「消費税簡易課税制度選択届出書」は、消費税の納税額を売上だけで計算できる簡易課税制度を使うために提出する書類です。
本来の消費税の計算(一般課税)は、支払った消費税を1件ずつ集計しないと納税額が出ません。簡易課税なら売上に係る消費税額に「みなし仕入率」を掛けた金額を、仕入れに係る消費税額とみなして差し引けるので、経理の負担がまるで変わります。
この用紙、下半分に「提出要件の確認」という細かいチェック欄がびっしり並んでいて、初見だとかなり面食らいます。ただ、中小企業の多くは、先頭の確認欄に記入すれば、その下の詳細欄は空欄で済みます。身構えなくて大丈夫です。
今回は記入例と書き方に加えて、提出期限の例外(ここが令和8年度改正で変わりました)と、そもそも提出できないケースをまとめました。
【この記事でわかること】
- 提出は任意。使いたいときだけ出す
- 基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間だけ適用できる
- 提出期限は原則「適用したい課税期間の初日の前日」まで。設立1期目はその課税期間中でよい
- 【令和8年度改正】2割特例・3割特例の翌課税期間は、申告期限までの提出でその期から使える
- 調整対象固定資産や高額特定資産を買った直後は、そもそも提出できない
- 選択したら2年間は継続適用(2年間はやめられない)
消費税簡易課税制度選択届出書とは
消費税簡易課税制度選択届出書とは、簡易課税制度の適用を受けるために納税地の所轄税務署長へ提出する書類です(消費税法第37条第1項)。
簡易課税は、課税事業者が基準期間の課税売上高5,000万円以下の課税期間について、売上に係る消費税額にみなし仕入率を掛けた金額を「仕入に係る消費税額」とみなして納税額を計算できる制度です。実際にいくら消費税を払ったかを集計しなくていいのが最大のメリットですね。
みなし仕入率と事業区分

みなし仕入率は業種によって6段階に決まっています。
| 事業区分 | 該当する事業 | みなし仕入率 |
|---|---|---|
| 第1種事業 | 卸売業 | 90% |
| 第2種事業 | 小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る) | 80% |
| 第3種事業 | 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業 | 70% |
| 第4種事業 | 第1種・第2種・第3種・第5種・第6種以外の事業(飲食店業など) | 60% |
| 第5種事業 | 運輸通信業、金融業・保険業、サービス業(飲食店業を除く) | 50% |
| 第6種事業 | 不動産業 | 40% |
卸売業は、仕入れた商品を性質・形状を変えずに他の事業者へ販売する事業です。小売業は、同じく性質・形状を変えずに販売する事業のうち卸売業に当たらないものをいいます。同じ商品を扱っていても、売る相手で区分が変わるということですね。
簡易課税が有利になりやすい会社
ざっくり言うと、実際の課税仕入れがみなし仕入率より少ない会社が有利になります。
典型は人件費が中心のサービス業です。第5種のみなし仕入率は50%ですが、経費の大半が給与(給与は課税仕入れになりません)なら、実際の課税仕入れは売上の20%程度ということもあります。この差がそのまま納税額の差になります。
逆に、大きな設備投資をする年や、外注費・仕入が多い年は一般課税の方が有利になります。簡易課税だと設備投資分の消費税をまったく引けないので、還付にもなりません。
提出は義務?任意?どんなときに義務になる?
