
「今使っている給与計算ソフトのサポートが終了する」「料金体系が変わるから他社と比較検討が必要になった」——そんな状況に直面している給与計算担当者の方へ今回の記事をまとめました。
筆者自身、まさにこの状況を経験し、使用していた給与計算ソフトが新サービスへ移行するのに合わせて料金体系が大きく変わることになり、他のサービスとの比較検討が必要になったのです。
締め切りは現状のサービスが終了するまでの約1年。時間があるようで、実際に動き出すと「思っていた以上に大変だった」というのが正直な感想です。
この記事では、筆者が実際に経験した給与計算ソフトの入替について、「導入ソフト・サービスを決定するまで」の流れと注意点をまとめます。後編では実際の移行作業について解説する予定です。
【実務での注意点】安易に給与計算ソフトは変えるべきではない
給与計算ソフトの入替は想像以上に手間がかかります。そもそも給与計算ソフトに大差はなく、「変えてみたけど、しんどいだけで終わった」というケースも少なくありません。複数拠点がある場合はさらに大変ですし、データ変換も完璧には行えません。本当に変える必要があるのか、まずはしっかり検討することをおすすめします。
給与計算ソフトを入れ替える主な理由
給与計算ソフトを入れ替える理由は、大きく分けて以下のようなものがあります。
1. サポート終了・制度対応終了
これは「待ったなし」の理由です。ずっと使っていた給与計算ソフトの開発やサポートが終了し、法改正への対応ができなくなってしまうケースです。
筆者のケースもこれに該当しました。使用していたソフトが2026年12月にプログラムメンテナンス終了(制度対応終了)となるため、それまでに新しいサービスへの移行が必須という状況でした。
2. コスト見直し・料金体系の変更
ソフトのバージョンアップやクラウド移行に伴い、料金体系が大きく変わることがあります。これを機に他社との比較検討を行うケースは多いです。
3. 機能面の課題解決
現在のソフトでは以下のような課題が解決できない場合、入替を検討することになります。
- 給与項目数に制限がある
- クラウド対応していないため、リモートワークに対応できない
- Web明細に対応していない
- 電子申請に対応していない
- サポートがメール対応のみで不十分
- 操作画面が使いづらい
4. 親会社・グループ統一などの外部要因
顧問の会計事務所や社労士事務所と同じソフトを使うことになった、子会社化されて親会社が指定したソフトを使わざるを得ない——このような外部要因による入替もあります。
この場合は比較検討の余地がなく、指定されたソフトへスムーズに移行することが課題になります。
【参考】筆者のケースでの課題整理
上司への報告資料作成にあたり、現状の課題を以下のように整理しました。
現行ソフトの課題:
- 給与項目数に制限がある
- 現状クラウドではないため、送金部署へ送金締日にメール等での受信では時間がかかる
別途導入済ソフトの課題:
- 初期設定に時間がかかる
- 担当者の教育や使い慣れるのに時間がかかる。担当者のITスキルも必要
- 従業員個人別入力画面の処理が見づらく操作しづらい
- サポートが基本メール対応のみ。FAQやマニュアル類も少ないため分かりにくい
- 設定項目が多く、エラー表示が多発する
入替の全体スケジュールと流れ
給与計算ソフトの入替は、以下のような流れで進めていきます。
理想的なスケジュール(1年前からの逆算)
| 時期 | やるべきこと |
|---|---|
| 12ヶ月前 | 現状の課題整理、必要な条件の定義開始 |
| 10〜11ヶ月前 | 候補ソフトの選定、見積もり依頼 |
| 8〜9ヶ月前 | 見積もり比較、デモ・試用の実施 |
| 6〜7ヶ月前 | 導入ソフトの決定、契約 |
| 3〜5ヶ月前 | 初期設定、データ移行準備、担当者教育 |
| 1〜2ヶ月前 | 並行稼働(テスト運用) |
| 移行月 | 本番稼働開始 |
【重要】1月から移行がおすすめ
給与計算業務は1月から12月まで毎月徴収した所得税を年末調整で精算して1年が終わります。年末調整を行う給与計算ソフトには1年間の給与支給データが蓄積されている必要があります。
年の途中でソフトを変更すると、当年の給与・賞与データの移行が必要になり、作業が煩雑になります。12月支給の給与までは現在のソフトを使用し、その年の年末調整も現在のソフトで行い、翌年1月から新しいソフトで給与計算を開始するのがベストです。
まず最初にやるべきこと〜必要な条件を定義する〜
給与計算ソフトを一口に言っても、給与計算するだけの場合もあれば、勤怠管理や明細配信、年末調整などすべてを含んだり、その一部を含んだりと、各社のサービスは様々です。
