給与規程(賃金規程)をゼロから作るとなると、どの条文をどの順番で並べればいいのか手が止まりますよね。ネットで拾ったひな形を使おうとしても、手当の金額が条文の中に埋め込まれていて、改定のたびに全文を直す羽目になったりします。
私が前の職場で引き継いだ賃金規程がまさにそれで、役職手当の額が第5条の本文に書いてあり、ベースアップのたびに条文を直して新旧対照表を作っていました。金額を別表に追い出してからは、改定作業が体感で半分以下になりました。
今回は、その形にした賃金規程のひな形(Word・Excel)を用意しました。条文の書き方と別表の作り方、作った後の届出まで一通りまとめています。
この記事でわかること
- 全17条+別表3つの賃金規程ひな形(Word・Excel)をダウンロードできます
- 割増賃金の基礎から除外できる手当は法律で決まっていて、勝手に増やせません
- 通勤手当の別表は、非課税限度額と同じ距離区分にしておくと改定が楽になります
- 賃金規程は就業規則の一部なので、別表だけの変更でも意見聴取・届出・周知が必要です
賃金規程のテンプレート(無料ダウンロード)
先にひな形を置いておきます。第1条から第17条までと、役職手当・家族手当・通勤手当の別表3つが入っています。
Word版とExcel版の使い分け
規程の本体はWord版です。1ページ目が金額を空欄にしたひな形、2ページ目が金額まで入った記入例になっています。
Excel版は別表3つだけを抜き出したものです。賃金改定で触るのは基本的に別表だけなので、そこだけ表計算で管理できるようにしました。
規程の中身(見本)
ダウンロードする前に中身を確認したい方向けに、記入済みの見本を貼っておきます。

第1条と第2条に「就業規則第○条」という空欄があります。ここだけは自社の就業規則の条番号を入れてください。あとは金額を入れ替えれば形になると思います。
テンプレートの使い方(3ステップ)
まず、いま実際に払っている手当を全部書き出します。給与明細の支給項目を見ながら拾うのが確実です。
ここで「規程に書いていないのに慣習で払っている手当」が見つかることがよくあります。そのまま放置すると、後で支給・不支給の判断がつかなくなるので、この機会に条文に載せるか廃止するかを決めておくといいですね。
条文には「別表第1に定める額を支給する」とだけ書き、金額は別表にまとめます。ひな形はすでにこの形になっています。
手当の種類が足りなければ条文を足しますが、増やしすぎると計算も説明も複雑になります。統合できる手当がないかも一度考えてみてください。

賃金規程は就業規則の一部なので、作ったら終わりではありません。労働者代表の意見を聴いて、意見書を添えて労働基準監督署へ届け出て、従業員に周知するところまでがセットです。
この3つは後の「作ったら届出と周知が必要」で詳しく説明します。ここを飛ばすと、せっかく作った規程の効力が争われたときに弱くなります。
賃金規程に入れる条文(サンプルつき)
ひな形の条文のうち、特に間違えやすいところと、書き方で後が変わるところを説明します。

賃金の構成(第3条)
最初に「何を賃金として払うのか」の一覧を置きます。基本給・諸手当・割増賃金・賞与という並びですね。
ここに載っていない名目のお金を毎月払っていると、規程と実態がずれます。給与明細の支給項目と第3条の一覧が一致しているか、作った後で一度突き合わせてみてください。
割増賃金と、基礎から除外できる手当(第8条・第9条)
ここが賃金規程で一番間違いが起きるところです。割増賃金の計算のもとになる金額から除外できる手当は、法律で決まっていて会社が自由に増やすことはできません。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
この7つだけです(労働基準法第37条第5項、同法施行規則第21条)。役職手当や皆勤手当は入っていないので、割増賃金の基礎に含めて計算します。