完全に任意です。義務になることはありません。出さなければ一般課税で計算するだけで、それが原則の姿です。
ただし、この届出書には「出したら終わり」ではない性質があります。一度出すと、やめる届出を出すまで効力が続きます。
| 状況 | 提出 | 結果 |
|---|---|---|
| 一般課税でよい | 不要 | 一般課税で計算する(原則) |
| 簡易課税を使いたい | 必要 | 基準期間の課税売上高5,000万円以下の課税期間で適用 |
| 簡易課税をやめたい | 「選択不適用届出書」が必要 | 2年間の継続適用後でないと提出できない |
| 基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた | 何も出さなくてよい | その課税期間だけ自動的に一般課税になる |
| 免税事業者に戻った | 何も出さなくてよい | 再び課税事業者になったとき、届出が生きていれば簡易課税が復活する |
表の最後の行が落とし穴です。売上が下がって5,000万円を超えなくなったり、いったん免税事業者に戻ったりしても、選択不適用届出書を出していない限り届出は生きています。数年後に課税事業者へ戻ったとき、忘れた頃に簡易課税が復活するので注意してください。
消費税簡易課税制度選択届出書の記入例、書き方

上の例の様に書いてもらえれば、問題ないと思います。用紙は下半分の「提出要件の確認」が目立ちますが、実際に書くのは上半分がほとんどです。
上部の法人情報欄
| 欄 | 書く内容 |
|---|---|
| 年月日提出 | 実際に提出する日 |
| 提出先 | 納税地を所轄する税務署名 |
| 法人番号 | 13桁の法人番号(個人は記載不要) |
| フリガナ・氏名又は名称 | 法人は会社名を登記簿どおりに |
| 【法人】フリガナ・代表者氏名 | 代表取締役の氏名 |
| 納税地(郵便番号・フリガナ・納税地・電話番号) | 本店所在地 |
用紙の右上に「個人の方は個人番号の記載は不要です」と注記があります。法人は法人番号を書いてください。法人番号の調べ方は法人番号とはなに?確認方法、検索方法などをまとめましたにまとめています。

枠内のチェック欄(インボイス経過措置用)
「下記のとおり、消費税法第37条第1項に規定する簡易課税制度の適用を受けたいので、届出します。」の下に、四角で囲まれた文章と「1=はい」の欄があります。
ここは、インボイス登録の経過措置で課税事業者になった事業者が登録した課税期間から簡易課税を使いたいとき、または2割特例・3割特例の翌課税期間から簡易課税に移りたいときに「1」を書く欄です。免税事業者から登録した年に、その年から簡易課税を適用するための特例ですね。
それ以外の会社は空欄で構いません。原則どおり翌期から簡易課税を始めるだけなら、この欄は使いません。
「①適用開始課税期間」「②①の基準期間」「③②の課税売上高」欄
この3つが実質の本体です。
- ①適用開始課税期間:簡易課税を使いたい課税期間の初日と末日
- ②①の基準期間:①の課税期間の基準期間(法人は原則として前々事業年度)の初日と末日
- ③②の課税売上高:②の期間の課税売上高を円単位で記入
③に書いた金額が5,000万円以下であることが適用の条件なので、ここは税務署が真っ先に見る欄です。基準期間が1年に満たない法人は、月数で割って12倍した金額を書きます。
設立1期目に提出する場合は基準期間がないので、②③は空欄になります。基準期間がない課税期間は、そもそも5,000万円の判定対象外なので問題ありません。
「事業の内容」「事業区分」欄
事業の内容には、実際に行っている事業を具体的に書きます。「小売業」だけでなく「衣料品の小売」のように書いた方が、区分の妥当性が伝わります。
事業区分には、前述の表から該当する種別の数字を書きます。欄の右に「種事業」と印字されているので、「5」と書けば「第5種事業」の意味になります。
複数の事業を営んでいる場合は、主たる事業を書いておけば大丈夫です。実際の申告では事業ごとに区分して計算することになるので、この欄で全部を表現する必要はありません。
「提出要件の確認」欄(イ・ロ・ハ・ニ)
用紙の下半分を占めている欄です。まず先頭に「次のイ、ロ、ハ又はニの場合に該当する」という質問があり、1=はい/2=いいえを書きます。
ここが「2=いいえ」なら、イ〜ニの中身はすべて空欄で構いません。中小企業の多くはこのパターンです。
「1=はい」に該当するのは次の4ケースです。
| 区分 | 該当するケース | 書く内容 |
|---|---|---|
| イ | 消費税課税事業者選択届出書を出して課税事業者になっている | 課税事業者となった日/その後2年以内に調整対象固定資産を買っていないかの確認 |
| ロ | 資本金1,000万円以上の「新設法人」、または「特定新規設立法人」に該当する(していた) | 設立年月日/基準期間のない事業年度中に調整対象固定資産を買っていないかの確認 |
| ハ | 高額特定資産の仕入れ等を行っている | 仕入れ等を行った課税期間の初日など(自己建設の場合はB欄) |
