「お客様からの理不尽な要求に、現場が疲弊している」。総務や人事にこういう相談が上がってくることは、以前からあったと思います。ただ、これまでは会社としてどこまで対応すべきか、はっきりした基準がありませんでした。
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対策が会社の義務になります。パワハラ防止法のときと同じで、方針を決めて周知し、相談窓口を作る、という形の措置義務です。
今回は、何が義務になるのか、どこからがカスハラなのか、施行までに何を準備すればいいのかを整理しました。就業規則の規定例と社内周知用の方針文、相談対応の記録票もダウンロードできるようにしています。
2026年8月時点の厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)をもとにしています。
【この記事でわかること】
- 2026年10月1日から、カスハラ対策が全事業主の義務になる(労働者が1人でも対象)
- カスハラは3つの要素をすべて満たすもの。正当な苦情は含まれない
- 会社が講じるのは、方針の明確化・相談体制の整備・事後対応・悪質なものへの抑止措置の4つ。これに併せてプライバシー保護と不利益取扱いの禁止も必要
- 相談窓口はパワハラ等の既存窓口と一体で設置してよい
- 派遣先も、受け入れている派遣労働者について同じ措置を講じる必要がある
カスハラ対策は2026年10月から会社の義務になる
改正された労働施策総合推進法によって、カスハラを防止するための雇用管理上の措置が事業主に義務づけられました。
いつから義務になる?
2026年(令和8年)10月1日からです。根拠は2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法です。同法第33条第1項に雇用管理上必要な措置を講じる義務、第2項に相談等を理由とする不利益な取扱いの禁止、第3項に他の事業主から協力を求められた場合の協力の努力義務が定められています。
猶予期間や中小企業への段階的適用はありません。施行日から一律に義務になります。
対象になるのはどんな会社?
労働者を雇用しているすべての事業主です。業種も企業規模も問いません。従業員が1人でもいれば対象になります。
小売や飲食など接客業だけの話に見えるかもしれませんが、取引先の担当者からの言動も対象になるので、BtoBの会社も無関係ではありません。
指針はいつ出た?
2026年2月に厚生労働省から告示されました。正式名称は「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)です。
この記事の内容も、基本的にこの指針に沿って整理しています。実際に社内文書を作るときは、指針の本文に一度は目を通しておいたほうがいいと思います。
構造としてはパワハラ防止法の措置義務とよく似ています。すでに対応済みの会社なら、その仕組みに乗せる形で進められます。パワハラ側の対応はパワハラ防止法で会社に義務づけられた措置と対応にまとめています。

カスハラとは何を指す?
カスハラとは、職場で行われる顧客等の言動であって、社会通念上許容される範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるものをいいます。
3つの要素をすべて満たすもの
指針では、次の3つをすべて満たすものがカスハラだとされています。1つでも欠ければ該当しません。
- 顧客等の言動であること
- その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
- 労働者の就業環境が害されるものであること
対面で行われるものだけでなく、電話やSNS等のインターネット上で行われるものも含まれます。

正当な苦情はカスハラに当たらない
顧客からの苦情がすべてカスハラになるわけではありません。客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れであって、カスハラには当たりません。
また、障害者が、障害者差別解消法で禁止されている不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること自体も、カスハラには当たりません。
1回の言動でもカスハラになることがある
なります。「就業環境が害される」かどうかは、平均的な労働者の感じ方、つまり同様の状況で言動を受けた場合に社会一般の労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるかどうかで判断します。
言動の頻度や継続性は考慮されますが、強い身体的または精神的苦痛を与える態様の言動なら、1回でも就業環境を害する場合があるとされています。「何度も繰り返されていないから対象外」とは限らない、ということですね。
どこまでが「社会通念上許容される範囲を超えた言動」?
指針では、典型的な例が「言動の内容」と「手段や態様」の2つに分けて示されています。
言動の内容が範囲を超えるもの
| 類型 | 指針に挙げられている例 |
|---|---|
| そもそも要求に理由がない、または商品・サービス等と全く関係のない要求 | 性的な要求や、労働者のプライバシーに関わる要求をすること |
| 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求 | 契約内容を著しく超えたサービスの提供を要求すること |
| 対応が著しく困難な、または対応が不可能な要求 | 契約金額の著しい減額の要求をすること |
| 不当な損害賠償要求 | 商品やサービス等の内容と無関係である不当な損害賠償要求をすること |
手段や態様が範囲を超えるもの
| 類型 | 指針に挙げられている例 |
|---|---|
| 身体的な攻撃(暴行、傷害等) | 殴る・蹴る・叩く等の暴行、物を投げつける、わざとぶつかる、つばを吐きかける |
| 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等) | 店舗の物を壊すことやSNS等への悪評投稿をほのめかして脅す、労働者のプライバシーに係る情報をSNS等へ投稿する、人格を否定する言動、土下座の強要、盗撮や無断での撮影 |
| 威圧的な言動 | 大きな声をあげて労働者や周囲を威圧する、反社会的な言動を行う |
| 継続的、執拗な言動 | 同様の質問を執拗に繰り返す、当初の話からのすり替えや揚げ足取り、同様のメール等を執拗に送りつける |
| 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁) | 長時間にわたる居座りや電話で労働者を拘束する |
精神的な攻撃の中には、労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報を、本人の了解を得ずに他の者に暴露すること、または本人が開示することを強要・禁止することも挙げられています。
どちらか一方だけでも該当する?
該当することがあります。「言動の内容」と「手段や態様」の一方のみに当てはまる場合でもカスハラになりえます。
また、指針に挙げられている例は限定列挙ではありません。ここに書かれていないから対象外、という判断はできないので、社内の相談対応も幅を持たせておく必要があります。
「職場」「労働者」「顧客等」はどこまで含む?
用語の範囲が思ったより広いので、ここは押さえておきたいところです。

