「消費税課税事業者選択届出書」は、本来は消費税を納めなくていい免税事業者が、あえて課税事業者になることを選ぶための書類です。
普通に考えると「わざわざ税金を払う側になる書類」なので、なぜそんなものがあるのか分かりにくいと思います。理由は消費税の還付を受けるためです。免税事業者のままだと、支払った消費税が戻ってきません。
ただ、この届出書は一度出すと2年間は戻れません。設備投資の予定と数年分の納税額を天秤にかける判断になるので、書き方より「出すべきかどうか」の方が本題という珍しい書類です。
今回は、記入例と書き方に加えて、出す前に確認すべきことと出したあとの縛りをまとめました。
【この記事でわかること】
- 提出は任意。主に還付を受けたいときに検討する
- 資本金1,000万円以上の新設法人は、そもそも提出する必要がない(別の届出になる)
- インボイス登録をするなら、この届出書は不要
- 提出期限は原則「適用したい課税期間の初日の前日」まで。設立1期目だけはその課税期間中でよい
- 出すと原則2年間は免税に戻れない。一定期間中に調整対象固定資産を取得すると、戻れない期間が実質3年になることがある
消費税課税事業者選択届出書とは
消費税課税事業者選択届出書とは、基準期間の課税売上高が1,000万円以下(基準期間がない場合を含む)の事業者が、納税義務の免除を受けないこと、つまり課税事業者になることを選択するために提出する書類です(消費税法第9条第4項)。
前提として、資本金1,000万円未満の新設法人は、基準期間がないので設立1期目・2期目は原則として免税事業者になります。ただし第2期は、特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合などに課税事業者となることがあります。この「せっかくの免税」を自分から手放す届出、という位置づけですね。
あえて課税事業者になる理由
代表的な理由は、消費税の還付を受けるためです。
消費税の納税額は「売上で預かった消費税 − 仕入や経費で支払った消費税」で計算します。この計算結果がマイナスなら還付になるのですが、免税事業者は還付を受けられません。申告する立場にないからです。
そのため、支払った消費税の方が大きくなる会社は、あえて課税事業者を選ぶ意味があります。典型的なのは次のパターンです。
- 設立直後に大きな設備投資をする(店舗の内装・機械の導入・車両の購入など)
- 売上の大半が輸出(輸出売上は消費税が免除される一方、仕入の消費税は控除できる)
- 開業準備の支出が先行して、初年度は売上がほとんど立たない
出すと損になるケース
逆に、普通に利益が出る商売なら出すだけ損です。免税でいられる2年分の消費税をわざわざ納めることになります。
「還付になりそうな年が1年だけあるが、翌年からは普通に納税」という場合も要注意です。2年縛りがあるので、1年目の還付と2年目の納税を通算して考えないと判断できません。
それと、消費税の申告と納税の事務が発生します。帳簿の付け方も課税・非課税・不課税の区分が必要になるので、事務負担は確実に増えます。金額が小さいなら、その手間に見合わないこともあります。
提出は義務?任意?どんなときに義務になる?
この届出書は完全に任意で、免税事業者が自分から課税事業者を選ぶためのものです。出さなければ、この届出による課税事業者にはなりません。ただし、基準期間・特定期間の課税売上高、新設法人・特定新規設立法人に当たる場合、インボイス登録をした場合などは、別の理由で課税事業者になることがあります。
ただし、ここが混乱しやすいところで、消費税には名前が似ている「義務の届出書」が別にあります。課税事業者になる経緯によって出すべき書類が変わるので、表で整理します。
| 課税事業者になる理由 | 出す書類 | 義務/任意 | 提出時期 |
|---|---|---|---|
| 自分から課税事業者を選ぶ(還付狙いなど) | 消費税課税事業者選択届出書 | 任意 | 適用したい課税期間の初日の前日まで |
| 基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた | 消費税課税事業者届出書(基準期間用) | 義務 | 事由が生じたら速やかに |
| 特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた(課税売上高に代えて給与等支払額で判定することもできる) | 消費税課税事業者届出書(特定期間用) | 義務 | 事由が生じたら速やかに |
| 資本金1,000万円以上で設立した | 消費税の新設法人に該当する旨の届出書 | 義務(後述の例外あり) | 事由が生じたら速やかに |
| インボイス発行事業者になりたい | 適格請求書発行事業者の登録申請書 | 任意 | 登録を受けたい時期に応じて |
