「棚卸資産の評価方法の届出書」は、期末に残っている在庫をいくらで評価するかを税務署に届け出るための書類です。
会社を設立したときに税務署から渡される書類一式の中に紛れていることが多くて、法人設立届出書や青色申告の承認申請書と一緒に「これも出すんですか?」と聞かれることがあります。
結論から言うと、これは出さなくても罰則のない届出書です。ただ、出さなかったら自動的に評価方法が決まってしまうので、「知らないうちに決まっていた」という状態になります。在庫を持つ商売なら、そこは自分で選んでおいた方がいいと思います。
今回は、この届出書の記入例と書き方、それに「そもそも出すべきなのか」の判断のところをまとめました。
【この記事でわかること】
- 提出は任意。出さなければ「最終仕入原価法による原価法」が自動適用される
- 提出期限は設立第1期の確定申告書の提出期限まで(決算日の2か月後が目安)
- 評価方法として記入する中心は「事業の種類」「資産の区分」「評価方法」の3列(ほかに上部の法人情報欄と参考事項欄)
- 選べるのは原価法6種類と、それぞれに対応する低価法6種類の合計12通り
- あとから変えるときは届出ではなく「変更の承認の申請」になる(税務署長の承認が必要)
棚卸資産の評価方法の届出書とは
棚卸資産の評価方法の届出書とは、期末棚卸資産をどの評価方法で計算するかを選んで、納税地の所轄税務署長に届け出るための書類です(法人税法施行令第29条第2項)。
期末在庫の金額が変われば売上原価が変わり、売上原価が変われば利益が変わり、最終的に法人税額が変わります。だから税務署としては「どの方法で計算しているのか」を把握しておきたい、という書類ですね。棚卸資産そのものの考え方については勘定科目とは?仕訳や貸借対照表・損益計算書での基本ルールを初心者向けに解説もあわせてご覧ください。

出さないとどうなる?
出さなかった場合は、最終仕入原価法による原価法が自動的に適用されます(法人税法施行令第31条第1項)。これが法定の評価方法です。
最終仕入原価法は「期末に一番近い時期に仕入れた単価で、期末在庫を全部評価する」という方法です。仕入単価が1つ分かればいいので、実務としては一番ラクです。
そのため、出さないこと自体は失敗ではありません。むしろ小規模な会社では、あえて何も出さずに最終仕入原価法のままにしているケースが多いですね。
出す会社・出さなくていい会社

在庫をほとんど持たない会社は、出さなくてまず困りません。サービス業・IT系・コンサルのように「評価する棚卸資産がそもそも無い」場合、届け出ても書く中身がないので意味が薄いです。
逆に、出すことを検討した方がいいのは次のような会社です。
- 在庫の値下がりが起きやすい商売(流行り物・型落ちの早い商品・季節物)→ 低価法を検討する
- 仕入単価の変動が激しく、期末の1回の仕入で全在庫を評価されると実態と合わない会社 → 総平均法・移動平均法を検討する
- 1点ものを扱う会社(不動産・美術品・受注生産の機械など)→ 個別法を検討する
- 小売業で品目数が膨大な会社 → 売価還元法を検討する
提出は義務?任意?どんなときに義務になる?