【名称ではなく中身で判断されます】
「家族手当」という名前でも、扶養家族の有無にかかわらず全員に一律1万円を払っているなら、それは除外できません。割増賃金の基礎に入ります。通勤手当も同じで、距離や実費に関係なく一律定額なら除外できないとされています。ひな形の第9条第2項にこの趣旨を入れてあるのは、名前だけ合わせて実態が伴わないケースを防ぐためです。
割増率は、時間外が25%以上、1か月60時間を超える部分が50%以上、法定休日が35%以上、深夜が25%以上です。月60時間超の50%は中小企業にも適用されているので、ひな形にも入れてあります。
欠勤控除・日割りの計算方式(第10条)
欠勤したときにいくら引くのかは、法律で決まっていません。だからこそ規程に書いておかないと、担当者が変わるたびに計算方法が変わります。
ひな形では「(基本給+役職手当)÷1か月平均所定労働日数×欠勤日数」という月平均方式にしています。月ごとの所定日数で割る方式もありますが、月によって1日あたりの単価が変わるので、説明がややこしくなりますね。
控除の対象に通勤手当や家族手当を含めるかどうかも決めておいてください。ひな形では含めない形にしています。
支払方法と控除(第12条)
賃金は全額を払うのが原則です(労働基準法第24条)。そこから何かを引くには、法令に定めがあるか、労使協定があるかのどちらかが必要になります。
源泉所得税・住民税・社会保険料の本人負担分は法令に定めがあるので協定なしで引けます。一方、社宅費・財形貯蓄・社内預金・組合費などは賃金控除に関する労使協定がないと引けません。
規程に「その他会社が定めるもの」と書いてあるだけでは根拠になりません。ひな形の第12条には注記を入れてあるので、協定を結んでいない項目は削って使ってください。
固定残業代を入れるなら明確に区分する
ひな形には固定残業代を入れていませんが、導入している会社は条文を足すことになります。その場合は次の2つを必ず書いてください。
- 明確区分:基本給部分と割増賃金部分が金額で分かれていること。「月30時間分の時間外労働に対する手当として○○円」のように、何時間分かも書く
- 超過分の精算:想定時間を超えた分は別途支払うと明記すること
どちらかが欠けていると、固定残業代として認められず、払ったはずの手当が「割増賃金の基礎に含まれる賃金」と扱われることがあります。そうなると未払い残業代が一気に膨らむので、ここは慎重にいきたいところです。
別表の作り方(役職手当・家族手当・通勤手当)
金額を別表にまとめる形にしておくと、賃金改定で触るのが別表だけで済みます。3つの別表それぞれに気をつける点があります。
別表第1 役職手当
役職ごとの月額を並べるだけの単純な表です。ひな形では部長5万円・次長4万円・課長3万円・係長1.5万円にしています。
注意したいのは、役職手当を払っているからといって、その人が管理監督者になるわけではないことです。管理監督者かどうかは、職務内容・権限・待遇の実態で判断されます(労働基準法第41条第2号)。課長という肩書きと手当だけで残業代を払わない運用は、後で問題になりやすいです。
別表第2 家族手当
扶養家族の区分ごとに金額を決めます。ここで大事なのは、前に説明したとおり扶養家族の有無で金額が変わる形にすることです。
全員一律にしてしまうと、割増賃金の基礎から除外できなくなります。せっかく除外できる7つのうちの1つなので、区分をつけて設計するほうが得ですね。
別表第3 通勤手当(非課税限度額に合わせる)
ここがひな形で一番工夫したところです。自家用車通勤の距離区分と金額を、所得税法上の非課税限度額とそろえてあります。この額までなら課税されません。
| 片道の通勤距離 | 1か月あたりの非課税限度額 |
|---|---|
| 2km未満 | 全額課税(非課税枠なし) |
| 2km以上10km未満 | 4,200円 |
| 10km以上15km未満 | 7,300円 |
| 15km以上25km未満 | 13,500円 |
| 25km以上35km未満 | 19,700円 |
| 35km以上45km未満 | 25,900円 |
| 45km以上55km未満 | 32,300円 |
| 55km以上65km未満 | 38,700円 |
| 65km以上75km未満 | 45,700円 |
| 75km以上85km未満 | 52,700円 |
| 85km以上95km未満 | 59,600円 |
| 95km以上 | 66,400円 |
2026年8月時点(国税庁の表記では令和8年4月1日現在法令等)の金額です。ひな形の別表第3にはこの全区分を入れてあります。公共交通機関を使う場合は、最も経済的かつ合理的な経路の定期代が非課税で、1か月15万円が上限になります。
距離区分を限度額の区分と同じにしておくと、限度額が改定されたときに別表の金額を書き換えるだけで対応できます。会社独自の区分(10km以上20km未満など)にしていると、改定のたびに区分ごと作り直しになるんですよね。
一定の要件を満たす駐車場を利用している場合は、上の表の額に駐車場料金相当額(上限5,000円)を加算した額まで非課税になります。マイカー通勤者に駐車場代を出している会社は確認しておくといいと思います。
従業員から通勤経路を届け出てもらう様式が必要な場合は、通勤届・通勤手当申請書の書き方と記入例でひな形を配布しています。別表の距離区分と申請書の記入欄をそろえておくと、確認の手間が減ります。

作ったら届出と周知が必要
賃金規程は、就業規則本体と別冊にしているだけで、法律上は就業規則の一部です。なので就業規則と同じ手続きがかかります。
意見聴取 → 届出 → 周知の3点セット
- 意見聴取:労働者の過半数で組織する労働組合、なければ労働者の過半数代表者から意見を聴く(労働基準法第90条)
- 届出:意見書を添えて所轄の労働基準監督署へ届け出る(同第89条。常時10人以上の労働者を使用する事業場)
- 周知:掲示・備付け・書面交付・社内ネットワークでの閲覧などにより従業員に周知する(同第106条)