| ニ | 金地金等の仕入れ等が税抜200万円以上ある | 200万円以上となった課税期間の初日 |
イとロは、資本金1,000万円以上で設立した会社や、還付狙いで課税事業者を選択した会社が該当します。設立時に何も特別なことをしていない会社なら、まず引っかかりません。
参考事項欄と税理士署名欄は、書くことがなければ空欄で構いません。
消費税簡易課税制度選択届出書のダウンロード(国税庁の様式)
e-Taxソフト(WEB版)からも提出できます。
提出先・提出期限
原則は「適用したい課税期間の初日の前日」まで
この届出書の効力は、原則として提出した日の属する課税期間の翌課税期間から生じます。したがって、簡易課税を使いたい課税期間の初日の前日までに提出することになります。
3月決算の会社が令和9年4月1日開始の期から簡易課税にしたいなら、令和9年3月31日までに提出する、という関係ですね。
ここが一般課税との有利判定を難しくしているところで、その期の売上や設備投資が確定する前に決めないといけません。予測で判断せざるを得ない制度になっています。
設立1期目は「その課税期間中」でよい
新規開業した事業者は例外があり、開業した課税期間の末日までに提出すれば、その課税期間から簡易課税の適用を受けられます。
ただし設立1期目から簡易課税を使うということは、そもそも設立1期目に課税事業者になっているということです(資本金1,000万円以上、課税事業者選択、インボイス登録のいずれか)。免税事業者のままなら、簡易課税を出しても出番がありません。
【令和8年度改正】2割特例・3割特例の翌課税期間は申告期限まで
令和8年度税制改正で、簡易課税へ移りやすくする措置が設けられました(2026年8月時点の情報です)。
2割特例または3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間に簡易課税を使いたい場合、その課税期間の申告期限までに提出すれば、その課税期間から簡易課税を適用できます。
普通は「期首の前日まで」なのに、この場合だけ「期末を過ぎた申告期限まで」でよいということです。結果が出てから選べるので、実務上はかなり大きい緩和ですね。
なお、3割特例は個人事業者だけの制度で法人は対象外です。法人がこの緩和措置を使うのは、2割特例の翌課税期間のケースになります。
【注意】2割特例の翌期が令和8年9月30日以前に終わる場合
2割特例を受けた課税期間の翌課税期間が令和8年9月30日以前に終了する場合は、申告期限までではなくその課税期間の末日までが期限になります。また、確定申告書の提出期限の特例(申告期限の延長)を受けている法人は、その延長後の期限が届出書の提出期限になります。
法人の2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間で終わるので、多くの法人にとって「2割特例の次にどうするか」を決めるのがまさに今のタイミングです。簡易課税に移るなら、この緩和措置が使えます。
あわせて「インボイス登録申請書の書き方と記入例」も参考にしてください。提出先
納税地を所轄する税務署長です。書面なら持参・郵送、e-Taxなら電子送信になります。控えは必ず保管しておいてください。
この届出書はやめる届出を出すまで効力が続くので、「いつ出したか」が何年も先に効いてきます。設立時の書類とは別に、消費税関係の届出だけをまとめたファイルを作っておくと後が楽です。
そもそも提出できないケース

簡易課税は還付が出ない制度なので、高額な資産を買って還付を受けた直後に簡易課税へ逃げることを防ぐ仕組みがあります。次に当てはまる期間は、届出書自体を提出できません。
- 課税事業者選択届出書で課税事業者となった日から2年を経過する日までに開始した各課税期間中に、調整対象固定資産(税抜100万円以上)の課税仕入れ等を行った場合
- 新設法人・特定新規設立法人が、基準期間のない事業年度中に調整対象固定資産の課税仕入れ等を行った場合
- 高額特定資産(税抜1,000万円以上)の仕入れ等を行った場合
- 自己建設高額特定資産の建設等の仕入れ等の累計額が1,000万円以上となった場合
- 金又は白金の地金等の仕入れ等の合計額(税抜)が200万円以上となった場合(課税期間が1年未満なら年換算して判定)
いずれも、その仕入れ等の日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ提出できません。
さらに気を付けたいのが、先に届出書を出していても無効になる点です。届出書を提出した後、同じ課税期間中に上記に該当する取引をすると、その届出書は提出がなかったものとみなされます。
「簡易課税の届出を出したから安心」と思って届出書を提出した課税期間中に税抜1,000万円以上の高額特定資産を取得すると、その届出書は提出がなかったものとみなされ、一般課税で申告することになる場合があります。設備投資の予定があるなら、届出前に確認しておいた方がいいと思います。
出したあとの縛り