「選択」の2文字が入っているかどうかで、任意か義務かが分かれると覚えておくと間違えにくいです。
出す前に確認:そもそも提出が不要な会社

書き方に入る前に、そもそも自社に提出の必要があるかを確認してください。次の2パターンは、出しても意味がありません。
資本金1,000万円以上で設立した会社
基準期間のない事業年度の開始の日の資本金の額(または出資の金額)が1,000万円以上の法人は、そもそも納税義務の免除の規定が適用されません。設立1期目から自動的に課税事業者です。
この場合に出すのは選択届出書ではなく「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」になります(消費税法第57条第2項)。
【ポイント】法人設立届出書に書いてあれば提出不要
法人設立届出書に「消費税の新設法人に該当する旨」と所定の事項を記載して提出していれば、新設法人に該当する旨の届出書を別途出す必要はありません。設立届の段階でここを埋めておけば1枚減らせます。
なお、資本金1,000万円未満でも、一定の要件に当てはまる「特定新規設立法人」は同じく免税になりません。大きな親会社のグループ内で子会社を作るようなケースが該当します。この場合は「消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出書」になります。
インボイス登録をする会社
免税事業者がインボイス発行事業者の登録を受ける場合は、登録申請書を出すだけで課税事業者になれます。課税事業者選択届出書は不要です(令和11年9月30日までの日の属する課税期間の経過措置)。
ここを知らずに両方出してしまう例をときどき見かけます。両方出す必要はありません。選択届出書を出すと2年間の継続適用や、調整対象固定資産を取得した場合の制限がかかるため、インボイス登録が目的なら登録申請書だけにしてください。
あわせて「インボイス登録申請書の書き方と記入例」も参考にしてください。消費税課税事業者選択届出書の記入例、書き方

上の記入例のように、適用開始課税期間と基準期間の課税売上高を正しく記入してください。A4用紙1枚で、法人の場合に埋める欄はそれほど多くありません。
上部の申請者情報欄
この様式は個人事業者と法人の共用なので、法人には関係のない欄が混ざっています。法人が書くのは次のとおりです。
| 欄 | 法人が書く内容 |
|---|---|
| 提出先 | 納税地を所轄する税務署名 |
| 個人番号又は法人番号 | 13桁の法人番号を書く(マイナンバーではない) |
| フリガナ・名称(屋号) | 会社名。「屋号」は個人事業者向けの表記なので気にしなくてよい |
| フリガナ・氏名又は代表者氏名 | 代表取締役の氏名 |
| 納税地(郵便番号・フリガナ・納税地・電話番号) | 本店所在地 |
| 本店又は主たる事務所の所在地 | 納税地と同じなら「同上」でよい |
| 【法人】代表者住所(フリガナ・住所・電話番号) | 代表取締役の自宅住所 |
法人番号を法人のマイナンバーだと思って個人番号を書いてしまう間違いがたまにあります。法人番号は公表されている13桁の番号なので、国税庁の法人番号公表サイトで確認できます。詳しくは法人番号とはなに?確認方法、検索方法などをまとめましたをご覧ください。

「① 適用開始課税期間」欄
課税事業者になりたい課税期間の初日と末日を書きます。ここがこの届出書のいちばん重要な欄です。
設立1期目から課税事業者になりたい法人なら、設立日と第1期の決算日を書きます。たとえば令和8年10月1日設立・3月決算の会社が第1期から適用したいなら、「自 令和8年10月1日 至 令和9年3月31日」となります。
第2期から適用したいなら、第2期の期首と期末を書くことになります。
「② ①の期間の基準期間」欄
①に書いた課税期間の基準期間(法人は原則として前々事業年度)の初日と末日を書きます。
ここで新設法人が迷うのですが、設立1期目・2期目には基準期間そのものが存在しません。前々事業年度がないからです。その場合はこの欄は空欄で問題ありません(心配なら「なし」と書いておけば意図が伝わります)。
「③ ②の期間の総売上高・課税売上高」欄
基準期間の総売上高と課税売上高を、それぞれ円単位で書きます。②が空欄なら、ここも空欄になります。
基準期間がある場合の書き方には細かい決まりがあります。
- 金額は消費税と地方消費税を含まない税抜きで書く
- 輸出売上は含める
- 売上に係る対価の返還等(返品・値引・割戻)の金額は含めない
- 基準期間が1年に満たない法人は、その期間の金額を月数で割って12倍した金額を書く
- 基準期間が免税事業者だった場合は、そもそも消費税が課されていないので税抜処理は不要(税込金額のまま書く)
