支援員を雇用契約により配置 1人あたり月額4万円 他 |
職場適応 援助者の 配置 | 職場適応援助者助成金 | 職場適応援助者による援助を必要とする障害者のために、事業主に対して助成 | 【職場適応援助者による支援】 ①訪問型職場適応援助者 1日の支援時間が4時間以上(精神障害者は3時間以上)の日 1.6万円 1日の支援時間が4時間未満(精神障害者は3時間未満)の日 8,000円 ②企業在籍型職場適応援助者 <精神障害者>1人あたり月額12万円(短時間労働者月額6万円) <精神障害者以外>1人あたり月額8万円(短時間労働者月額4万円) 【職場適応援助者養成研修】 職場適応援助者養成研修の受講料の1/2 |
作業施設 整備 | 障害者作業施設設置等助成金 | 障害特性による就労上の課題を克服する作業施設等の設置・整備へ助成 | 支給対象費用の2/3 |
福祉施設 整備 | 障害者福祉施設設置等助成金 | 障害者の福祉の増進を図るための福祉施設等の設置・整備へ助成 | 支給対象費用の1/3 |
通勤処置 | 重度障害者等通勤対策助成金 | 障害特性に応じ通勤を容易にするための措置へ助成 | 支給対象費用の3/4 |
事業施設 整備等 | 重度障害者多数雇用事業所施設設 置等助成金 | 重度障害者を多数継続して雇用し事業施設等の整備等へ助成 | 支給対象費用の2/3(特例の場合3/4) |
「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定」を受けれる
この制度は厚労省によるもので、主なメリット以下の通り。
- 日本政策金融公庫の低利融資対象
- 厚生労働省などの周知広報の対象
- 公共調達等における加点評価を受けられる場合があり
主な認定基準は、「障害者雇用への取組等で一定の点数以上」「法定雇用障害者数以上を雇用」 などある。
その他のメリット
- 業務の最適化や効率化に繋がる ⇒残業時間の削減や新たな仕事に着手へ
- 優秀な人材を確保できる⇒障害が理由で就職機会がなかった優秀な人材を確保可能
- 企業の社会的責任(CSR)向上
- 人事管理能力が向上
障害者雇用の合理的配慮の例
障害の内容によって配慮の仕方は全く異なります。
共通的な例を挙げますが、細かい事例については厚労省の「障害者雇用事例リファレンスサービス」が役に立ちました。
業種・障害内容などで検索できるのでニーズに近い形で実例を探せます。
採用前について
家族や支援者が同席の上、面接するなど。
採用広告・ホームページ等で障害者雇用を記載する場合は施設の対応状況の把握はもちろん、障害者専用の採用枠の設置をどうするかも大切です。
健常者への逆差別といわれる危険性もあるため、選考対象とするが人数枠はなしと返答する会社も多いです
採用後について
共通するのは、朝礼や日報や担当者との定期的な相談などのコミュニケーションの重要性です。
その他障害別では以下の通りです。
<身体障害者>
作業のしやすさ等の物理的配慮
<精神障害者>
相談相手、休憩時間、作業量への心理的配慮
その他障害者雇用に関する疑問
社内規則の障害者対応について
障害者の採用に際し、初めから規則等の変更を行う企業は少なく、障害者との雇用契約書で対応するケースが多い様です。
雇用契約書で決めるのは、休憩時間・特別休暇・契約社員か正社員かなど。 (例えば身体障害の場合などでトイレ休憩が就業規則の時間では不足する場合、時間を増やすなど)
障害者が働き始め、社内制度が問題あれば、全従業員対応の形で変更する(フレックス対応、時短勤務、正社員の就業規則しかない場合はパートタイム労働者用就業規則の作成など)
理由としては、「個別で規則変更すれば、(他の障害者採用時にまた別の変更が必要で)きりがない」、「就業規則の変更内容の従業員への開示が障害者の個人情報の問題となりえるため」 などですね。