出張の精算をしていると、「移動に半日かかったけど、この移動時間って労働時間に入れるの?」「日当って税金がかかるんだっけ?」と迷うことがあると思います。出張は、通常の勤務とは労働時間の数え方も、お金の扱いも少し違うので、整理しておかないと処理に迷いやすい分野です。
ポイントになるのは「労働時間の取扱い」と「出張旅費規程」の2つです。特に出張旅費規程は、きちんと作っておくと日当を非課税にできるなど、会社にも従業員にもメリットがあります。
今回は、出張時の移動時間の考え方、事業場外みなし労働時間制、そして出張旅費規程と日当の非課税ルールまで、担当者目線でまとめました。
毎月の給与計算の全体的な流れは給与計算入門~初心者の方にやり方・ルールなどの全体の流れでまとめているので、あわせてご覧ください。

出張をめぐる賃金・労働時間の基本
まず、出張まわりの基本的な考え方を整理しておきます。

出張とは(日帰り・宿泊)
出張とは、通常の勤務地を離れて、別の場所で業務を行うことです。日帰りのものもあれば、宿泊をともなうものもあります。会社によって「◯km以上」「◯時間以上」を出張とする、といった線引きを設けていることが多いですね。
旅費は賃金ではない(実費弁償)
最初に押さえておきたいのが、出張の交通費や宿泊費といった旅費は、賃金ではないという点です。これらは仕事のためにかかった費用を会社が負担する「実費弁償」にあたります。
賃金ではないので、社会保険料の計算のもとになる報酬や、割増賃金の計算の基礎にも含めません。給与とは切り分けて考えるのが基本です。
押さえる論点は「労働時間」と「旅費規程」の2つ
出張で担当者が迷いやすいのは、大きく2つに分けられます。1つは「移動時間などを労働時間として扱うのか」という労働時間の問題、もう1つは「旅費や日当をいくら・どう払うか」という旅費規程の問題です。この記事でも、この2つに分けて見ていきます。
出張中のけが・事故は労災になる?
もう1つ知っておきたいのが、出張中のけがや事故の扱いです。出張は会社の命令で業務のために移動・滞在しているので、その間のけがや事故は、原則として業務災害(労災)の対象になります。移動中や宿泊先での災害も、業務に付随するものとして広く労災と認められやすいのが特徴です。
ただし、出張先で観光に出かけたときなど、業務とまったく関係のない私的な行動中のけがは、労災にならないこともあります。出張中に何かあったときは、業務との関連を確認したうえで労災の手続きを進めることになります。
出張の移動時間は労働時間になる?
まず、よく質問される移動時間の扱いからです。

原則:移動時間は労働時間ではない
出張先への移動時間は、原則として労働時間には当たらないとされています。電車や飛行機での移動中は、本を読んだり眠ったりと過ごし方が本人に任されていて、会社の指揮命令下にあるとはいえないためです。
そのため、移動時間そのものに対して賃金(残業代など)を払う義務は、原則ありません。これは通勤時間が労働時間にならないのと同じような考え方ですね。
例外:労働時間になるケース
ただし、移動が単なる「移動」にとどまらない場合は、労働時間になることがあります。
- 移動中に物品(商品・現金など)の監視・運搬を指示されている
- 移動中に資料作成や打ち合わせなど、具体的な業務を指示されている
- 上司や同僚を車で送迎するなど、移動自体が業務になっている
こうした場合は、移動時間でも会社の指揮命令下にあるとみて、労働時間として扱う必要があります。「移動だから一律ノーカウント」ではなく、その移動中に何を指示しているかで判断するのがポイントです。
休日の移動は休日労働になる?
「日曜に移動して、月曜から出張先で仕事」というケースもあります。この休日の移動も、上の原則どおり、単なる移動であれば休日労働には当たりません。
とはいえ、休日をつぶして移動してもらうことに変わりはないので、会社によっては休日移動について手当(出張手当・休日移動手当など)を支給しているところもあります。法律上の義務ではありませんが、従業員の納得感のために設けておくとよい部分だと思います。
事業場外みなし労働時間制(労働基準法38条の2)
出張先での労働時間をどう数えるか、という問題に関わるのが「事業場外みなし労働時間制」です。

