就業規則を一から作るのは大変なので、ひな形(テンプレート)からスタートしたい、という担当者の方は多いと思います。
結論を先に書くと、厚生労働省が公開している「モデル就業規則」(令和7年12月版が最新)を使うのが基本です。無料で、解説付きで、ある程度法的にも安心な内容になっています。
ただ、ダウンロードしてそのまま使うわけにはいきません。自社の実態に合わせた調整が必要だったり、厚労省の政策を反映した条文は会社の方針と合わなかったりするので、使い方にはコツがあります。
この記事では、モデル就業規則の入手先、構造、使い方の手順、注意点、関連の別冊規程ひな形までまとめました。これから自社で就業規則を整備する担当者の方の参考にしてください。
モデル就業規則の入手先(公式DL先出し)
まずはダウンロード先です。厚生労働省の公式サイトから無料でダウンロードできます。
厚生労働省「モデル就業規則」令和7年12月版
厚労省サイトの「モデル就業規則について」のページから、最新版(令和7年12月版)をダウンロードできます。
【公式ダウンロード】
令和7年12月の改訂では、国会または地方議会の議員に立候補するための休暇規程例(第32条)の追加、犯罪被害者等の被害回復休暇等の特別休暇の紹介拡充、各種法改正の反映などが行われました。
Word版とPDF版の使い分け
2つのファイル形式が用意されています。実務でカスタマイズしたい人はWord版を、内容を読むだけならPDF版を使うのが基本です。
| 形式 | 用途 |
|---|---|
| Word版(約641KB) | 自社用にカスタマイズする場合。条文の追加・削除・修正がしやすい |
| PDF版(約1MB) | 内容を読んで全体像を把握する場合。レイアウトが整っていて見やすい |
外国語版・やさしい日本語版もあり
外国人労働者向けに、英語・中国語・ポルトガル語・ベトナム語の翻訳版があります。また「やさしい日本語版」もあり、日本語が母語ではない労働者にも内容を伝えやすくなっています。
外国人を雇用している事業場では、本体の日本語版と合わせて、対象者が読める言語版を用意して周知するのが望ましいですね。
民間の就業規則ひな形との違い
民間のサイト・社労士事務所が公開しているひな形もありますが、まずはモデル就業規則を基準にするのが安全です。違いはこんなところです。
- モデル就業規則:厚労省作成。法的根拠が明確。各条文に解説付き
- 民間ひな形:業種特化(飲食・IT・建設など)。新しい働き方への対応が早い場合あり
- 社労士事務所のひな形:使用者寄りの条文設計。実務的なトラブル予防に強い
最初の1本目はモデル就業規則からスタートし、足りない部分を民間ひな形や社労士のサポートで補強するのが、現実的な進め方だと思います。
モデル就業規則の構造(章立てと収録範囲)
モデル就業規則がどんな構成になっているか、章立てを見ておきます。
全11章の構成(総則〜表彰・制裁まで)
モデル就業規則は、全11章で構成されています。条文数は約70条前後です(最新版では条文の追加・統合があるので、正確な数は変動します)。
| 章 | 主な内容 |
|---|---|
| 第1章 総則 | 目的・適用範囲・規則の遵守 |
| 第2章 採用・異動等 | 採用手続き・試用期間・労働条件明示・人事異動 |
| 第3章 服務規律 | 服務心得・遅刻早退欠勤・出張・ハラスメント禁止 |
| 第4章 労働時間・休憩・休日 | 労働時間・休憩・休日・時間外労働・勤務間インターバル |
| 第5章 休暇等 | 年次有給休暇・特別休暇・産前産後休業・育児介護休業 |
| 第6章 賃金 | 賃金構成・計算・支払方法・賞与・退職手当 |
| 第7章 定年、退職及び解雇 | 定年・退職事由・解雇事由・解雇予告 |
| 第8章 退職金 | 退職金の支給対象・計算・支払方法 |
| 第9章 無期労働契約への転換 | 有期から無期への転換ルール |
| 第10章 安全衛生及び災害補償 | 健康診断・安全衛生・労災補償 |
| 第11章 職業訓練 | 職業訓練・教育 |
| 第12章 表彰及び制裁 | 表彰・懲戒事由・懲戒の種類 |
労働基準法で求められる絶対的・相対的必要記載事項を、ほぼ網羅した構成になっています。

各章のカバー範囲
章ごとに、解説と条文例が並んでいます。条文の下に「※ここに自社の規定を入れる」のような注記もあるので、空欄を埋める要領で自社用にできます。
各章の解説には、「なぜこの条文が必要なのか」「変更する場合の注意点」が書かれているので、解説をそのまま社内資料としても使えます。
別冊規程(賃金・退職金など)の扱い
モデル就業規則の本体に賃金・退職金などの章はありますが、実務的には別冊規程として切り分けるのが一般的です。本体には「賃金については別途定める賃金規程による」と1行入れて、詳細は別の規程に書く形ですね。
別冊にすると、賃金や退職金など改定頻度の高い項目を独立して見直せるので、管理がラクになります。