まずはどのサービスが必要なのかを条件として定義するところから始める必要があります。
現状の機能の棚卸し
現在使用しているソフトで利用している機能を洗い出します。
- 給与計算(月給・日給・時給対応)
- 賞与計算
- 年末調整
- 法定調書作成
- 社会保険料計算
- 給与明細発行(紙 or Web)
- 勤怠管理との連携
- 会計ソフトとの連携
- マイナンバー管理
- 電子申請(e-Gov)
解決したい課題の明確化
現在のソフトで困っていることを具体的にリストアップします。これが新しいソフト選定の重要な判断基準になります。
担当者のITスキル・教育コストの考慮
筆者のグループでは15名前後で給与計算を行っていますが、年齢層や技術レベルもバラバラです。1年という期限を考えると、ある程度移行が簡単なものに限られてきます。
高機能なソフトでも、担当者が使いこなせなければ意味がありません。操作のしやすさやサポート体制は重要な選定ポイントです。
【チェックリスト】条件整理シート
| 項目 | 必須 | あれば良い | 不要 |
|---|---|---|---|
| 給与計算機能 | □ | □ | □ |
| 年末調整機能 | □ | □ | □ |
| 法定調書作成 | □ | □ | □ |
| Web給与明細 | □ | □ | □ |
| 勤怠管理連携 | □ | □ | □ |
| 電子申請対応 | □ | □ | □ |
| マイナンバー管理 | □ | □ | □ |
| 複数法人対応 | □ | □ | □ |
| 電話サポート | □ | □ | □ |
| データ移行支援 | □ | □ | □ |
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給与計算ソフトの種類と特徴
インストール型 vs クラウド型
給与計算ソフトは大きく「インストール型」と「クラウド型」に分けられます。
| 比較項目 | インストール型 | クラウド型 |
|---|---|---|
| 導入方法 | PCにソフトをインストール | インターネット経由でログイン |
| 初期費用 | 高め(買い切り) | 低め〜無料 |
| 月額費用 | なし〜保守料のみ | 従業員数に応じた月額 |
| 法改正対応 | 手動でアップデート必要 | 自動でアップデート |
| 利用場所 | インストールしたPCのみ | どこからでもアクセス可能 |
| バックアップ | 自社で管理 | 自動バックアップ |
| 向いている企業 | セキュリティ重視、長期利用前提 | リモートワーク対応、初期費用を抑えたい |
近年はクラウド型が主流になっており、法改正への自動対応やリモートワーク対応のメリットから、多くの企業がクラウド型を選択しています。
機能範囲によるタイプ分類
| タイプ | 特徴 | 向いている企業 |
|---|---|---|
| 給与計算特化型 | 給与計算機能に特化。勤怠管理は別ソフトと連携 | すでに勤怠管理ソフトを導入済みの企業 |
| 人事給与タイプ | 給与計算+勤怠管理+労務管理を一元管理 | 人事労務全体を効率化したい企業 |
| ERPタイプ | 会計・販売・人事給与など基幹業務を統合管理 | 大企業、グループ会社管理が必要な企業 |
【注意】会社によって商品群・サービスが違う
同じ会社でも複数の商品ラインナップがあり、それぞれ対応範囲が異なります。例えば「給与計算」と「年末調整」が別サービスになっている場合や、「給与明細電子化」がオプション扱いの場合があります。見積もり時には、必要な機能がすべて含まれているかを必ず確認しましょう。
どの会社に見積もりを取るべきか〜候補の絞り方〜
ここで筆者が困ったのが、「主要各社」がどこなのかがわからなかったことです。
市場シェアナンバーワンと謳っている会社は世の中にたくさんあり、給与計算ソフトも山のようにあります。この中からすべて見積もりを取るわけにはいきません。
従業員規模別の市場シェア
色々と調べていくうちに、従業員規模によって市場シェアが変わることがわかりました。
| 従業員規模 | シェア上位のソフト |
|---|---|
| 1〜99人(中小企業) | 弥生シリーズ、freee人事労務、マネーフォワードクラウド給与 |
| 100〜999人(中堅企業) | 奉行シリーズ、CCS給与計算、SmartHR |
| 1,000人以上(大企業) | COMPANY、OBIC7、SAP |
厚生労働省の情報を活用する
厚生労働省では「毎月勤労統計調査対応 給与計算ソフトの例」として、調査票作成機能を有する市販ソフトを公開しています。知名度の高いソフトがリストアップされているため、候補選定の参考になります。