結論としては任意の届出です。出さなくても罰則はなく、申告が受け付けられないということもありません。
ただ、「任意」と言い切ると誤解が出るところがあります。正確には次の整理になります。
| やりたいこと | 提出 | 提出しないとどうなる |
|---|---|---|
| 最終仕入原価法でいい(法定どおり) | 不要 | 最終仕入原価法が適用される。問題なし |
| 最終仕入原価法以外を採用したい | 実質必須 | 採用できない。法定の最終仕入原価法になる |
| 低価法を採用したい | 実質必須 | 低価法による通常の時価下落の反映ができない(破損・型崩れ・品質変化など特別の事実がある場合の評価損は別途認められることがある) |
| 資産の区分ごとに違う方法を使いたい | 実質必須 | 全部まとめて最終仕入原価法になる |
| 特別な評価方法を使いたい | 別途「承認申請」が必要 | 使えない(届出だけでは足りない) |
つまり「法定どおりでいいなら任意、法定と違う方法にしたいなら事実上の必須」という性質の書類です。義務として督促が来る種類のものではないので、期限を過ぎても税務署から連絡が来ることはまずありません。そのぶん自分で管理しないと気付かないまま期限を過ぎます。
【参考】提出が義務になる書類との違い
会社設立のときに税務署へ出す書類のうち、法人設立届出書は提出義務があります(法人税法第148条)。一方でこの棚卸資産の評価方法の届出書と、減価償却資産の償却方法の届出書は、どちらも「選ぶなら出す」という位置づけです。義務と任意が混ざっているので、設立時のチェックリストを作るときは分けて管理した方が混乱しません。
棚卸資産の評価方法の届出書の記入例、書き方

上の記入例のように書けば問題ありません。A4用紙1枚で、実際に埋めるところはそれほど多くありません。
上部の法人情報欄
用紙の上半分は、会社の基本情報を書く欄です。ここは法人設立届出書や青色申告の承認申請書と同じ内容なので、設立時にまとめて書いてしまうとラクです。
| 欄 | 書く内容 |
|---|---|
| 年月日提出 | 実際に提出する日。郵便・信書便なら通信日付印の日が提出日とみなされる |
| 提出先 | 納税地を所轄する税務署名(「○○税務署長」の○○部分) |
| 法人番号 | 13桁の法人番号。登記後に国税庁から通知される |
| 納税地(郵便番号・所在地・電話番号) | 本店所在地。登記簿どおりに書く |
| フリガナ(法人名)・法人名 | 「株式会社」も含めて登記簿どおり。前株・後株の位置に注意 |
| 事業種目 | 定款の目的から、実際に行う主な事業を書く |
| 代表者(郵便番号・住所・フリガナ・氏名) | 代表取締役の自宅住所と氏名 |
法人番号がまだ手元に届いていないときは、国税庁の法人番号公表サイトで検索すれば登記の翌週くらいには出てきます。調べ方は法人番号とはなに?確認方法、検索方法などをまとめましたにまとめています。

「事業の種類(又は事業所別)」欄
実際に行っている事業の内容を、種類別に書きます。「小売業」「卸売業」「製造業」といった書き方で大丈夫です。
事業を1つしかやっていない会社なら、1行目に事業名を書いて終わりです。事業所ごとに違う評価方法を選びたい場合は、ここに事業所名(「○○支店」など)を書きます。
なお、評価方法の選定は事業の種類ごと、かつ資産の区分ごとに行うことになっています。2つの事業をやっているなら、事業ごとに別の行を使って書き分けられます。
「資産の区分」欄
用紙にはあらかじめ次の5区分が印字されています。自社に関係する区分の行だけ埋めれば大丈夫です。
- 商品又は製品(副産物・作業くずを除く)
- 半製品
- 仕掛品(半成工事を含む)
- 主要原材料
- 補助原材料その他の棚卸資産
小売業や卸売業なら「商品又は製品」の1行だけで済むことが多いです。製造業だと、製品・仕掛品・主要原材料の3行くらいは埋まると思います。
副産物と作業くずは「補助原材料その他の棚卸資産」に含めて扱うことになっているので、そこだけ別行を立てる必要はありません。
「評価方法」欄
採用する評価方法の名前を書きます。「先入先出法による原価法」のように、記載要領に載っている呼び方をそのまま書くのが確実です。
「先入先出法」とだけ書いても意味は通じますが、原価法なのか低価法なのかが判別できないので、正式な呼び方で書いた方がいいと思います。選べる12通りは次のH2でまとめます。
「参考事項」欄・「税理士署名」欄
参考事項欄は3つに分かれています。
- 1 新設法人等の場合には設立等年月日:設立登記の日(登記簿の「会社成立の年月日」)を元号から書く。新設法人はここを必ず埋める
- 2 新たに他の種類の事業を開始した場合又は事業の種類を変更した場合には、開始又は変更の年月日:設立時の提出では空欄でよい
- 3 その他:特に書くことがなければ空欄