簡易課税を選択した場合、事業を廃止した場合等を除いて、2年間継続した後でなければやめられません(消費税法第37条第6項)。
やめるときは「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を、やめたい課税期間の初日の前日までに提出します。
2年目に大きな設備投資をすると、一般課税なら還付だったのに簡易課税のせいで還付が受けられない、という事態が起こります。2年先までの投資計画をざっくりでも見てから選ぶのが安全です。
なお、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた課税期間は、届出が生きていても自動的に一般課税になります。これは届出を出し直す必要はありません。翌年また5,000万円以下になれば、そのまま簡易課税に戻ります。
ありがちな記入ミス
- 「①適用開始課税期間」に提出日の属する期を書く → 原則は翌期を書く欄
- ③に総売上高を書く → ここは課税売上高(非課税売上は含めない)
- 基準期間が1年未満なのに実額をそのまま書く → 月数で割って12倍する
- 提出要件の確認欄を空欄のまま出す → 先頭の「1=はい/2=いいえ」だけは必ず記入する
- 事業区分に業種名を書く → 数字(1〜6)を書く欄
- 枠内のインボイス経過措置チェックに、関係ないのに「1」を書く → 該当しないなら空欄
- 免税事業者なのに提出する → 届出書の提出自体は免税事業者でもできるが、簡易課税が適用されるのは課税事業者となる課税期間から
まとめ
- 提出は任意。使いたいときだけ出す
- 適用できるのは基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間
- 提出期限は原則「適用したい課税期間の初日の前日」まで。設立1期目はその課税期間中でよい
- 【令和8年度改正】2割特例・3割特例の翌課税期間は申告期限までの提出でその期から適用できる
- 調整対象固定資産・高額特定資産・金地金等を買った直後は提出できない。提出後に買うと届出が無効になる
- 選択したら2年間は継続適用。やめるときは選択不適用届出書を期首の前日までに出す
そもそも課税事業者になる側の手続については、消費税課税事業者選択届出書の記事もあわせてご覧ください。
あわせて「消費税課税事業者選択届出書の書き方と記入例」も参考にしてください。消費税簡易課税制度選択届出書のQ&A
- 複数の事業をやっている場合、みなし仕入率はどうなる?
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原則として事業区分ごとに売上を分けて、それぞれのみなし仕入率で計算します。ただし1つの事業区分の売上が全体の75%以上を占める場合は、その区分の仕入率をすべてに適用できる特例があります。区分ごとの売上を集計していないと使えないので、レジや売上帳の設計段階で分けておくのがおすすめです。
- 事業区分を間違えて届け出たらどうなる?
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この欄はあくまで参考情報なので、届出書の事業区分と実際の申告での区分が違っても、届出自体が無効になるわけではありません。納税額は申告時の実際の区分で計算します。とはいえ税務調査で区分の妥当性を見られる論点ではあるので、根拠は説明できるようにしておいてください。
- 簡易課税を選ぶとインボイスの保存は不要になる?
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仕入税額控除のためのインボイス保存は不要になります(売上だけで計算するため)。ただし自社が発行する側のインボイスは、登録事業者である以上ちゃんと交付・保存する必要があります。もらう側の手間が減るだけと考えてください。
- 出し忘れた場合、あとから遡れる?
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原則できません。災害等のやむを得ない事情がある場合に限り「消費税簡易課税制度選択(不適用)届出に係る特例承認申請」という手続があります。単なる失念では認められないので、期限管理が重要です。
- 国外事業者でも簡易課税は使える?
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課税期間の初日において恒久的施設を有しない国外事業者は、簡易課税制度の適用を受けられません。国内に事務所や事業所を持たないケースが該当します。
- 個人事業から法人成りしたら、個人時代の簡易課税は引き継がれる?
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引き継がれません。個人と法人は別の事業者なので、法人として改めて届出を出す必要があります。「個人のときから簡易課税だったから大丈夫」と思っていると、法人の初年度が一般課税になるので注意してください。