参考:厚生労働省「毎月勤労統計調査対応 給与計算ソフトの例」
【実体験】6〜7社に絞った経緯
筆者のケースでは、グループ会社合計で約1,000人規模だったため、100人から999人の中堅企業向けで市場シェアが高いところを中心に選定しました。
ChatGPTなどのAIで主要シェアを調べたり、比較サイトの情報を参考にしながら、最終的に以下の6社に絞って見積もり依頼を行いました。
- 給与奉行クラウド(OBC)
- PCA給与クラウド
- MJS給与大将
- SmartHR
- マネーフォワード クラウド給与
見積もり依頼から比較検討まで
見積もり依頼時に伝えるべき情報
見積もり依頼の際は、以下の情報を伝えるとスムーズです。
- 会社名・業種
- 従業員数(正社員・パート別)
- グループ会社数(複数法人の場合)
- 現在使用しているソフト
- 必要な機能(給与計算、年末調整、Web明細など)
- 利用予定のユーザー数(操作する担当者数)
- 希望する導入時期
見積もり内容の読み方・注意点
出てきた見積もりを比較検討していくのですが、ここでまた困ったのが「含まれる機能の違いが見積もり価格の比較検討を妨げる」ことです。
例えば、A社の見積もりには年末調整機能が含まれているが、B社は別料金——このような違いがあると、単純な価格比較ができません。
【注意】複数人で給与計算を行いIDを別に発行する場合
ID(ユーザーライセンス)の発行費用が高額になるケースがあります。1ユーザーあたりの追加料金を必ず確認しましょう。特にグループ会社で複数の担当者が操作する場合は、この費用が大きな差になることがあります。
【実例】コスト比較表
筆者が上司に提出した資料では、以下のような形でコスト比較を行いました。
※グループ17社、従業員900名の場合の一人当たりの単価比較(勤怠管理システムは除く給与計算、給与明細、年末調整等の関連サービスを含めた金額)
| 項目 | 給与奉行クラウド | PCA | MJS | SmartHR | マネーフォワード |
|---|---|---|---|---|---|
| 初期費用(円/人) | 456 | – | 8,728 | 0 | 3,000 |
| 月額費用(円/人/月) | 361 | 198 | 384 | 600 | 570 |
| 法定調書込みの場合 | 538 | – | – | – | – |
※PCAの初期費用は詳細打合せ後でないと計算不可との返答がありました。
機能・サービス面での比較ポイント
価格だけでなく、機能・サービス面での比較も重要です。給与計算は法定対応が前提のため機能面では差が少なく、価格やサポート面などの比較が中心になります。
比較すべき主なポイント
1. 給与計算機能の充実度
- 複雑な給与体系への対応
- 給与項目のカスタマイズ性
- 自動計算の精度
2. 年末調整対応
- 年末調整機能が標準装備か、オプションか
- 従業員がWeb上で申告書を提出できるか
3. タイムカードなどの勤怠管理機能への対応の有無
- 勤怠管理機能が内蔵されているか
- 外部の勤怠管理システムと連携できるか
- 連携可能な勤怠システムの種類
4. 総務・人事・身上管理の対応
- 従業員の人事情報を管理できるか
- 入退社手続きに対応しているか
- 身上変更(住所変更、扶養変更など)の管理機能
- 労務管理・社会保険手続きとの連携
5. Web明細・電子申請対応
- 給与明細のWeb配信が可能か
- e-Gov電子申請に対応しているか
6. サポート体制
- 電話サポートがあるか(メールのみは不便)
- リモートサポート対応
- マニュアル・FAQの充実度
7. データ移行支援・導入サポート
- 他社ソフトからのデータ移行支援があるか
- 導入時の教育・研修サポート
- 初期設定の支援
8. マルチ法人・グループ対応
- 複数法人を一元管理できるか
- 法人間でのデータ切り替えが容易か
【比較表】主要6社の機能比較
※各社カタログ、ネット評価、使用者のインタビュー等により作成
| 比較項目 | 給与奉行クラウド | PCA | MJS | SmartHR | マネーフォワード |
|---|---|---|---|---|---|
| 給与計算機能 | ○ 高度な給与体系に対応 | ○ カスタマイズ性が高い | △ 給与機能は弱め | △ 計算対応は限定的 | ○ 自動計算が高精度 |
| 年末調整対応 | ○ 標準装備 | ○ 専用モジュールで対応 | ○ 機能あり | ○ 標準装備 | ○ 標準装備 |