職場=取引先の事務所や顧客の自宅も入る
「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指します。通常就業している場所以外でも、業務を遂行する場所であれば職場に含まれます。
取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅なども該当します。訪問営業や出張修理のような業務がある会社は、自社の店舗内だけを想定した対策では足りません。
労働者=パート・契約社員も入る。派遣先も義務を負う
正社員だけでなく、パートタイム労働者、契約社員などの非正規雇用労働者を含む、雇用する労働者のすべてが対象です。
派遣労働者については、労働者派遣法第47条の4の規定により、派遣先も派遣労働者を雇用する事業主とみなされます。つまり派遣元だけでなく、受け入れている派遣先も同じ措置を講じる必要があります。
相談したことを理由とする不利益な取扱いの禁止も派遣労働者が対象です。派遣先が、カスハラの相談を行ったことを理由にその派遣労働者の役務の提供を拒む、といった対応をしてはいけません。
顧客等=これから客になる人や近隣住民も入る
「顧客等」には、顧客(今後商品の購入やサービスの利用等をする可能性がある潜在的な顧客を含む)、取引の相手方(今後取引する可能性のある者を含む)、施設の利用者その他の事業に関係を有する者が含まれます。
- 事業主が販売する商品の購入やサービスの利用をする者
- 事業の内容等に関し問い合わせをする者
- 取引先の担当者
- 企業間での契約締結に向けた交渉を行う際の担当者
- 施設・サービスの利用者およびその家族
- 施設の近隣住民
施設の近隣住民まで入るのは、少し見落としやすいところだと思います。駅や病院、学校、福祉施設のような施設の利用者も対象です。
会社が講じなければならない4つの措置
指針では、事業主が講じなければならない措置が4つ示されています。さらに、この4つと併せて講じる措置としてプライバシー保護と不利益取扱いの禁止が定められています。パワハラ防止法の措置義務とよく似た組み立てです。

①方針の明確化と周知・啓発
カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確にし、管理監督者を含む労働者に周知・啓発します。あわせて、カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容も周知します。
対処の内容として、指針では次のような例が挙げられています(限定列挙ではありません)。
- 労働者から管理監督者等に直ちに報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐ
- 可能な限り労働者を一人で対応させない。必要に応じて管理監督者等が代わって対応する
- 顧客等とのやり取りを録音・録画する(個人情報保護法等を遵守する)
- 十分な説明を行ってもなお繰り返しの要求が続く場合は、一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりする
- 暴行・傷害・脅迫など犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する
- 現場対応が困難な場合は本社・本部等へ情報共有し、指示を仰ぐ
- 法的な手続が必要な場合は法務部門等と連携し、弁護士へ相談する
方針は労働者だけでなく、顧客等に周知・啓発することも被害の防止に効果的とされています。店頭の掲示やホームページへの掲載がこれにあたります。
②相談体制の整備
相談窓口をあらかじめ定めて労働者に周知し、担当者が内容や状況に応じて適切に対応できるようにします。
窓口の形は、担当者を定める、制度を設ける、外部機関に委託する、のいずれでも構いません。職場の他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置することも認められています。
重要なのは受け付ける範囲です。実際にカスハラが生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、カスハラに該当するか微妙な場合であっても、広く相談に対応する必要があります。「明らかなカスハラだけ受け付ける」という運用は指針に沿いません。
③事後の迅速かつ適切な対応
事案が起きたら、次の3つを行います。
- 事実関係を迅速かつ正確に確認する
- カスハラが生じた事実が確認できたら、速やかに被害者への配慮の措置を行う
- 改めて方針を周知・啓発し、再発防止に向けた措置を講じる
被害者への配慮としては、管理監督者等が被害者に代わって対応する、被害者と行為者を引き離す、対応する担当者を変更する、複数人で対応する、産業保健スタッフ等によるメンタルヘルス不調への相談対応、などが挙げられています。
行為者が他社の労働者や他社の役員である場合は、必要に応じて、その事業主に事実関係の確認や再発防止への協力を求めることも含まれます。メンタル不調への対応は職場のメンタルヘルス対策とストレスチェック制度もあわせてご覧ください。