モデル就業規則を使った作成の4STEP

ダウンロードしたモデル就業規則を自社用に仕上げる手順を、4ステップに整理します。
まずはWord版とPDF版の両方をダウンロードして、PDFで全体を一度読み通します。「うちの会社にあるルール」と「ないルール」をざっくり分けながら、解説を読みつつ進めます。
条文の解説部分は、自社で就業規則を整備するときの考え方の参考になるので、印刷して書き込みながら読むのもおすすめです。
モデル就業規則には、自社にない制度の条文も含まれています。たとえば「退職金制度がないのに退職金規程がある」「テレワーク制度がないのに在宅勤務の条文がある」だと、後でトラブルになります。
自社で実際に運用していない制度の条文は、まるごと削除します。「将来導入するかもしれないから残しておこう」は危険なので、現在運用していないものは思い切って消すのが基本です。
逆に、自社で運用していてもモデル就業規則に書かれていない項目は、追加で書き込みます。業種特有のルール(飲食店の制服・売上管理、IT企業の機密情報管理など)が該当します。
「ここに入れていいのか分からない」項目があれば、近い章の末尾に追加するか、別冊規程として切り出すか、社労士に相談して決めるのが安全です。
仕上げに、労働基準法で求められる絶対的必要記載事項(労働時間・賃金・退職)と、自社で運用している制度に関する相対的必要記載事項が漏れていないかを最終チェックします。
不安があれば、この段階で社労士にスポットチェックを依頼するのが安心です。労基署への届出後の手戻りを防げます。
使うときの重要な注意点
モデル就業規則は便利ですが、そのまま使うとリスクがある箇所もあります。実務で気をつけるところを整理します。
そのまま使うのは危険(実態と乖離するリスク)

これが一番大きな注意点です。モデル就業規則をそのままコピーして届出するのは、後でトラブルの原因になります。
たとえば「労働時間は1日8時間、週40時間とする」と書いてあるのに、実際は変形労働時間制で運用している、というケースだと、就業規則と実態が違うことで残業代の計算が狂って、未払賃金問題に発展することがあります。
必ず自社の実態に合わせて修正することが、最重要のポイントです。
適用範囲の規定は特に注意(パート・アルバイトの扱い)
第1章「適用範囲」の規定は、特に重要です。「この就業規則は誰に適用するのか」を曖昧に書くと、意図せずパートやアルバイトにも全条文が適用される、ということになりかねません。
たとえば「全従業員に適用する」と書いてあると、パート用の別ルール(短時間勤務・休暇日数・賃金など)を運用していても、就業規則が優先されてしまいます。正社員向け、パート向けで別の就業規則を作るか、適用範囲を明確に分けるのが安全です。
厚労省「政策反映」の規定は方針と合わない場合あり
モデル就業規則には、厚労省の政策推進の意図が反映された条文が含まれています。たとえば副業・兼業を「届出制」で認める条文がデフォルトで入っていますが、会社の方針として副業を禁止している場合は、ここを変更する必要があります。
政策推進の条文を意図せず採用してしまうと、後で「就業規則で認められているはず」と労働者から主張されることがあるので、自社方針との整合性を必ずチェックしてください。
副業・兼業、勤務間インターバル等の最新項目
最近のモデル就業規則には、次のような最新項目が含まれています。
- 副業・兼業の届出制
- 勤務間インターバル制度
- 不妊治療休暇
- 議員立候補休暇(令和7年12月版で追加)
- 犯罪被害者等の被害回復休暇
これらは「努力義務」または「任意導入」の項目なので、自社で導入していなければ削除します。導入する場合も、自社の規模・体制で対応可能かを検討してから取り入れてください。
改訂のたびにアップデートが必要
モデル就業規則は、おおむね数年に1回のペースで改訂されます。法改正に対応した内容なので、自社の就業規則も定期的にアップデートする必要があります。
毎年4月の年度始めに「最新版が出ていないか」をチェックする習慣をつけておくと、法改正の漏れを防げます。
関連する別冊規程のひな形

就業規則本体と合わせて、別冊規程のひな形も整備しておくと運用がスムーズです。
賃金規程・退職金規程
就業規則本体に含めずに、別冊として切り分けることが多い規程です。賃金体系(基本給・各種手当・賞与)と退職金(計算方法・支給条件)を分けて作ると、改定時に他の条文に影響を与えずに済みます。
厚労省のモデル就業規則の中に賃金・退職金の条文があるので、それを抽出して別冊化するのが現実的です。
育児・介護休業規程
育児介護休業法の改正が頻繁にあるので、別冊規程として独立させておくと改定対応がしやすいです。厚労省や各地の労働局が「育児・介護休業等に関する規則の規定例」を公開しているので、こちらをベースにします。
在宅勤務(テレワーク)規程