意見を「聴く」ことが必要なだけで、同意までは求められていません。反対意見が書かれた意見書でも届出は受理されます。とはいえ、反対されたまま押し切ると後の運用がしんどいので、説明はしておいたほうがいいですね。
どの規程まで届出が必要かの整理は、就業規則以外の規程、どこまで労働基準監督署へ届出が必要?にまとめています。

別表だけの変更でも手続きは必要
見落としやすいのがここです。別表も賃金規程の一部なので、別表の金額だけを変えた場合も意見聴取と届出が要ります。
ただ、別表方式にしておくと「どこが変わったか」が一目で分かるので、意見書をもらうときの説明も新旧対照表の作成もかなり楽になります。手続きが不要になるわけではなく、手続きの手間が減る、という違いですね。
賃金を下げる変更は不利益変更になる
手当の廃止や減額は労働条件の不利益変更にあたります。就業規則の変更で一方的に引き下げることは原則できず、労働者の同意を得るのが基本です(労働契約法第9条)。
同意なしに変更するには、変更後の内容が合理的であることと、その内容を周知していることが必要になります(同第10条)。合理性は、不利益の程度・変更の必要性・内容の相当性・労働組合等との交渉状況などから判断されます。
手当を廃止するときは、経過措置(数年かけて段階的に減らす、調整手当を出すなど)をセットで考えるのが現実的だと思います。
規程の整備と同時に給与計算そのものを見直すなら、「マネーフォワード クラウド給与」のようなクラウド給与ソフトに手当と控除の設定を移しておくと、改定のたびの反映漏れが減ります。
関連する規程・ひな形
賃金規程は就業規則の一部なので、就業規則本体がまだの場合はそちらから整えるほうが早いです。厚生労働省のモデル就業規則の入手先と使い方でまとめています。

退職金の制度がある会社は、賃金規程とは別に退職金規程を作るのが一般的です。条文サンプルは退職金規程のサンプルと作り方にあります。

出張の多い会社なら、旅費の支給基準を分けておくと賃金規程がすっきりします。こちらも別表方式のひな形を出張旅費規程のテンプレートとひな形で配布しています。

まとめ
賃金規程は、条文の書き方そのものより「金額をどこに置くか」と「除外できる手当を正しく理解しているか」で後の手間が大きく変わります。
- 金額は条文に書かず別表にまとめる。改定で触るのが別表だけになる
- 割増賃金の基礎から除外できる手当は7つだけ。会社が増やすことはできない
- 一律支給の家族手当・通勤手当は、名称にかかわらず除外できない
- 通勤手当の別表は非課税限度額と同じ距離区分にすると改定に強い
- 法令に定めのない控除は、賃金控除に関する労使協定がないとできない
- 別表だけの変更でも、意見聴取・届出・周知は必要
まずは記事前半のひな形を落として、いま払っている手当を別表に書き出すところから始めてみてください。
賃金規程のよくある質問
- 給与規程と賃金規程は名前が違うだけ?
-
中身は同じものと考えて差し支えありません。労働基準法の用語が「賃金」なので条文に合わせて賃金規程とする会社が多く、社内で通りがいい「給与規程」を使う会社もあります。どちらの名前でも、就業規則の一部であることと届出義務は変わりません。
- 従業員が10人未満でも作ったほうがいいですか?
-
常時10人以上の労働者を使用する「事業場」に届出義務がかかるので(労働基準法第89条)、それ未満の事業場なら義務はありません。会社全体ではなく事業場ごとに数える点に注意してください。義務がなくても作っておくことをおすすめします。手当の支給条件が書面にないと、支給する・しないの判断が人によってぶれます。人数が増えてから遡って整えるほうが大変です。
- パートやアルバイトも同じ賃金規程でいいの?
-
別規程にするのが一般的です。時給制で手当の体系も違うため、同じ規程に押し込むと条文が「ただし、パートタイマーについては〜」だらけになって読みにくくなります。ひな形の第2条も別に定める形にしています。
- 賃金テーブルも規程に載せる必要がありますか?
-
必須ではありません。等級ごとの金額を公開したくない会社は、規程には決定の基準だけを書き、テーブルは別管理にしています。ただし基準がまったく書かれていないと、昇給の説明を求められたときに困ります。
- 賞与を「支給しないことがある」と書いておけば払わなくていい?
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賞与も、労働の対償として会社が支払うものであれば労働基準法上の賃金に含まれます(同法第11条)。そのうえで賞与の請求権は、就業規則・労使の合意・慣行などによって具体的な算定基準や算定方法が定まり、支給額が確定して初めて発生すると整理されています。ひな形も業績によって支給しないことがある形にしていますが、毎年必ず一定額を出し続けていると、慣行として権利化していると見られることがあります。
- 意見書に反対と書かれたら届け出られないのですか?
-
届け出られます。必要なのは意見を聴くことであって、同意を得ることではありません。反対意見が記載された意見書でも受理されます。ただし意見書の添付自体がないと受理されないので、そこは省略できません。