最後の「免税事業者だった期間は税抜処理しない」は間違えやすいところです。律儀に割り戻してしまうと金額が過小になります。
設立年月日・事業内容・事業年度・資本金の欄
③の下に並んでいる欄です。法人はここを埋めます。
| 欄 | 書く内容 |
|---|---|
| 【個人】生年月日/【法人】設立年月日 | 法人は設立登記の日を元号から記入 |
| 事業内容 | 実際に行う主な事業(「衣料品の小売」など具体的に) |
| 【法人】事業年度(自・至) | 定款で定めた事業年度。月日だけを記入する |
| 【法人】資本金 | 資本金の額を円単位で記入 |
資本金欄を書いていて1,000万円以上だと気付いたら、その時点でこの届出書は不要です。前のH2に戻って確認してください。
「届出区分」欄
該当する番号を1つ書きます。欄の上に選択肢が印字されています。
- 1=事業開始/2=設立/3=相続/4=合併/5=分割/6=特別会計/7=その他
新しく会社を設立して出す場合は「2」です。個人事業から法人成りした場合も、法人としては新設なので「2」になります。
設立から何年か経った会社が、途中の期から課税事業者を選ぶ場合は「7=その他」を使うことになります。
参考事項欄と税理士署名欄は、特に書くことがなければ空欄で構いません。税務署整理欄は触らないでください。
消費税課税事業者選択届出書のダウンロード(国税庁の様式)
e-Taxソフト(WEB版)からも提出できます。法人はログイン画面が個人と分かれているので、法人用から入ってください。
提出先・提出期限
原則は「適用したい課税期間の初日の前日」まで
この届出書の効力は、提出した日の属する課税期間の翌課税期間から生じます。そのため、課税事業者になりたい課税期間の初日の前日までに提出する必要があります。
3月決算の会社が令和9年4月1日開始の期から課税事業者になりたいなら、令和9年3月31日までに提出する、という関係です。
設立1期目だけは「その課税期間中」でよい
新規に開業・設立した事業者は例外があります。事業を開始した日の属する課税期間であれば、その課税期間中に提出すれば、その期から適用を受けられます。
設立1期目については、期首に間に合わなくても期末までに出せば第1期から課税事業者になれるということですね。設立直後の慌ただしい時期を考えると、ここは実務的にありがたい例外です。
ただし「その課税期間中」なので、決算日を1日でも過ぎたらもう第1期には適用できません。設備投資の還付を狙っているなら、期末に向けて必ずカレンダーに入れておいてください。
設立3期目から選びたいときは2期目中に出す
設立3期目からは基準期間(第1期)の課税売上高で納税義務を判定します。第1期の課税売上高が1,000万円以下で、第3期も免税になる見込みだが課税事業者を選びたい、という場合は、第2期中にこの届出書を提出する必要があります。
第3期に入ってからでは間に合いません。ここは原則どおりの「初日の前日まで」が効いてくるところです。
提出先
納税地を所轄する税務署長です。書面なら持参または郵送、e-Taxなら電子送信になります。
この届出書は「出したかどうか」が数年後に効いてくるので、控えは必ず取っておいてください。令和7年1月から、税務署は申告書等の控えに収受日付印を押しません。郵送なら控えを自分で作成・保管して発送記録を残す、e-Taxなら受信通知をPDFで保存する、というやり方になります。
出したあとの縛り

2年間は免税に戻れない
課税事業者をやめるときは「消費税課税事業者選択不適用届出書」を出します。ただし、事業を廃止した場合を除いて、課税事業者となった日から2年間継続した後でなければ提出できません(消費税法第9条第6項)。
つまり、1年目に還付を受けて2年目からすぐ免税に戻る、ということはできません。還付額と2年目の納税額を通算して有利かどうかを判断する必要があります。
調整対象固定資産を買うと3年に延びる
さらに縛りが延びるケースがあります。課税事業者となった日から2年を経過する日までに開始した各課税期間(簡易課税制度の適用を受ける課税期間を除く)中に調整対象固定資産の課税仕入れ等を行い、その課税期間の確定申告を一般課税で行った場合です。
調整対象固定資産とは、税抜100万円以上の棚卸資産以外の資産(建物・機械装置・車両・器具備品・ソフトウェアなど)のことです。
この場合、その仕入れ等の日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間までは課税事業者をやめられません。しかも、この間は簡易課税を選ぶこともできず、一般課税での申告になります。