みなし労働時間制とは
出張や外回りの営業のように、事業場の外で働いていて、会社が実際の労働時間を把握しにくい場合があります。こういうときに、あらかじめ決めた時間を働いたものと「みなす」のが、事業場外みなし労働時間制です(労働基準法第38条の2)。
実際の労働時間がきっちり測れなくても、一定時間働いたとみなして賃金計算ができる、という仕組みですね。
「所定労働時間みなし」と「通常必要時間みなし」
みなす時間には、大きく2つのパターンがあります。
- 所定労働時間みなし:原則として、その日は所定労働時間(例:8時間)働いたものとみなす
- 通常必要時間みなし:その業務を行うのに通常必要な時間が所定労働時間を超える場合は、その「通常必要な時間」働いたものとみなす(労使協定で定めることが多い)
たとえば、どう考えても10時間かかる出張業務なら、所定の8時間ではなく10時間分とみなす、という形です。
適用できないケース(随時指示・スマホで連絡可能)
注意したいのが、このみなし制は「労働時間を算定しがたい」ときにだけ使える点です。最近は、出張中でもスマホやメールで常に連絡が取れるため、適用できないと判断されるケースが増えています。
【注意】みなし制が使えない例
・複数人で出張し、その中に労働時間を管理する人(上司など)がいる
・会社から随時、業務の指示を受けながら動いている
・スマホやスケジュール管理ツールで、いつでも報告・指示ができる状態になっている
こうした場合は労働時間が把握できるとみなされ、みなし制は使えません。安易に「出張だからみなしでOK」とせず、実態で判断する必要があります。
みなしでも深夜・休日割増は別途必要
もう1つ大事なのが、みなし労働時間制を使っても、深夜労働や休日労働の割増賃金は別途必要だという点です。みなしの対象になるのはあくまで「労働時間の長さ」だけで、深夜・休日のルールまで免除されるわけではありません。
たとえば、みなし制で出張した人が深夜に働けば、その深夜分の割増は支払う必要があります。「みなしだから割増は一切なし」というのは誤解なので注意してください。
出張旅費規程とは?含める項目
ここからはお金の話、出張旅費規程です。
出張旅費規程の役割
出張旅費規程とは、出張のときに支給する交通費・宿泊費・日当などの基準をまとめた社内ルールです。「いくらまで・どんな方法で支給するか」をあらかじめ決めておくものですね。
規程があると、出張のたびに「いくら払う?」と個別に判断せずに済み、精算がスムーズになります。さらに、後で説明するように税務上のメリットもあります。
含める項目(交通費・宿泊費・日当の支給基準)
出張旅費規程には、おおむね次のような項目を盛り込みます。
- 交通費:利用できる交通手段(新幹線の座席種別・航空機の利用基準など)
- 宿泊費:1泊あたりの上限額(実費 or 定額)
- 日当:1日あたりの定額(食事・諸雑費の補助)
- 出張の定義:何kmまたは何時間以上を出張とするか
- 精算の方法・期限:申請・精算の手続き
役職別・距離別の区分
日当や宿泊費は、役職別(一般社員・管理職・役員)や、出張の距離・地域別(近距離・遠距離・海外)に分けて金額を設定するのが一般的です。役職が上がるほど日当も高め、という会社が多いですね。
ただし、後で触れるように、あまりに役職間の差が大きすぎると税務上問題になることもあるので、合理的な範囲で区分するのがコツです。
日当の非課税ルールと出張旅費規程のメリット
出張旅費規程を作る大きな理由が、日当を非課税にできる点です。