税理士署名欄は、この届出書を税理士や税理士法人が作成した場合に、その税理士が署名する欄です。自分で作成したなら空欄のままで問題ありません(空白で出して注意されたことはないですね)。
その下の「税務署整理欄」は税務署が使う欄なので、こちらは触らないでください。
棚卸資産の評価方法の届出書のダウンロード(国税庁の様式)
様式は国税庁のサイトからダウンロードできます。会社独自の様式を作る書類ではないので、必ず公式の用紙を使ってください。
e-Taxソフトで作成・送信することもできます。設立時は他にも出す書類が多いので、まとめて電子申告してしまう会社が増えている印象です。
選べる評価方法と選び方
選べるのは「原価法」6種類と、その6種類にそれぞれ対応する「低価法」6種類の、合計12通りです。
原価法6種類

| 評価方法 | どう計算する | 向いている会社 |
|---|---|---|
| 個別法による原価法 | 1点ごとに実際の取得価額で評価 | 不動産・美術品・受注生産の機械など1点もの |
| 先入先出法による原価法 | 先に仕入れたものから先に売れたとみなす | 賞味期限・型番管理のある商品 |
| 総平均法による原価法 | 期首在庫+期中仕入の平均単価で評価 | 仕入単価が変動する商品を大量に扱う会社 |
| 移動平均法による原価法 | 仕入のつど平均単価を計算し直す | 在庫システムで単価管理している会社 |
| 最終仕入原価法による原価法 | 期末に一番近い仕入単価で全部評価(法定) | 特にこだわりがない会社。届出不要 |
| 売価還元法による原価法 | 期末在庫の売価に原価率を掛けて逆算 | 品目数が膨大な小売業 |
1つ注意点があって、個別法による原価法は「通常1つの取引によって大量に取得され、かつ規格に応じて価額が定められている棚卸資産」については選定できないことになっています。要するに、規格品の大量仕入れに個別法は使えません。
低価法
低価法は、上の原価法で計算した金額と期末時価を比べて、低い方で評価する方法です。単独で選ぶものではなく、「先入先出法による原価法に基づく低価法」のように、原価法とセットで指定します。
値下がりした在庫を時価まで下げて評価できるので、評価損を計上できます。在庫の値下がりリスクが大きい商売なら、検討する価値があります。
とはいえ、期末に時価を調べる手間が毎年発生します。品目数が多いとこれが地味に重いので、「値下がりがあれば税負担が下がることがあるが事務は増える」というトレードオフで考えることになります。
迷ったときの考え方
在庫が少ない会社は、素直に届出を出さず最終仕入原価法でいいと思います。届出を出さないという選択も、ちゃんとした選択です。
在庫商売を本格的にやる会社は、会計上の在庫評価方法と税務上の評価方法を近づけておくと、決算時の調整を減らせます。ただし会計上のルールと税務上の届出方法が常に一致するとは限りません。会計ソフトで採用している方法をそのまま届け出る、という決め方は現実的だと思います。
金額のインパクトが大きい場合や、低価法を入れるかどうかで迷う場合は、設立のタイミングで税理士に相談してしまった方が早いです。
提出先・提出期限・提出方法
提出期限

普通法人を設立した場合、提出期限は設立第1期の確定申告書の提出期限までです。
3月決算の会社が設立第1期を迎えるなら、確定申告書の提出期限は原則として決算日の翌日から2か月以内なので5月31日が目安です(その日が土日祝なら翌開庁日)。そこまでに出せばいいことになります。設立直後の慌ただしい時期ではなく、最初の決算のタイミングまで猶予があるわけですね。
仮決算をして中間申告書を提出する場合は、その中間申告書の提出期限までになります。
設立時以外だと、次のタイミングでも提出できます。
- 新たに他の種類の事業を開始した場合 → その事業年度の確定申告書の提出期限まで
- 事業の種類を変更した場合 → その事業年度の確定申告書の提出期限まで
- 公益法人等・人格のない社団等が新たに収益事業を開始した場合 → その事業年度の確定申告書の提出期限まで
提出先
納税地の所轄税務署長です。本店所在地を管轄する税務署ですね。県税事務所や市役所ではないので注意してください。
この届出書は国税(法人税)だけの話なので、地方税側には同じ届出はありません。
提出方法と控えの扱い
e-Taxソフトで作成・送信するか、書面なら1部を持参または郵送します。
書面で郵送するときは、提出用の1部だけを送ります。令和7年1月から、税務署は申告書等の控えに収受日付印を押さない運用に変わりましたので、控えはご自身で作成・保管し、提出年月日を記録しておいてください。切手を貼った返信用封筒を同封した場合は、当分の間の対応として、収受した日付や税務署名を記載したリーフレットが返送されます。
e-Taxで送った場合は、メッセージボックスの受信通知が控えの代わりになります。PDFで保存しておけば十分です。