④悪質なものへの抑止措置
労働者に対し過度な要求を繰り返すなど、特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知します。あわせて、その方針で定めた対処を実際に行える体制を整備します。
指針では、特に悪質と考えられるものへの対処の例として次のものが挙げられています。
- 暴行・傷害・脅迫など犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報する
- 行為者に対して警告文を発出する
- 法令の制限内において、行為者に対して商品の販売、サービスの提供等をしない
- 行為者に対して店舗および施設等への出入りを禁止する
- 民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てる
方針を決めるときは、各業法等による定めがある場合など、業種・業態等により必要な対応が異なることに留意するようにとされています。「出入り禁止にする」が使える業種と使えない業種がある、ということですね。
体制の整備としては、①の対処の内容を周知する際に、あわせて悪質なものへの対処の方針を定めて周知し、関係部門間の連携等の体制を整えることが例として挙げられています。
4つと併せて講じる措置(プライバシー保護・不利益取扱いの禁止)
①から④の措置を講じる際に、併せて講じなければならない措置です。相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知します。プライバシーには性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報も含まれます。
あわせて、カスハラの相談をしたこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局に相談・紛争解決の援助の求め・調停の申請を行ったことなどを理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発します。
この「不利益な取扱いをしない旨」は、就業規則その他の服務規律等を定めた文書に規定する方法が例として挙げられています。就業規則を見直すなら、この部分を入れておくとよいと思います。
カスハラ対策のテンプレート(無料ダウンロード)
実際に社内で用意することになる3つの文書のひな形を置いておきます。自社の実情に合わせて書き換えてご利用ください。
カスタマーハラスメント対策方針(社内周知用)
指針が求める「毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針」を1枚にまとめたものです。カスハラの内容、起きたときの対処、相談窓口、不利益取扱いの禁止まで入れてあります。

就業規則のカスタマーハラスメント対応規定例
就業規則(またはハラスメント防止規程)に置く条文の例です。条番号は自社の就業規則に合わせて振り直してください。

カスタマーハラスメント相談・対応記録票
相談窓口で受け付けた内容と対応の経緯を残す様式です。事実確認・被害者への配慮・再発防止まで1枚で追えるようにしてあります。

- 記入例の会社名・氏名・窓口・内容はすべて架空のサンプルです。自社の内容に書き換えてお使いください。
- 方針と規定例は、厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)が求める項目に沿って作成しています。
就業規則と社内周知はどう整える?
用意する文書は大きく3つです。方針を示す文書、就業規則の規定、相談対応の記録票。それぞれの役割を整理しておきます。
就業規則にはどう書く?
指針が就業規則への規定を例として挙げているのは、④の「相談等を理由に不利益な取扱いをしない旨」です。ここは規定として置いておくのが確実だと思います。
あわせて、カスハラが起きたときの報告経路と、会社が労働者を保護する旨を書いておくと、現場が動きやすくなります。ダウンロードできる規定例はこの構成にしています。
常時10人以上の労働者を使用する事業場で就業規則を変更した場合は、労働者代表等の意見書を添えて労働基準監督署へ届け出る必要があります(労働基準法第89条・第90条)。別規程にする場合の届出の要否は就業規則以外の規程、どこまで労働基準監督署へ届出が必要?にまとめています。ひな形そのものの入手先は就業規則のひな形_モデル就業規則の入手先と使い方をご覧ください。

