「来月から別の部署へ異動してほしい」「グループ会社へ出向してもらいたい」——会社が社員に異動を命じる場面はよくあります。でも、「これって本人が嫌だと言ったらどうなるんだろう」「そもそも会社は自由に異動を命じられるの?」と不安になる方は多いと思います。
私も総務で異動の手続きに関わるなかで、社員から「納得できない」と言われ、対応に悩んだことがあります。異動命令には、有効になるための要件があり、それを外れると無効になることもあります。
今回は、配転命令・出向命令が有効になる要件と、社員に拒否されたときの対応を整理しました。トラブルを避けて適切に異動を進めたい総務・人事の方の参考になればうれしいです。
配転命令・出向命令とは?会社の人事権
まずは、会社が異動を命じる権限について整理しておきましょう。
会社は人事権で異動を命じられる
会社には、社員の配置を決める「人事権」があります。配置転換や転勤を命じる配転命令、別の会社で働いてもらう出向命令も、この人事権にもとづくものです。組織を運営していくうえで、適材適所に人を配置することは会社にとって必要なことです。
ただし無制限ではない(権利の濫用は無効)
とはいえ、会社は何でも自由に命じられるわけではありません。異動は社員の仕事や生活に大きく影響するため、行きすぎた命令は権利の濫用として無効になることがあります。会社の都合だけでなく、社員への影響にも目を向けることが大切です。
異動の種類のおさらい
異動には、同じ会社の中で行う配置転換・転勤と、別の会社へ移る出向・転籍があります。本記事では、おもに配置転換・転勤を命じる配転命令と、在籍したまま別の会社で働く出向命令について見ていきます。それぞれの違いについては、人事異動の種類を整理した記事もあわせて参考にしてください。
配転命令が有効になる要件
配転命令が有効と認められるには、いくつかの条件があります。順に見ていきましょう。

就業規則・雇用契約の根拠がある
まず前提として、就業規則や雇用契約に異動を命じられる根拠が必要です。「業務の都合により、配置転換や転勤を命じることがある」といった定めがあって、はじめて会社は異動を命じられます。根拠規定があるか、就業規則を確認しておきましょう。就業規則の整え方は、就業規則のひな形を紹介した記事も参考になります。

権利濫用にならない3つの観点
根拠があっても、その命令が権利の濫用にあたると無効になります。裁判例では、次の3つの観点から判断されています。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 業務上の必要性 | その異動に、業務上の必要性があるか |
| 動機・目的 | 嫌がらせなど、不当な動機・目的によるものでないか |
| 社員の不利益 | 社員が通常受け入れるべき程度を、著しく超える不利益を与えていないか |
業務上の必要性がなかったり、退職に追い込む目的だったり、社員に大きすぎる不利益を負わせたりする命令は、権利の濫用として無効になりやすいので注意しましょう。
職務・勤務地限定の合意がある場合は注意
採用のときに「この職種で」「この勤務地で」と限定する合意がある場合は、その範囲を超える異動には本人の同意が必要になります。たとえば「勤務地は本社のみ」と約束して採用した社員に、一方的に転勤を命じることはできません。限定して採用した社員には、とくに注意が必要です。
出向命令が有効になる要件
出向は別の会社で働くことになるため、配転よりも要件が重くなります。

就業規則・出向規程などの根拠と労働者の同意
出向を命じるには、就業規則や出向規程などに根拠があることに加え、労働者の同意が必要とされます。同意は、出向の可能性や出向中の労働条件があらかじめ整備され、入社時などに包括的に同意が得られていれば足りる場合もあります。出向先での仕事内容や処遇が明確になっていることが大切です。
出向先での労働条件への配慮
出向によって、給与や勤務地などの労働条件が大きく下がると、社員の不利益が大きくなります。出向元と出向先で、給与の負担や処遇の取り扱いをきちんと取り決め、社員が不利益を被らないよう配慮することが求められます。
権利濫用は無効
出向命令も、必要性がなかったり、対象者の選び方が不当だったり、社員に大きすぎる不利益を与えたりする場合は、権利の濫用として無効になります。配転と同じく、業務上の必要性と社員への配慮のバランスが問われます。
社員に拒否されたときの対応
異動を命じたものの、社員に拒否されることもあります。そんなときは、次の流れで対応しましょう。