「還付を受けたいから課税事業者を選ぶ」という動機の会社は、まさに高額な固定資産を買う会社なので、この3年縛りに引っかかるのが普通です。実質的には3年計画で考えることになります。
【参考】判断は税理士に試算してもらった方が安全
還付額と3年分の納税額の比較、簡易課税との有利判定、インボイス登録との兼ね合いまで絡むので、金額が大きい場合は自力での判断が難しくなります。届出の期限が「その課税期間中」で切れてしまう以上、決算間際に相談しても間に合わないことがあります。設備投資の計画が固まった段階で一度試算してもらうのが確実です。
ありがちな記入ミス

- 「①適用開始課税期間」に提出日の属する期を書いてしまう → 適用を受けたい期を書く欄。原則は翌期になる
- 基準期間がないのに②③を無理に埋める → 設立1期目・2期目は空欄でよい
- 免税事業者だった基準期間の売上を税抜きに割り戻す → 税抜処理は不要。税込のまま書く
- 法人番号欄に代表者のマイナンバーを書く → 法人は13桁の法人番号
- 届出区分を空欄にする → 設立なら「2」を記入する
- インボイス登録もするのに両方提出する → 登録申請書だけでよい。余計な2年縛りを背負わない
- 資本金1,000万円以上なのに提出する → 提出不要。新設法人に該当する旨の届出書(または法人設立届出書への記載)になる
まとめ
- 提出は任意。出すのは消費税の還付を受けたいときだけ
- 資本金1,000万円以上の新設法人と、インボイス登録をする会社は提出不要
- 提出期限は原則「適用したい課税期間の初日の前日」まで。設立1期目だけはその課税期間中でよい
- 設立3期目から選びたいときは第2期中に提出する
- 出すと2年間は免税に戻れない。調整対象固定資産を買うと3年に延び、その間は簡易課税も選べない
- 還付額と数年分の納税額を通算して判断する。金額が大きいなら税理士に試算を依頼する
課税事業者になったあとの計算方法の選択については、簡易課税制度選択届出書の記事もあわせてご覧ください。
あわせて「消費税簡易課税制度選択届出書の書き方と記入例」も参考にしてください。消費税課税事業者選択届出書のQ&A
- 出し忘れた。あとから遡って適用できる?
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原則としてできません。ただし災害などやむを得ない事情がある場合に限り、「消費税課税事業者選択(不適用)届出に係る特例承認申請」という手続があります。単なる失念では認められないので、期限管理が重要になります。
- この届出書を出したあと、売上が1,000万円以下に戻ったら何か出す?
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「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書」は不要です。選択届出書を出している以上は課税事業者のままなので、届け出る事由に当たりません。免税に戻りたいなら選択不適用届出書を出します。
- 個人事業から法人成りした場合、個人時代の届出は引き継がれる?
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引き継がれません。個人と法人は別の事業者なので、法人として改めて判定・届出を行います。法人成りのタイミングで免税期間がリセットされるのは、この仕組みによるものです。
- 課税事業者を選択したら、簡易課税も同時に選べる?
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選べます。ただし還付狙いで課税事業者になる場合、簡易課税では還付になりません(売上ベースで納税額を計算するため)。還付が目的なら一般課税を使うことになります。さらに、上の条件で調整対象固定資産を買った場合は、一定期間は簡易課税制度選択届出書を提出できません。
- 還付金はいつ頃入金される?
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申告してから1か月〜2か月程度が目安ですが、還付申告は内容確認が入りやすく、税務署から資料の提出を求められることがあります。金額が大きいほど確認も丁寧になるので、契約書や請求書はすぐ出せるようまとめておくとスムーズです。
- 決算期を変更したら届出は出し直し?
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選択届出書の出し直しは不要です。ただし事業年度の変更自体は「異動届出書」を税務署へ提出する必要があります。課税期間が変わることで有利不利の計算も変わるので、そこは別途確認してください。
異動届出書の書き方は税務署「異動届出書」の記入例、書き方、提出時の注意点などにまとめています。