税務署が閉まっている土日祝でも、時間外収受箱に投函すれば提出したことになります。
ありがちな記入ミス
- 評価方法を「先入先出法」とだけ書く → 原価法か低価法かが分からない。「先入先出法による原価法」と正式名称で書く
- 参考事項の「設立等年月日」が空欄 → 新設法人はここで提出期限の起算日が判定されるので必ず記入する
- 規格品の大量仕入れに個別法を選んでしまう → 選定できない組み合わせなので却下される
- 法人名を通称で書く → 登記簿どおりの表記にする(前株・後株の位置も含めて)
- 使わない資産区分の行まで埋める → 自社に無い区分は空欄でよい
- 税務署整理欄に書き込む → ここは税務署が使う欄なので触らない
あとから評価方法を変えたくなったら
一度選んだ評価方法を変えるときは、届出ではなく「棚卸資産の評価方法の変更の承認の申請」になります。届出は出せば終わりですが、変更は税務署長の承認が必要という違いがあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 手続名 | 棚卸資産の評価方法等の変更の承認の申請(C1-29) |
| 提出期限 | 変更しようとする事業年度開始の日の前日まで |
| 根拠 | 法人税法施行令第30条第2項 |
| 要件 | 現在の方法を採用してから相当期間が経過していること |
国税庁の手続案内では要件が「現在の方法を採用してから相当期間が経過していること」とされており、実務では3年程度が一つの目安とされることが多いです。ただし個別事情によります。それより短いと、合理的な理由がない限り承認されないことがあります。
期限が「変更したい事業年度が始まる前日まで」である点は要注意です。決算作業をしながら「今期から変えよう」と思っても、その期はもう間に合いません。
なお、法令に列挙されていない特別な評価方法を使いたい場合は、変更承認とはまた別に「棚卸資産の特別な評価方法の承認の申請」が必要です。こちらは中小企業ではまず使いません。
まとめ
- 提出は任意。出さなければ最終仕入原価法による原価法が自動適用される
- ただし法定以外の方法を使いたいなら、事実上の必須になる
- 提出期限は設立第1期の確定申告書の提出期限まで。提出先は納税地の所轄税務署長
- 書くのは「事業の種類」「資産の区分」「評価方法」の3列と、参考事項の設立年月日
- 選べるのは原価法6種類+低価法6種類の12通り。在庫の値下がりが大きい商売は低価法を検討する
- 変更するときは事業年度開始の日の前日までに「変更の承認の申請」。承認まで必要なので最初の選択は慎重に
設立時にセットで検討することになる減価償却資産の償却方法の届出書についても別記事にまとめています。
あわせて「減価償却資産の償却方法の届出書の書き方と記入例」も参考にしてください。棚卸資産の評価方法の届出書のQ&A
- 期限を過ぎてから出したらどうなる?
-
受け付けてはもらえますが、その事業年度からは適用されません。効力が生じるのは提出後の事業年度からになるので、第1期は最終仕入原価法で申告することになります。罰則やペナルティはありません。
- 在庫がまったく無い会社でも出しておいた方がいい?
-
出さなくて問題ありません。将来在庫を持つ事業を始めたときに、その事業年度の確定申告書の提出期限までに出せば間に合います。先回りして出しておく必要はないと思います。
- 個人事業でも同じ届出がある?
-
あります。所得税版の「所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書」です。ただし提出期限が違い、確定申告期限(原則3月15日)までとなっています。法人の様式をそのまま使うことはできないので、様式も所得税用のものを使ってください。
- 事業所ごとに違う評価方法を選べる?
-
選べます。その場合は「事業の種類(又は事業所別)」欄に事業所名を書いて、事業所ごとに評価方法を記入します。ただし管理が複雑になるので、分ける実務上の理由がなければ揃えておいた方がラクだと思います。
- 提出したかどうか分からなくなった。確認する方法は?
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税務署に「申告書等閲覧サービス」を申請すると、過去に提出した届出書を閲覧できます。e-Taxで提出していればメッセージボックスの送信履歴でも確認できます。設立時の書類は控えをひとまとめにして保管しておくのが一番確実ですね。
- 会計上の評価方法と税務上の評価方法は揃えないとダメ?
-
揃える義務はありませんが、揃えておくのが実務では一般的です。バラバラにすると決算のたびに調整計算が必要になり、手間が増えます。会計ソフトの設定と届出内容を合わせておくのが無難だと思います。