なぜ拒否するのか、理由をよく聞きます。育児・介護や健康上の事情など、配慮すべき理由があるかもしれません。頭ごなしに命令を押し通さず、まずは話を聞きましょう。
事情に応じて、時期の調整や手当などの配慮ができないか検討します。そのうえで、異動の必要性や会社の考えを丁寧に説明し、納得してもらう努力をします。
いつ、どんな説明をし、どんなやり取りがあったかを記録します。後でトラブルになったとき、会社が誠実に対応したことの証拠になります。
育児・介護などへの配慮
異動、とくに転勤を命じるときに忘れてはいけないのが、育児や介護への配慮です。
育児・介護を行う社員の転勤には配慮義務
育児・介護休業法では、転勤などで就業場所を変える際、育児や介護を行う社員について、その状況に配慮することが会社に求められています。たとえば、小さな子どもがいる社員や、家族の介護をしている社員に転勤を命じる場合は、その事情に配慮する必要があります。
配慮を欠くと権利濫用と判断されやすい
こうした配慮を欠いたまま転勤を強行すると、社員に著しい不利益を与えたとして、権利の濫用と判断されやすくなります。社員の家庭の事情を確認し、配慮できることはないかを検討する姿勢が、トラブル防止につながります。
トラブルを防ぐためのポイント
最後に、異動をめぐるトラブルを防ぐためのポイントをまとめます。日ごろの備えが大切です。
まず、就業規則や出向規程に異動の根拠規定を整備しておくこと。次に、異動を命じる際は、必要性を社員に丁寧に説明し、家庭の事情にも配慮すること。そして、説明や対応の経緯を記録に残しておくことです。会社が誠実に対応していれば、たとえ争いになっても、不当な命令ではないと示しやすくなります。日ごろから、根拠の整備と丁寧な手続きを心がけましょう。
まとめ
配転命令・出向命令は会社の人事権にもとづくものですが、無制限ではありません。就業規則などの根拠があること、そして権利の濫用にあたらないこと(業務上の必要性・不当な動機目的でない・著しい不利益を与えない)が、有効になるための要件です。出向は別の会社で働くため、労働者の同意や処遇への配慮がより重く求められます。
社員に拒否されたら、まず理由を聞き、配慮できる点を検討して説明を尽くすことが大切です。とくに育児・介護を行う社員への配慮は欠かせません。根拠規定の整備と丁寧な手続き、記録を心がけて、納得感のある異動を進めましょう。
よくある質問
- 異動を拒否した社員を解雇できますか?
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正当な異動命令を、正当な理由なく拒否し続ける場合は、業務命令違反として処分の対象になりえます。ただし、いきなり懲戒解雇のような重い処分は、かえって会社が不利になることがあります。まずは理由を聞いて配慮を検討し、説明を尽くすことが大切です。処分は段階的に、慎重に進め、判断に迷うときは専門家に相談しましょう。
- 勤務地限定で採用した社員に転勤を命じられますか?
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採用時に「勤務地はここだけ」と限定する合意がある場合は、その範囲を超える転勤を一方的に命じることはできません。転勤させたい場合は、本人の同意が必要です。勤務地や職務を限定して採用した社員には、とくに注意しましょう。逆に、限定の合意がなく就業規則に根拠があれば、転勤を命じられる場合が多いです。
- 出向に本人の同意は必要ですか?
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出向は別の会社で働くことになるため、原則として労働者の同意が必要とされます。ただし、就業規則や出向規程で出向の可能性や出向中の労働条件があらかじめ整備され、包括的な同意があると認められる場合は、個別の同意がなくても命じられることがあります。いずれにせよ、出向先での処遇への配慮は欠かせません。
- 単身赴任になる転勤も命じられますか?
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単身赴任を伴う転勤も、就業規則に根拠があり権利の濫用にあたらなければ、命じられる場合が多いです。ただし、育児や介護の事情がある社員には配慮が必要です。単身赴任そのものは通常受け入れるべき範囲とされることが多いですが、家庭の事情によっては著しい不利益と判断されることもあるため、個別の事情をよく確認しましょう。
- 異動命令が無効になるのはどんなときですか?
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就業規則などの根拠がない場合や、権利の濫用にあたる場合に無効となります。具体的には、業務上の必要性がない、退職に追い込むなど不当な動機・目的による、育児介護への配慮を欠くなど社員に著しい不利益を与える、といったケースです。また、勤務地や職務を限定する合意に反する命令も、本人の同意がなければ無効になります。