社内向けの方針文には何を書く?
カスハラには毅然と対応し労働者を保護すること、カスハラの内容(3要素と典型例)、起きたときの対処の内容、相談窓口の連絡先、相談したことで不利益に扱わないこと。この5つが入っていれば、指針の求める周知の中身をおおむね満たせます。
配り方は、社内報・パンフレット・社内ホームページへの掲載、研修や講習の実施などが例に挙がっています。トップメッセージとして社内に広く発信する方法も示されています。
相談窓口は新しく作らないとダメ?
新設しなくても大丈夫です。パワハラ・セクハラの相談窓口と一体的に設置することが指針で認められています。すでに窓口がある会社は、受付範囲にカスハラを加えて周知し直すのが早いと思います。
担当者として、労働者の上司にあたる管理監督者等を定めることも考えられるとされています。小さい会社で専任を置けない場合は、この形になると思います。
対策を進めるときに気をつけること
カスハラ対策は「断る仕組み」を作る話なので、行きすぎると別の問題が出ます。指針でも注意点が示されています。
消費者の権利や障害者差別解消法との関係
対策を講じる際は、消費者法制により定められている消費者の権利や、障害者差別解消法で定められた不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務に留意する必要があります。
合理的配慮を求める申出をカスハラとして扱ってしまうと、法律違反になりかねません。顧客等との建設的対話を重ねるなど、事案に応じた対応が求められます。
業法でサービス提供義務がある場合
各業法等によりサービス提供の義務等が定められている場合や、サービスが途絶すると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合があることにも留意が必要です。
医療・介護・公共交通のような分野は、「対応を打ち切る」という判断がそのまま使えません。業種ごとの実態に合わせた線引きが要ります。
自社の労働者が加害者にならないように
自社の労働者が、取引先の労働者に対してカスハラをする側になることもあります。事業主は、雇用する労働者が他社の労働者に対して行う言動についても必要な注意を払うよう配慮することとされています。
方針を明確化するときに、他社の労働者に対してカスハラを行ってはならない旨を併せて示すことが望ましいとされています。方針文を「守られる側」の話だけで終わらせない、ということですね。
他社から協力を求められたら
自社の労働者や役員が他社の労働者にカスハラをしたとして、その会社から事実関係の確認等について協力を求められた場合、事業主はこれに応ずるよう努めなければならないとされています(努力義務)。
義務ではないが望ましい取組
指針では、4つの措置に加えて行うことが望ましい取組も示されています。
顧客等への対応力を高める
労働者が自社の商品やサービスをよく理解して顧客等への対応力を高めることは、カスハラの被害者になることを防ぐうえで重要だとされています。接客・商品・苦情対応についての研修などが例です。
あわせて、消費者の心理や障害特性等についての資料配布や研修により、労働者が顧客等への理解を深める取組も挙げられています。
運用状況の把握と見直し
措置を講じる際に、労働者や労働組合等の参画を得つつ、アンケート調査や意見交換等を実施して、運用状況の把握や見直しの検討に努めることが重要だとされています。労働安全衛生法の衛生委員会を活用する方法も示されています。
自社の労働者以外の人への言動
方針を明確化する際に、他社の労働者や個人事業主など、自社が雇用する労働者以外の人に対する顧客等の言動についても、同様の方針を併せて示すことが望ましいとされています。
これらの人からカスハラに類する相談があった場合も、内容を踏まえて必要に応じ適切に対応するよう努めることが望ましい、とされています。
施行までにやること
2026年10月1日に間に合わせるための流れを整理しました。
現場でどんな言動が起きているかを把握します。指針の典型例を配って、当てはまるものがないかを聞くやり方が手早いと思います。
業種・業態によって被害の実態は違うので、他社の事例をそのまま持ってきても現場では使いにくいと思います。自社で実際に起きていることを起点にしたほうが、あとの方針も具体的になります。
カスハラには毅然と対応し労働者を保護する方針と、起きたときに現場が何をするか(報告経路・一人で対応させない・録音の可否・警察への通報の基準など)を決めます。
ここがあいまいだと現場が判断できません。「どこまで対応して、どこで打ち切るか」を先に決めておくのが、この措置の実質だと思います。
あわせて、特に悪質なものへの対処の方針(警察への通報・警告文・出入り禁止など、どこまでやるか)も決めます。こちらは④の抑止措置として義務になっている部分です。
相談等を理由に不利益な取扱いをしない旨を規定します。あわせて報告経路と会社が労働者を保護する旨も入れておくと使いやすくなります。