日当が非課税になる3つの条件
出張の日当や旅費は、次の条件を満たせば非課税で支給できます(国税庁の取扱い)。
【日当が非課税になる3条件】
① その出張に通常必要と認められる範囲の金額であること
② 役職などに応じて、全社員のあいだでバランスが取れた基準であること
③ 同業他社や世間の相場と比べて、適正な金額であること
これらを満たすために、基準を明文化した出張旅費規程が必要になる、というわけです。規程なしに「なんとなく日当1万円」と払っていると、給与とみなされて課税されるおそれがあります。
旅費規程を作るメリット(非課税・会社の損金・精算の効率化)
出張旅費規程を整備するメリットをまとめると、次のとおりです。
- 従業員側:日当を非課税で受け取れる(所得税・住民税がかからない)
- 会社側:支給した日当を経費(損金)にできる
- 事務側:金額の基準が決まっているので精算が早く、判断のブレがない
従業員にとっては手取りが増え、会社にとっては節税につながる、という双方にメリットのある仕組みです。出張が多い会社ほど効果が大きくなります。
高すぎる日当は否認される
注意したいのは、節税になるからといって日当を高く設定しすぎると、税務調査で「これは実質的な給与だ」と否認されるリスクがある点です。
相場からかけ離れた高額な日当(たとえば日帰りで日当3万円など)は、通常必要な範囲を超えているとみなされかねません。日当の金額は、実際にかかる食事代や諸雑費から見て常識的な範囲に収めるのが安全です。
出張旅費規程を作る・運用するときの注意点
最後に、規程を作って運用するときの実務的な注意点です。
全社員でバランスを取る
非課税の条件にもあったとおり、日当は全社員のあいだでバランスが取れていることが大切です。役員だけ極端に高い、特定の人だけ優遇する、といった設定は避けて、役職に応じた合理的な差にとどめましょう。
実費精算との使い分け
交通費・宿泊費は実費精算、日当は定額支給、という使い分けが一般的です。日当は食事代などの細かい出費をいちいち精算しなくて済むようにするためのもので、領収書なしで定額を渡せるのが利点です。
一方、交通費や宿泊費まで定額にすると実態と合わなくなりやすいので、こちらは実費精算にしている会社が多いですね。
インボイス・電子帳簿保存法での保存
出張の交通費・宿泊費を経費として処理するときは、原則として領収書(インボイス)の保存が必要です。電子帳簿保存法により、メールやアプリで受け取った電子領収書は電子データのまま保存することが求められます。
なお、インボイス制度の開始により、以前あった「3万円未満は領収書なしで帳簿のみでよい」という特例は原則として廃止されました。電車・バスなどの公共交通機関(3万円未満)や自動販売機といった一部の取引では今も帳簿のみの保存が認められますが、それ以外は金額にかかわらずインボイス(適格請求書・領収書)の保存が必要です。出張が多い会社は、立替精算のルールもインボイス対応に合わせて見直しておきたいところです。
なお、日当は実費精算ではなく定額支給なので、日当そのものに領収書は不要です(ただし出張の事実が分かる出張報告書などは残しておくと安心です)。
まとめ
出張の労働時間は、移動時間は原則として労働時間にならず、業務の指示があるときだけ労働時間になる、というのが基本です。労働時間を把握しにくい出張には事業場外みなし労働時間制を使える場合もありますが、スマホで常時連絡が取れる今は適用できないケースも多く、深夜・休日割増は別途必要な点に注意が必要です。
お金の面では、旅費は賃金ではなく実費弁償で、出張旅費規程を整えれば日当を非課税で支給でき、会社の損金にもなります。出張が多い会社ほど、規程を作るメリットは大きいです。
出張の処理や規程づくりの参考にしてください。
出張の労働時間・旅費に関するよくある質問
- 日当に上限額の決まりはありますか?
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法律で「いくらまで」という明確な上限額は定められていません。ただし、非課税で支給するには「通常必要と認められる範囲」「全社員でバランスが取れている」「世間相場と比べて適正」という条件を満たす必要があります。相場からかけ離れた高額な日当は、給与とみなされて課税されたり、税務調査で否認されたりするおそれがあるので、常識的な金額にとどめましょう。
- 出張先で残業した場合、残業代は必要ですか?
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必要です。出張先での実際の業務時間が把握できる場合は、通常どおり法定労働時間を超えた分に残業代が発生します。事業場外みなし労働時間制を適用している場合でも、深夜・休日の割増は別途必要です。みなし制だからといって、出張先での割増賃金が一切不要になるわけではありません。
- 海外出張の日当も非課税になりますか?
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なります。海外出張の日当も、国内出張と同じく、出張旅費規程にもとづいて通常必要と認められる範囲で支給すれば非課税です。海外は物価や治安の事情が国内と異なるため、国内出張より高めに設定するのが一般的で、その差自体は合理的であれば問題ありません。海外出張用の区分を旅費規程に設けておくとよいでしょう。
- パート・アルバイトにも出張旅費規程は適用されますか?
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適用できます。出張旅費規程は雇用形態にかかわらず適用でき、パート・アルバイトが出張した場合も、規程に沿って旅費や日当を非課税で支給できます。むしろ、正社員だけに日当を出してパートには出さない、といった扱いは、同一労働同一賃金の観点から問題になることもあるので、規程の適用範囲を明確にしておきましょう。
- 出張旅費規程がなくても日当を払えますか?
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支給すること自体はできますが、規程がないと非課税の根拠を示しにくく、給与として課税されるリスクが高くなります。日当を非課税で支給したいなら、出張旅費規程を整備し、支給基準を明文化しておくのが安全です。規程は会社の規模に関係なく作成でき、出張が少ない会社でも作っておく価値があります。
- 日帰り出張でも日当を出していいですか?
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問題ありません。日帰り出張に日当を支給するかどうかは会社の判断ですが、出張旅費規程で「日帰り出張の日当」を定めておけば、宿泊出張と同様に非課税で支給できます。金額は宿泊をともなう出張より低めに設定するのが一般的です。規程に日帰り・宿泊それぞれの日当を分けて記載しておくと、運用がスムーズです。
参考リンク
- 所得税法(e-Gov法令検索)(第9条第1項第4号 非課税となる旅費)
- No.6459 出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い(消費税の取扱い)|国税庁
- 労働基準法(e-Gov法令検索)(第38条の2 事業場外労働のみなし労働時間制)
- 労働基準に関する制度|厚生労働省