テレワークを導入している会社では、別冊規程として整備が必要です。労働時間管理・通信費負担・情報セキュリティ・労災適用範囲などをまとめます。厚労省「テレワークモデル就業規則」が参考になります。
ハラスメント防止規程
パワハラ防止法(令和4年4月から中小企業も義務化)で、ハラスメント防止のための社内ルール整備が必須になりました。就業規則本体に含めるか、別冊で「ハラスメント防止規程」として作るかは会社次第ですが、別冊にした方が見やすいです。
旅費規程
出張が頻繁にある会社では、出張旅費・宿泊費・日当の計算ルールを定めた旅費規程が必要です。就業規則とは別冊にして、毎年の物価動向に合わせて調整するのが運用しやすいですね。
民間・社労士事務所のテンプレートを使う場合
モデル就業規則以外にも、民間や社労士事務所が提供しているテンプレートはたくさんあります。使うときのポイントです。
信頼できるソースの選び方
民間ひな形を使うときは、提供元の信頼性が大事です。次のような基準で選ぶといいです。
- 社労士事務所・法律事務所が監修している
- 最終更新日が明示されていて、最新法改正に対応している
- 解説や注意点が併記されている
- 業種特化型なら、実際にその業種で運用された実績がある
業種別ひな形(飲食・小売・IT系など)
業種に特化したひな形は、それぞれの業界特有のルールが盛り込まれているので、便利です。
- 飲食店:シフト勤務・賄い・売上管理・身だしなみ
- 小売店:レジ売上の管理・棚卸・接客マナー
- IT系:機密情報管理・成果物の権利帰属・テレワーク
- 建設業:安全衛生・現場での服務
- 運送業:運転業務・事故対応・健康管理
有料テンプレートはどこまで違うか
社労士事務所が販売している有料テンプレート(数万円程度)は、無料版より作り込まれていることが多いです。違いは主に次のような点です。
- 使用者寄りの条文設計(解雇事由・懲戒事由が具体的)
- 判例を踏まえた条文表現
- 業種特有のリスクへの対応
- カスタマイズ相談がセットになっていることも
会社のリスクが大きい業種(労務トラブルが起きやすい業種)では、有料テンプレートの方が安心感はあります。
最終的には社労士チェックが安全
どんなテンプレートを使う場合でも、最終的には社労士のチェックを入れるのが安全です。テンプレートが古かったり、自社の実態と合わなかったりするケースを、専門家の目で見てもらえます。
スポット相談なら数万円程度で受けてもらえることが多いので、新規作成・大幅改定のタイミングでは入れておきたいですね。
よくある質問(FAQ)
- モデル就業規則は完全に無料ですか?
-
はい、完全に無料です。厚生労働省の公式サイトからダウンロードして自由に使えます。商用利用・カスタマイズ・社内配布も問題ありません。
- 古いバージョンのモデル就業規則を使っていたら、すぐ更新すべき?
-
すぐ全部書き換える必要はありませんが、法改正対応箇所(育児介護休業法・ハラスメント防止・賃金デジタル払いなど)は反映が必要です。最新版と見比べて、差分の大きい部分だけ改定するのが現実的です。
- 自社業種に合った規定例はモデル就業規則にありますか?
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モデル就業規則は業種を問わず使える一般的な内容なので、業種特有のルール(飲食・建設・IT・運送など)は別途追加が必要です。業種特化の条文例は、社労士事務所のひな形や業界団体の資料を参考にするのがおすすめです。
- 外国語版・やさしい日本語版は実務で使えますか?
-
労基署への届出は日本語版で行いますが、外国語版・やさしい日本語版は外国人労働者への周知用として活用できます。日本語が母語ではない労働者にも理解しやすい形で就業規則を伝えることができ、労務トラブル防止にも役立ちます。
- モデル就業規則を改変したら、改変後の使用報告は必要?
-
厚労省への改変報告は不要です。自由にカスタマイズして自社の就業規則として使えます。労基署に届出するのは、改変後の最終版(自社の就業規則)です。
まとめ
モデル就業規則のポイントをおさらいします。
- 就業規則ひな形は厚労省「モデル就業規則」令和7年12月版を使うのが基本
- Word版(カスタマイズ用)とPDF版(読む用)の両方をダウンロード
- 全11章+表彰制裁の構成。各条文に解説付き
- 使い方は「全体を読む→自社にない条文を削除→自社固有のルールを追記→法定要件を最終確認」の4STEP
- そのまま使うのは危険。適用範囲・政策推進の条文・自社実態との整合性は必ずチェック
- 賃金・育児介護・テレワーク・ハラスメント・旅費は別冊規程として整理するのが運用しやすい
- 業種特有のルールは民間ひな形や社労士事務所のテンプレートで補強
- 最終チェックは社労士に依頼するのが安全
まずは厚労省の公式モデル就業規則をダウンロードしてみるのが、最初の一歩としておすすめです。法的にも安心で、解説付きなので、自社で整備するときの大きな手助けになります。