常時10人以上の労働者を使用する事業場は、変更したら労働者代表の意見を聴き、意見書を添えて労働基準監督署へ届け出ます。10月1日施行なので、意見聴取と届出の期間を見込んで早めに進めておきたいところです。
既存のハラスメント窓口があれば、受付範囲にカスハラを加えます。担当者には、発生のおそれがある場合や該当するか微妙な場合も広く受け付けることを伝えておきます。
あわせて、相談者のプライバシー保護のために必要な事項をマニュアルに定めておくと、指針が求める措置を満たしやすくなります。
方針、カスハラの内容、対処の内容、相談窓口、不利益取扱いをしない旨を、管理監督者を含む労働者に周知します。研修や講習の実施も例に挙げられています。
派遣労働者を受け入れている場合は、その人たちにも同じように周知する必要があります。ここは抜けやすいので気をつけたいところです。
義務ではありませんが、方針を顧客等に周知・啓発することは被害の防止に効果的とされています。店頭の掲示やホームページへの掲載がこれにあたります。
掲示するときは、正当な苦情まで拒む印象にならない書き方にしたいところです。「ご意見はお受けします」を前段に置いたうえで、許容されない言動を示す形が無難だと思います。
まとめ
2026年10月1日から、カスハラ対策が全事業主の義務になります。労働者が1人でもいれば対象で、猶予期間はありません。
やることは、方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、特に悪質なものへの抑止措置の4つです。これらと併せて、プライバシー保護と不利益取扱いの禁止の措置も必要になります。パワハラ防止法の措置義務とよく似た組み立てなので、すでに仕組みがある会社は窓口と規定を広げる形で対応できます。
気をつけたいのは、正当な苦情はカスハラに当たらないという点と、合理的配慮を求める申出を取り違えないことです。断る仕組みを作る話なので、線引きを誤ると別の問題になります。
カスハラ対策の義務化に関するよくある質問
- 措置を講じなかった場合、罰則はありますか?
-
措置義務そのものに直接の罰則は設けられていません。ただし、厚生労働大臣による助言・指導・勧告の対象になり、勧告に従わない場合は企業名を公表できる仕組みが労働施策総合推進法に設けられています。加えて、対策を怠って労働者が心身の健康を害した場合は、安全配慮義務違反として損害賠償の問題になり得ます。
- 従業員が5人程度の会社でも対応が必要ですか?
-
必要です。労働者を雇用しているすべての事業主が対象で、企業規模による適用除外や猶予期間はありません。小規模な会社では、相談担当者を社長や管理監督者が兼ねる形も指針で想定されています。
- 顧客との会話を録音しても問題ありませんか?
-
指針では、対処の内容の例として顧客等とのやり取りの録音・録画が挙げられています。ただし個人情報保護法等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱うこととされています。運用ルールと保管方法を決めたうえで行うのが前提になります。
- 在宅勤務中に電話で受けた場合も対象になりますか?
-
対象になります。「職場」は労働者が業務を遂行する場所を指し、通常就業している場所以外も含まれます。また電話やSNS等インターネット上で行われるものもカスハラに含まれるとされています。
- 相談を受けたものの、カスハラかどうか判断できないときはどうすればいいですか?
-
まず受け付けてください。指針では、カスハラが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や該当するか微妙な場合であっても、広く相談に対応し適切な対応を行うこととされています。事実確認が困難な場合は、労働施策総合推進法第37条に基づく調停の申請や、中立な第三者機関に紛争処理を委ねる方法も示されています。
- 事実が確認できなかった場合は、何もしなくていいですか?
-
いいえ。カスハラが生じた事実が確認できなかった場合においても、改めて方針を周知・啓発し、再発防止に向けた措置を講じることとされています。事案の内容や対応経緯を記録して関係部門に共有し、再発防止に活用することも考えられるとされています。
- 派遣社員から相談を受けたら、派遣元に任せていいですか?
-
派遣先も措置を講じる必要があります。労働者派遣法第47条の4により、派遣先も派遣労働者を雇用する事業主とみなされるためです。相談を行ったことを理由に派遣労働者の役務の提供を拒むといった不利益な取扱いも禁止されています。
- パワハラの相談窓口と分けたほうがいいですか?
-
分ける必要はありません。指針で、職場における他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置することも考えられるとされています。担当者への研修の内容にカスハラを加え、受付範囲を労働者に周知し直すのが現実的だと思います。