| 勤怠連携 | ○ 外部勤怠と連携可能 | ○ 勤怠ソフト連携可 | △ 他ソフトで補完 | ○ 自社勤怠と連携 | ○ 多数勤怠連携可能 |
| Web明細 | ○ 対応 | ○ 対応 | △ 明細出力限定 | ○ 標準 | ○ 対応 |
| 電子申請対応 | ○ 対応 | △ 一部申請は手動 | △ 手続きは一部外部 | ○ 対応 | △ 別途連携 |
| サポート対応 | ○ TEL/WEB/リモート | △ メール中心 | △ 製品ごと異なる | ○ チャット・電話 | △ チャット中心 |
| 操作マニュアル | ○ 詳細なマニュアル完備 | ○ 操作マニュアル完備 | △ 一部マニュアルあり | ○ チュートリアル充実 | ○ オンラインマニュアル完備 |
| データ移行支援 | ○ スムーズな移行支援 | ○ 他ソフトからの移行支援 | △ 導入支援に弱い | ○ 導入支援プランあり | △ 一部移行支援 |
| 導入教育 | ○ 導入教育が充実 | ○ 電話・訪問支援あり | △ 教育支援限定 | ○ 研修・伴走サポート | ○ 簡易サポートあり |
| 操作のしやすさ | ○ 多機能だが操作に慣れると早い | △ UIはやや複雑 | △ UIはやや複雑 | △ 個人別入力がやりづらい | △ 個人別入力がやりづらい |
| グループ管理・マルチ法人対応 | ○ マルチ法人に強い | ○ マルチ法人設定可能 | △ 複数法人は一部制限 | △ 画面で法人切替可 | △ 複数法人切替可 |
よくある質問(Q&A)
Q1. 給与計算ソフトはどれも同じではないのですか?
A. 基本的な給与計算機能は各社とも法令に準拠しているため大きな差はありません。しかし、操作性、サポート体制、連携機能、価格体系には大きな違いがあります。特に、従業員規模やグループ会社の有無によって最適なソフトは変わってきます。
Q2. 無料の給与計算ソフトでも大丈夫ですか?
A. 従業員数が少ない(5人以下など)場合は無料ソフトでも対応可能なケースがあります。ただし、機能制限やサポートがない場合が多いため、法改正への対応や年末調整機能などを確認した上で選択してください。
Q3. データは完全に移行できますか?
A. 残念ながら、データ変換は完璧には行えません。従業員マスタや過去の給与データを移行する際、項目の対応付けや形式変換が必要になります。特に独自の給与項目を多く設定している場合は、手作業での調整が必要になることがあります。
Q4. 導入までどのくらいの期間が必要ですか?
A. 一般的には6〜8ヶ月程度を見込んでおくとよいでしょう。ソフトの選定、契約、初期設定、データ移行、担当者教育、並行稼働テストなど、各工程に時間がかかります。1月稼働を目指す場合は、遅くとも前年の6月頃には検討を開始することをおすすめします。
Q5. 複数人でIDを使う場合の注意点は?
A. ID(ユーザーライセンス)の発行費用が高額になるケースがあります。1ユーザーあたりの追加料金を必ず確認しましょう。グループ会社で複数の担当者が操作する場合は、この費用が大きな差になることがあります。
Q6. クラウド型は本当に安全ですか?
A. 主要なクラウド給与計算ソフトは、データの暗号化、アクセス制限、自動バックアップなど、高度なセキュリティ対策を施しています。自社でサーバーを管理するよりもセキュリティ面で安心できるケースも多いです。ただし、ログ管理やIP制限など、具体的なセキュリティ機能は製品によって異なるため、確認が必要です。
Q7. 決定前にデモや試用は必要ですか?
A. 必ず実施することをおすすめします。カタログや説明だけではわからない操作感や、実際の業務フローに合うかどうかを確認できます。多くのソフトで無料トライアルやデモが用意されているので、積極的に活用しましょう。
まとめ〜後編へ続く〜
この記事では、給与計算ソフトの入替について「導入ソフト・サービスを決定するまで」の流れと注意点をまとめました。
【本記事のポイント】
- 安易に給与計算ソフトは変えるべきではない——そもそも大差はなく、しんどいだけで終わるケースも多い
- まずは条件を定義する——必要な機能、解決したい課題、担当者のスキルを整理
- 従業員規模によって最適なソフトは異なる——市場シェアを参考に候補を絞る
- 見積もりは機能の違いに注意——含まれるサービス範囲を揃えて比較
- 価格だけでなくサポート体制も重視——電話サポートの有無、マニュアルの充実度
- 1月から移行がおすすめ——年の途中では入力が面倒
- ID発行費用に注意——複数人で操作する場合は高額になることも
後編では、実際にソフトを決定した後の「移行作業」について、データ移行の方法や並行稼働のポイントなどを解説する予定です。
